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最終話
しおりを挟むあれから一年後、ベルティナは王子妃になり穏やかな暮らしをしていた。愛される喜びに怖いくらいだと言う。紛い物だった愛はとうに忘れている。
「愛しくて堪らないよベル、心から愛しているよ」
「まあ、フェロ……恥ずかしいわ、でもとても嬉しい」
彼らはベランダにでて城下を見下ろし、民たちも幸せでありますようにと願う。そして軽く口づけを交わす。
遠くから教会の鐘の音が聞こえてくる、なんて幸せなひと時だろうとベルティナは思うのだ。
「さあ、部屋へ戻ろうか少し冷えて来たよ」
「ええ、そうね」
二人仲良く連れだってベランダの扉を閉じた。
***
「罪人アマデオ、何か言い残す言葉はあるか?」
執行人が定型文のような台詞を吐く、それを一瞥してアマデオは「なにも」と言う。今更に残す言葉などありはしないと薄く笑う。
「ああ、お可哀そうなお兄様!私だけは味方よ!ずっと一緒にいましょうね!アハハハッ」
同じ口から女の声が聞こえて来た、胡散臭いものを見る目で執行人はアマデオを見つめる。
「サンドラというのはアレの双子の妹なのです、僅か6歳で儚くなりました。良くある熱病に侵されてね……いつからかわかりませんが、アマデオはその妹を己の中で育てたのでしょう。そうしなければ自我を保てなかったに違いない哀れな子です」
卿は淡々とそう言葉を紡ぐ、今日はアマデオが処刑される日だ。彼は滂沱に涙を流して懺悔する。
「なぁ、アレッシ卿よ。検体として彼を欲しがる医者がいるのだが、どうだろう?延命してやるかわりにアマデオを寄越さないか?」
「そ、それはアマデオが処刑されないということですか?」
「ああ、そうさ。いかれた頭が欲しいらしいんだ。それを望む医者も大概だと思うがな」
「そうですか……」
それから罪人アマデオは秘密裡に刑場から姿を消した、行く先はどこか、知る者はいない。ただ、森深い場所に佇む館から女なのか男なのか、不明な野太い笑い声が時折聞こえてくると後に噂がたった。
完
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