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しおりを挟むなんの交流もないまま時は過ぎ、いよいよ謹慎が解ける時期となった。やっと自由を得られ喜びに満ち溢れるコランタムだが、周囲の反応は冷たい。
それもそのはず、謹慎期間中にも拘わらず、夜な夜な街に出ていたことが露見していたからだ。
きっかけは言わずもがな、あの若い騎士に唆されて夜遊びに耽っていたのだ。
寝具に細工を施して寝ているかのように見せかけ、王子は街に繰り出していたのだ。そんな子供騙しなど直ぐにバレるというのに呆れたものだ。
「そうか、やはりな……全くしょうがないお人だ。たった3カ月の改悟さえ出来ないなど王太子の器にあらず」
報告を受けたアルドワン公爵は長い溜息を洩らし、その報告書のコピーを王に届けるよう武官に言いつける。
「閣下、このままで宜しいのでしょうか。これではあまりにも」
「うむ、わかっている。だが、どうしようもないのだ、代りがいれば話は別だが」
王家を継ぐ男子は長兄コランタムと幼い頃から体の弱い第二王子マティアスである、マティアスは何かと病弱でほとんど公儀に参加したことがない。最後に顔を合わせたのはいつだったか思い出せないほどである。
「うーむ、女子を王に就かせる事が可能ならば第一王女ビビアナ様を推したいところだ。だが、それには法改正をせねばならない。面倒なことよ」
***
謹慎が解けて舞い上がるコランタムはセレンジェールを茶会に招いた。会いたくないのが本音の彼女だったが、いた仕方なく参加する。その席には当然のようにマーガレットが参加していた。いつものゴリ押しだろうと気にすることではない。
ところが、いつものように嫉妬心剥き出しで”なぜ、マーガレットがいる”と抗議することを期待していたコランタムは拍子抜けした。
セレンジェールの瞳は冷静にそこにあって心は凪いでいた、当然であろう。
「セ、セレン?久しぶりだね、ハハッ……なんか違うな、どうした?」
「……別にかわりありません殿下、通常運転ですわ」
「そ、そう。あはっあははは……」
てっきり可愛く嫉妬してウルウルと悲しい表情を見せてくれるとばかり思っていた。しかもマーガレットが隣を独占し、べったり接触していても彼女は静かに茶を飲んでいた。
「うふん、やっと自分の立場を理解したようね!ねぇ、コラン?」
「え、そうかな……なんか可笑しいけど、立場はキミより上だよ。わかってる?」
「ええぇ、そういうのわかんなぁい!状況的に見て私の方が愛されてるんだし良いじゃないのぉ」
さりげなく彼の下半身に手を触れ、己の太腿を押し付けてくるマーガレットはニヤリと微笑む。『わかっているでしょ』と言わんばかりだ。王子は一時の劣情に陥りだらしない顔をして「そうだよなぁ」と鼻の下を伸ばすのだ。
『呆れた方、どこまで私を侮辱すれば気が済むのかしら?』
セレンジェールは昏い心の奥底で軽蔑していた。
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