融資できないなら離縁だと言われました、もちろん快諾します。

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
上 下
5 / 13

しおりを挟む
滞り始めた貴族税を見ぬふりしてきた公爵家。

税務局から最後通告が届いた、同時に降爵辞令が国王から通達された。
それは厳しいもので一気に子爵になるよう命ぜられた。

「歴史ある我がカバリル家にこのような無慈悲な……愚王め!我らが先祖代々忠義をつくしてきた恩を忘れたか!」

かつて三国間で起きた国境問題で戦争が勃発した際、カバリル家は先頭に立ち義勇軍を引き、国土が削れるのを防ぎおおせた。その功績に英雄の名誉を賜った。

だがそれは2代前の話。
その英雄譚に胡坐をかいた現当主は公爵の評判を地に落とした。
己が招いた不幸も不興も顧みない、評価しない世間が悪いのだと喚くばかりだ。

同格になったマゼニル子爵をはじめ、金回りのよさそうな子爵男爵、はては平民の大商人にまで擦り寄った。
だが曰くつき、借金付きのカバリル家はなかなか相手にされなかった。

各家御令嬢の中には見目の良いダニエルに興味を持つものがいたが、「正妻だが愛人より下扱い」を宣言する愚息に呆れて去って行く。



「ダニエル!まだあの女を捨ててないのか!?わし達には後がないのだぞ!」
「お言葉ですが愛の無い結婚を強いられ耐えるのは俺です!レイチェルだけは手放すものか!」

烈火の如く怒り狂った公爵はダニエルを殴り倒した。
「虚け者が!婚姻の条件に愛人優先を宣言するなど馬鹿か!結びたがる家などないわ!」
「そ、そんな……」


バカげた行為を繰り返すうちに、平民にすら白い目で見られ煙たがれた。
門前払いが当たり前になっていた。

***

好きでもない相手におべっかを使い、褒める言葉を無理矢理捻出した日々。
「こちらが下手にでていればバカにしやがって!復興したらみておれ!愚民が!」

身も心も疲れ果てたダニエルは、愛しいレイチェルに癒されようと居室に向かう。
「レイチェル、キミの好きなレアチーズケーキを買ってきたよ」

部屋には誰もいない、メイドを呼ぼうと鈴を鳴らしたが賃金が払えず逃げられたことを思い出す。
「チッ!たかが3か月ただ働きさせただけだろうが、英雄の生家で働ける名誉に喜べ!」

子爵に落ちたことをすっかり抜け落ちた頭で、いない相手を罵倒する。

ブツブツと文句を垂れながらレイチェルを探す、食堂も書庫にもいなかった。
馬車はあるので外出はありえない。

「かくれんぼのつもりかいマイエンジェル?可愛い顔をみせておくれ」
甘い声をだして愛し人を邸内中探し歩いた。しかし返ってくる声はなかった。

カバリル家の貴金属がゴッソリ持ち出されたのを知るのは翌日のことだった。
レイチェルはとうに見限っていたのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

真実の愛かどうかの問題じゃない

ひおむし
恋愛
ある日、ソフィア・ウィルソン伯爵令嬢の元へ一組の男女が押しかけた。それは元婚約者と、その『真実の愛』の相手だった。婚約破棄も済んでもう縁が切れたはずの二人が押しかけてきた理由は「お前のせいで我々の婚約が認められないんだっ」……いや、何で? よくある『真実の愛』からの『婚約破棄』の、その後のお話です。ざまぁと言えばざまぁなんですが、やったことの責任を果たせ、という話。「それはそれ。これはこれ」

私を売女と呼んだあなたの元に戻るはずありませんよね?

ミィタソ
恋愛
アインナーズ伯爵家のレイナは、幼い頃からリリアナ・バイスター伯爵令嬢に陰湿ないじめを受けていた。 レイナには、親同士が決めた婚約者――アインス・ガルタード侯爵家がいる。 アインスは、その艶やかな黒髪と怪しい色気を放つ紫色の瞳から、令嬢の間では惑わしのアインス様と呼ばれるほど人気があった。 ある日、パーティに参加したレイナが一人になると、子爵家や男爵家の令嬢を引き連れたリリアナが現れ、レイナを貶めるような酷い言葉をいくつも投げかける。 そして、事故に見せかけるようにドレスの裾を踏みつけられたレイナは、転んでしまう。 上まで避けたスカートからは、美しい肌が見える。 「売女め、婚約は破棄させてもらう!」

あなたが見放されたのは私のせいではありませんよ?

しゃーりん
恋愛
アヴリルは2年前、王太子殿下から婚約破棄を命じられた。 そして今日、第一王子殿下から離婚を命じられた。 第一王子殿下は、2年前に婚約破棄を命じた男でもある。そしてアヴリルの夫ではない。 周りは呆れて失笑。理由を聞いて爆笑。巻き込まれたアヴリルはため息といったお話です。

愛人がいる夫との政略結婚の行く末は?

しゃーりん
恋愛
子爵令嬢セピアは侯爵令息リースハルトと政略結婚した。 財政難に陥った侯爵家が資産家の子爵家を頼ったことによるもの。 初夜が終わった直後、『愛する人がいる』と告げたリースハルト。 まごうことなき政略結婚。教会で愛を誓ったけれども、もう無効なのね。 好きにしたらいいけど、愛人を囲うお金はあなたの交際費からだからね? 実家の爵位が下でも援助しているのはこちらだからお金を厳しく管理します。 侯爵家がどうなろうと構わないと思っていたけれど、将来の子供のために頑張るセピアのお話です。

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛

Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。 全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

義理姉がかわいそうと言われましても、私には関係の無い事です

渡辺 佐倉
恋愛
マーガレットは政略で伯爵家に嫁いだ。 愛の無い結婚であったがお互いに尊重し合って結婚生活をおくっていければいいと思っていたが、伯爵である夫はことあるごとに、離婚して実家である伯爵家に帰ってきているマーガレットにとっての義姉達を優先ばかりする。 そんな生活に耐えかねたマーガレットは… 結末は見方によって色々系だと思います。 なろうにも同じものを掲載しています。

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

処理中です...