完結 婚約破棄をしたいのなら喜んで!

音爽(ネソウ)

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庭園の麗人2

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「会いたかったよベルティナー!」
「あらぁ、何方?」
咲き誇る薔薇に紛れてその麗人はクスリと微笑んでいた。扇で顔を隠しているがベルティナに間違いないと彼は顔を綻ばせる。

「く、ふふふふっ……なんて愚かで浅慮なことだろう、なぁ?アマデオ・アレッシ殿」
「え?何を言っているんだ、ベルティナ」
訝しい顔で彼女に近づく彼はベルティナと思っている人物に手を出した、なんの抵抗もせずそれを受け入れる彼女に気を良くする。

そして、手の甲に唇を落とそうとした時、バシンと頭を叩かれた。

「痛っ!酷いよベルティナ!どうして……」
「どうして?気色の悪い事をするからだろうが、私はそんな趣味はない」
「なにを……」

「まだわからないのか」とその人物は侮蔑の視線を送ってきた、薄紫のドレスだと思っていたものはローブ風の紳士服だった。扇は母親のものを失敬していたのだ。長めに伸ばした髪の毛をパサリと払った。

彼の名はアンドレア・ルーベンス、今年で14歳だ。背格好が姉のベルティナにそっくりだった為にアマデオは勘違いした。遠目では違いがよくわからないほど似ている。

「馬鹿だなぁ、姉上と見間違えるなんて」
「えぇ?」
「何を勘違いしているのだ、アマデオ子爵令息」冷淡に眺める彼の目は笑っていない。漸く誰なのか理解した彼は怒りだす。


「キミはアンドレアか!な、なんて悪趣味な!」
「おや、キミに言われる筋合いはないな。嫌がる姉上をそうやって眺めているなんて無粋だと思うよ」
「な!」

顔を赤らめて激高するアマデオは悔しそうに歯噛みする、ワナワナと唇を震わせて「大きな世話だ!」と言った。だが、それは悪手だった。

「おや、逆切れかい?ならば次期ルーベンス伯爵として言わせて貰う、今すぐここから立ち去れ!いつまで姉上に執着する気なのだ恥を知れ!」
「うぐっ……」
痛い所を衝かれたアマデオは一気に顔色を悪くした、次期伯爵を名乗るアンドレアに対して何も反論できない。

「いい加減に弁え給え、いくらゴネようと姉上の心は離れているのだ」
「……そんなはずはありません、彼女はボクを」
「しつこいな、そんなだから嫌われているというのに」

「し、失礼した!ボクはこれで」
「ふん、痴れ者が」


そして、歩いて帰宅したアマデオを待っていたのは妹のサンドラだった。「兄様!」と甘ったれた声を出して腕に抱き着いてくる。
「なんだいサンドラ、ボクは草臥れているんだ……」
「いいじゃないのぉ、それともまたイルミナに慰めて貰う?」
「イルミナか……」

その名を思い浮かべて下腹部が熱くなった、豊満な身体と甘い顔の彼女は実に煽情的だ。
急激に会いたくなった彼は帰宅したばかりだというのに馬車を用意させて走らせるのだった。



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