完結 婚約破棄をしたいのなら喜んで!

音爽(ネソウ)

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傷心

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何度目か分からない溜息を吐いてベルティナは呟く。
これも失恋と呼ぶべきものなのかと、だが答えは出ない。確かに彼女はフェロに恋心をいだいていたし、歌劇オペラの誘いは嬉しかった。

それでも身分を隠して接してきたラファエロ殿下を信じ難い人だと思う。ワンクッションを置いた配慮だったとしても許せないのだ。

「はぁ~私はいったいどうしたら……」
どこか素直になれない自分に嫌悪してもいるのだ。

「私ってこんなに性格が悪かったかしら?あぁ、いっそ王命だと言って婚約を強行して欲しいわ」
そうすれば諦めもつくというものだと彼女はジレンマするのだ。

王子殿下からは詫び状と花束が毎日届いていた、あちらはあくまでベルティナの気持ちを優先すると言っている。それもまた狡いと彼女は思うのだ。

「わかりきっているわ、私の心はフェロに奪われているの……」


6通目の手紙が届いた時、彼女はやっと返事を書いた。
”今度、ゆっくり話をしましょう”と、書きたいことは山ほどあったが、とりあえずはそれだけを綴ったのだ。

「おお、ベルティナ嬢から返事がきた!会いたいという意味で良いのだよな?」
「はい、その通りかと……ですが早合点はしませんように」
側近のひとりが苦笑してそう答えた。

「今度こそは間違えない、ラファエロとして会いに行こう!」


***


あれから塞ぎ込んでいたベルティナは漸く元気を取り戻し、街へ出かけるまでになった。
「殿下にお土産を買いましょう、たくさんの花を連日頂いてますもの」
「はい、その通りです!いま流行の紅茶など如何ですか?それとも焼き菓子が宜しいでしょうか」
「ふふ、張り切っているわね」

興奮気味の侍女を見つめて彼女は微笑む、「お嬢様には幸せになっていただかないと」と言っている。侍女もまた良縁が決まり、来春には嫁ぐ予定なのだ。

「貴女の分も買いましょう、ほんのお礼よ」
「わあ!ありがとうございます!」

護衛兵を引き連れて紅茶店に入る、少々手狭だったが仕方ないだろう。まだ仮だったが王子妃になろうとしている彼女の警護は些か大袈裟になっている。きっと気楽に町に寄るのはこれが最後かもしれない。

店内には貴族婦人が幾人かいた、皆それぞれ雑貨を見て周るのに忙しくしている。
ベルティナは花の香りがする茶葉に夢中だ、試飲はいかがかと声をかけられる。喜んでそれを受けると芳醇な香りにウットリした。

「なんて美味しいのかしら、……あら?あれは何?」
視界の端に珍しいものを見た彼女はふらりとそちらに向かった。侍女も慌ててそちらに出向く。
「お嬢様、待ってください!」

茶器が並ぶそこは狭くて移動に難儀した。ところが辿り着いた時にはベルティナの姿はそこになかった。
「お嬢様?お嬢様ー!」



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