14 / 32
14
しおりを挟む「……う、う~ん、喉が渇いた……リリお願い」
「お嬢様!あぁ良かった!申し訳ございませんでした!私がトイレに行っていたばかりに」
「え、リリ?何を言っているの?それよりもここは何処?」
目覚めたばかりのセレンジェールは混乱しているのか、まるで事態が把握できていない様子だ。どこかポカンとしている。あれから彼女はすぐに病院へ連れられたのだが、意識が戻ったのは十日ほど経った頃だった。
「意識の混濁……無理もないさ、あんなことがあったのだから、レイモン医者を呼べ」
「あぁ、承知した。お嬢ちゃん、いや~良かったよぉ」
レイモンはナースコールをして「意識が戻った、医者をよろしく」と魔道具を通して言った。その様を恐々と見ているセレンジェールだ、色々と追い付かない様子だ。
「あ、あの……この方たちは、リリ……あらぁ?ずいぶん大人ぽくなったのねぇ」
「え?何をお嬢様はいってらしゃるのです?私はずっと前から大人ですよ~しっかりしてくださいな」
「ええ~あれぇ?」
今度は侍女のほうがポカンとしている、どうにも意思の疎通がうまく行っていない。
***
「記憶障害だと!?なんという事だ……では彼女は記憶が欠落しているのかい?」
「一概にいえませんが、恐らく。話を聞いた限りでは幼少期まで記憶後退しています。幼児退行を起こしているといいますか」
「なん……だと?」
セレンジェールはなんと王子と婚約する以前の記憶しか持っていなかった。精神的苦痛から逃げ出したいばかりにそのような症状に見舞われたのではないかと、医者の見解である。
「では、私達はこれで失礼するよ。その、時々は見舞いにきても良いだろうか?」
「え、はい!もちろんですとも」侍女は大慌てで応える。
こうして一旦、ディオン・ギガジェント皇子は王城へと戻って行った。
「はぁ、問題が山積みだな、政権交代に政務の見直し、それに次代の王を選ばねば、いっそ王政を失くしてしまおうか。そしてバカ王子の処遇もあるぞ」
「そうだねぇ、いっそ共和制にしたほうが風通しは良さそうだ。貴族らからは不満の声があがりそうだが」
「ふん、腐った政治にはつきものだな」
今の彼は正直なところセレンジェールのことで一杯だった、だがそうも言ってられず、歯噛みする。
「あぁ、セレン……キミのことが気がかりだよ」
「お嬢様、御両親がおいでになりましたよ。わかりますか?」
「えーと、うん。御父様、お母様……でも変ねぇ?御父様はずいぶんと……おじい様みたいだわ」
「おお、なんという事!記憶が戻らないなど」
「そうねぇ、私は老けてないと言う事ね!良し!」
「おい、そういう事じゃないだろう?」
呑気そうにそのような事を言うアルドワン夫人は「あらぁ、ごめんなさい?」とコロコロと笑う。どうにもこの夫人はズレているようだ。
「なにはともあれ体が無事なのは良かったわ、身体を冷やすと良くないっていうでしょ?」
「そ、そうですわね、確かにお嬢様は御子が身籠れるのですから、良かった……のかな?」
「お前達……呑気過ぎやしないか?」
アルドワン卿は病院の堅い椅子に腰深くかけて「頭が痛いよ」と言った。
2,061
お気に入りに追加
2,747
あなたにおすすめの小説

【完結】裏切ったあなたを許さない
紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。
そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。
それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。
そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。

父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです
珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。
その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。
そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。
そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。

【完結】旦那様、お飾りですか?
紫崎 藍華
恋愛
結婚し新たな生活に期待を抱いていた妻のコリーナに夫のレックスは告げた。
社交の場では立派な妻であるように、と。
そして家庭では大切にするつもりはないことも。
幸せな家庭を夢見ていたコリーナの希望は打ち砕かれた。
そしてお飾りの妻として立派に振る舞う生活が始まった。

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

私を売女と呼んだあなたの元に戻るはずありませんよね?
ミィタソ
恋愛
アインナーズ伯爵家のレイナは、幼い頃からリリアナ・バイスター伯爵令嬢に陰湿ないじめを受けていた。
レイナには、親同士が決めた婚約者――アインス・ガルタード侯爵家がいる。
アインスは、その艶やかな黒髪と怪しい色気を放つ紫色の瞳から、令嬢の間では惑わしのアインス様と呼ばれるほど人気があった。
ある日、パーティに参加したレイナが一人になると、子爵家や男爵家の令嬢を引き連れたリリアナが現れ、レイナを貶めるような酷い言葉をいくつも投げかける。
そして、事故に見せかけるようにドレスの裾を踏みつけられたレイナは、転んでしまう。
上まで避けたスカートからは、美しい肌が見える。
「売女め、婚約は破棄させてもらう!」

幼馴染か私か ~あなたが復縁をお望みなんて驚きですわ~
希猫 ゆうみ
恋愛
ダウエル伯爵家の令嬢レイチェルはコルボーン伯爵家の令息マシューに婚約の延期を言い渡される。
離婚した幼馴染、ブロードベント伯爵家の出戻り令嬢ハリエットの傍に居てあげたいらしい。
反発したレイチェルはその場で婚約を破棄された。
しかも「解放してあげるよ」と何故か上から目線で……
傷付き怒り狂ったレイチェルだったが、評判を聞きつけたメラン伯爵夫人グレース妃から侍女としてのスカウトが舞い込んだ。
メラン伯爵、それは王弟クリストファー殿下である。
伯爵家と言えど王族、格が違う。つまりは王弟妃の侍女だ。
新しい求婚を待つより名誉ある職を選んだレイチェル。
しかし順風満帆な人生を歩み出したレイチェルのもとに『幼馴染思いの優しい(笑止)』マシューが復縁を希望してきて……
【誤字修正のお知らせ】
変換ミスにより重大な誤字がありましたので以下の通り修正いたしました。
ご報告いただきました読者様に心より御礼申し上げます。ありがとうございました。
「(誤)主席」→「(正)首席」

元平民の義妹は私の婚約者を狙っている
カレイ
恋愛
伯爵令嬢エミーヌは父親の再婚によって義母とその娘、つまり義妹であるヴィヴィと暮らすこととなった。
最初のうちは仲良く暮らしていたはずなのに、気づけばエミーヌの居場所はなくなっていた。その理由は単純。
「エミーヌお嬢様は平民がお嫌い」だから。
そんな噂が広まったのは、おそらく義母が陰で「あの子が私を母親だと認めてくれないの!やっぱり平民の私じゃ……」とか、義妹が「時々エミーヌに睨まれてる気がするの。私は仲良くしたいのに……」とか言っているからだろう。
そして学園に入学すると義妹はエミーヌの婚約者ロバートへと近づいていくのだった……。

婚約解消の理由はあなた
彩柚月
恋愛
王女のレセプタントのオリヴィア。結婚の約束をしていた相手から解消の申し出を受けた理由は、王弟の息子に気に入られているから。
私の人生を壊したのはあなた。
許されると思わないでください。
全18話です。
最後まで書き終わって投稿予約済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる