完結 冗談で済ますつもりでしょうが、そうはいきません。

音爽(ネソウ)

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「お勉強?えーっと何を学ぶのかしら」
10歳に満たない記憶を持つセレンジェールには少々スパルタだと思われたが、そこは心を鬼にして母親自ら教師を申し出た。

「いまの貴女を人前には出せませんからね、チューターも雇えないわ。だから基本を教えるのは私です、宜しい?」
「はい、お母様。頑張りますねぇ」
彼女はどこまで理解しているのか「ニッコリ」微笑むと自らデスクに向かう。幼少期にも些細な勉強をしてきた彼女は学ぶことが好きなようだ。

それから、あっと言う間に基本を身に着けて首を傾げる「どこかで学んだ気がするわ」と言う。母は感動して「その通りよ、私のセレン」と大喜びした。


「奥方、気持ちはわかるが、些か逸り過ぎのようだと思うのだが」
政務の合間を縫ってやってきたディオンズ・ギガジェント皇子は喜びを隠せない彼女に苦笑する。セレンジェールはレイモンと積み木で遊んでいて、時々「そこは違うわ」と怒っていた。

「ですがね、皇子殿下。やはりあの子の幸せを思えば一日でも早く記憶を取り戻してやりたいのですわ」
「いや、はぁ……確かにそうなのですが」

前のめりになって夫人は皇子に詰めよる、セレンジェールに良く似た顔で迫るのでドギマギする。違うところは金髪が濃くオレンジがかっているところだろうか。

「や、わかりますよ、彼女はいまが一番美しい時だ。女神のようだと思います」
「そうでしょう、そうでしょうとも!やはりディオンズ様のもとへ嫁入りすべきなのですわ!」
「え、えええええ!?」

ブワリと脂汗を垂らすディオンズは顔を真っ赤に染めて「そ、そんな私など」と呟く。しかし、何もかもお見通しだといわんばかりに"にっこり”微笑む夫人は「ほんとうの花嫁になるのが楽しみですわ」と言った。

「わかってますのよ、その熱い視線!セレンは幸せ者ですわ」
「は、ははは……」


***


一方、沙汰が決まって牢獄を出て行くコランタム・アネックスは「はぁ、漸くか」と安堵の声を漏らしていた。長いこと出されなかった彼は「やっと父上が許す気になったのだ」と思っている。

「さっさと歩かんか!手間を執らせるな」
「な、なにおう!俺を誰だと!貴様の顔は覚えたぞ、幾度も粗末な飯を持ってきた看守だろう!ここを出た暁には一番に報復を」
「はいはい、わかったわかった。出来たらいいな」
「なっ!貴様~覚えておれ!」

終始、夢物語を語るコランタムに耳を貸すのも面倒だと看守は何度も小突いて歩かせる。その度に恨み言をいってくるので益々と煩わしい。

「はぁ~娑婆だ、娑婆の空気……何度夢見たことか、おい、先ずは風呂に入りたい。仕度しろ」
だが、看守は相変わらず無視をしてとある部屋へコランタムを追いやった。

何をするんだと文句を言うがバタンとドアを閉められた。そこには粗末な文机と汚い椅子が鎮座している。昏い牢獄にいた彼は目を瞬かせて漸く目の前に人が座っているのに気付く。

「はっ!父上?父上じゃないですか、良かった話が分かる人物に会えた!」
だが、目が落ちくぼんだ父親の目には生気がなく「ああ、バカ息子」と言うのがやっとだった。

「なんですか、父上。それにその粗末な形は、王としての誇りを忘れたのですか?ハハハハッ」
「……ではない、王ではないのだバカ息子」
「え?」










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