融資できないなら離縁だと言われました、もちろん快諾します。

音爽(ネソウ)

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滞り始めた貴族税を見ぬふりしてきた公爵家。

税務局から最後通告が届いた、同時に降爵辞令が国王から通達された。
それは厳しいもので一気に子爵になるよう命ぜられた。

「歴史ある我がカバリル家にこのような無慈悲な……愚王め!我らが先祖代々忠義をつくしてきた恩を忘れたか!」

かつて三国間で起きた国境問題で戦争が勃発した際、カバリル家は先頭に立ち義勇軍を引き、国土が削れるのを防ぎおおせた。その功績に英雄の名誉を賜った。

だがそれは2代前の話。
その英雄譚に胡坐をかいた現当主は公爵の評判を地に落とした。
己が招いた不幸も不興も顧みない、評価しない世間が悪いのだと喚くばかりだ。

同格になったマゼニル子爵をはじめ、金回りのよさそうな子爵男爵、はては平民の大商人にまで擦り寄った。
だが曰くつき、借金付きのカバリル家はなかなか相手にされなかった。

各家御令嬢の中には見目の良いダニエルに興味を持つものがいたが、「正妻だが愛人より下扱い」を宣言する愚息に呆れて去って行く。



「ダニエル!まだあの女を捨ててないのか!?わし達には後がないのだぞ!」
「お言葉ですが愛の無い結婚を強いられ耐えるのは俺です!レイチェルだけは手放すものか!」

烈火の如く怒り狂った公爵はダニエルを殴り倒した。
「虚け者が!婚姻の条件に愛人優先を宣言するなど馬鹿か!結びたがる家などないわ!」
「そ、そんな……」


バカげた行為を繰り返すうちに、平民にすら白い目で見られ煙たがれた。
門前払いが当たり前になっていた。

***

好きでもない相手におべっかを使い、褒める言葉を無理矢理捻出した日々。
「こちらが下手にでていればバカにしやがって!復興したらみておれ!愚民が!」

身も心も疲れ果てたダニエルは、愛しいレイチェルに癒されようと居室に向かう。
「レイチェル、キミの好きなレアチーズケーキを買ってきたよ」

部屋には誰もいない、メイドを呼ぼうと鈴を鳴らしたが賃金が払えず逃げられたことを思い出す。
「チッ!たかが3か月ただ働きさせただけだろうが、英雄の生家で働ける名誉に喜べ!」

子爵に落ちたことをすっかり抜け落ちた頭で、いない相手を罵倒する。

ブツブツと文句を垂れながらレイチェルを探す、食堂も書庫にもいなかった。
馬車はあるので外出はありえない。

「かくれんぼのつもりかいマイエンジェル?可愛い顔をみせておくれ」
甘い声をだして愛し人を邸内中探し歩いた。しかし返ってくる声はなかった。

カバリル家の貴金属がゴッソリ持ち出されたのを知るのは翌日のことだった。
レイチェルはとうに見限っていたのだ。
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