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離縁から半月後。
コバンザメこと公爵邸では悲壮感が漂っていた。
調度品をはじめ贅沢品の数々に差し押さえ札が貼られ、身の置き場は床くらいであった。

目の前にあるのにソファに座れない、テーブルもしかり。
寝具も押さえられているので床に寝るしかなかった、庶民向けの質素なベッドならば助かったかもしれない。

明日にはここを出なければならない、しかし財産は持ち出せないので惨めこの上ない。
本来ならば猶予期間が与えられるが「逃亡隠蔽の疑い有」と裁判所から判断が下された。

伯爵家に融資を受けていながら、借金の返済をしていなかったからである。
どこまでも愚かな公爵家。
加えて離縁理由が元公爵家に有責と判決が下り、融資金返還と慰謝料の支払い命令も下された。


「父上」
「……なんだ、バカ息子」
「バカは父です、バカ。なんで返済してなかったんですか。」
責めるバカ息子に目を逸らし愚痴を零す。

「だって大穴だと思った馬が落馬して……、でも万馬券が取れたり。まーあれだ総じて負け越したのがよくなかったな、うん」
「賭け事はほどほどにと申したでしょう!ギャンブルは勝てない仕組みなんですよバカですか!」

「お前だって色事ばかり現をぬかしておったろうが!知ってんだぞ、レイチェル以外に愛人が5人もいることを!バーカバーカ!チOコ腐って死ね!」

「お前が死ね!」

公爵家は取り潰しになった、貴族を続けるには高額な税金を納めなければならない。
領地運営もできない無能なのだから当たり前の結果だ。

爵位はないが借金はある。
「父上、借金も財産だって聞いたことがあるよ」
「阿呆、くだらんことを言わず手足を動かせ」

かつての領地でバカ親子は農地開拓を強いられている。
身体はきついがご飯はうまい、雑穀やクズ野菜のスープが妙に美味しい。

農道に腰掛けて昼飯を食べている。
「不思議だ、ただの野菜なのに」
「新鮮な野菜は美味いんだよ、ほれ食ってみな」

雇い主の農夫がぶちりと抜いて葉野菜を寄越した。
恐々齧ると甘い味が広がった、ダニエルは驚く。
「野菜がこんなに甘くてうまいなんて……」

美味い野菜を食う家畜は元気に働くし、畜産動物は美味い肉に育つのだと農夫が言う。
「そうか、知らなかったよ」

貴族だった頃の贅沢な食事は、彼らが支えてくれていたのだと今更理解して泣いた。
だが一方で慣れない農作業にウンザリしていた父は農地から消えた。


後に盗みに手を染め、手配書が出回るほどの犯罪者に落ち、とある子爵家へ強盗に入り捕縛される。
しばらくしてダニエルが慰問に訪れた。
牢獄に入った父は、かつての威厳のかけらすらないジジィになっていた。

「父さん、俺が作った野菜だよ。食べるかい?」
責める言葉も浴びせずにダニエルは面会した。
病に伏した父は床について動けない状態だった、特別に牢内で面会が許された。温情から察するに長くないのだろう。

丸かった体躯はすっかりやせ細り身を震わせて父は泣いた、だが衰弱した体では野菜は食べられなかった。
目を閉じて「ありがとう」そう言うとそのまま眠るように逝った。
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