融資できないなら離縁だと言われました、もちろん快諾します。

音爽(ネソウ)

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カバリル家当主ザウラー公爵は次のひがいしゃを吟味立てするのに余念がない。
たった半年で伯爵家が傾いたのは誤算だったと渋面だ。
ギャンブルが好きで、食道楽の彼は伯爵家のワインが気にいっていた。王国一と称えられたあの味を只で呑めなくなったのを悔しがる。

そして狡猾なザウラーはラーボック侯爵家、マゼニル子爵家。そうターゲットを絞っているところだ。


「父上、ラーボックにしましょう、子爵家では格下すぎます」
「なぜだね?あそこが運営してる商会は加工品流通が安定してきて、業績が一気に上がったと聞いた。潤沢な資産があれば下位貴族でも問題なかろうが」


奸智に長けているザウラーは訝しい顔をする、彼の中では金があればなんでも良いのだ。

愚息ダニエルがさらに水を注す。
「レイチェルですよ」
「あの売女は関係ないだろ、あんなもの捨ててしまえ!替えなどいくらでもおるわ!」
卑しい元娼婦のレイチェルを公爵は嫌っている、自分を棚上げして金食い虫と罵っていた。

「お待ちを!俺の考えを聞いてくださいよ。彼女を侯爵家の養女に薦めるのです。俺はレイチェルを正妻にしたいのです。子爵では婚姻に支障がある、俺は金はどうでもいい。ラーボックには娘がいませんからね。そこをごり押しするんですよ。養女になった彼女と俺が結婚すれば金はいくらでも吸い取れる!」


「はん!そんなにあの女が良いのか?愚かな」
「どうとでも、まぁ彼女を着飾らせる金子くらいは貰いますけどね」
愚息はニタリと下卑た笑顔を向けた。

やっぱり金喰い虫だと公爵は毒づく。
「良かろう、脅しと場は私が作ってやる、うまく動いて見せよ。失敗したらあの女は捨てろ」
「わ、わかりました!我が愛の為にこなしてみせますよ!」


ザウラーは愛だなんだと青臭いことを言う倅に苛立つ、育て方を間違えたかと眉間に皺を作る。
「ふん、情などで腹は膨れぬわ」
公爵はそう吐き捨て、今日も美酒と血の滴る霜降り肉を貪る。でっぷり膨らんだ腹には、粗悪な脂身が詰まっているに違いない。

***

毒婦レイチェルがベッドの上で甘い声でダニエルを呼ぶ。
「俺のシュガーマフィン、愛しい人。なにかお強請りかい?」
「うふ、察しが良い貴方。大好きよ、ねぇ……わたしの耳元が寂しいと思わない?」

ダニエルが彼女の耳たぶを甘く噛んで囁く。
「そうだね、指と胸元にも飾ろう。それと上品なドレスもだ」
その言葉にレイチェルの顔が輝く。

「ああダニーなんて素敵なの!でもどうして?」
金蔓を失ったばかりの彼が妙なことを言うもんだと呆れる。

「キミと結婚する未来が開けそうなんだよ。レイチェル、キミは侯爵令嬢になるんだ。ラーボック家の養女になれば身分差で引き裂かれることは無くなるぞ!」

目の前の男の発言に(何をバカな)と内心思いつつ、「とても素敵な計略だわ」と称賛した。
浮世の辛酸を舐めて生きてきた、元娼婦のレイチェルの方が冷静な目を持っていたのだ。
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