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しおりを挟む湖での数日間は3人で過ごした、これは仕方のないことだとセレンジェールは諦める。
「明日は、明日こそは二人きりで過ごすと約束してくれたわ」
待ち遠しいとその晩、寝具に沈みながら頬を火照らせる彼女がいた。
「うふふ、どんなお願いを聞いて貰おう、そうだ湖畔にて釣りを。それから舟に乗って湖の真ん中で二人きりに」
そんな事を考えながらやがて意識を手放すのだった。
翌日は快晴で気分も晴れやかに目覚めた、朝食を簡単に済ませ身仕度をした。彼女はウキウキが止まらない。
「今日は雲一つない晴天ですわ。楽しんでくださいませ」
「ええ、ありがとう!アクセサリーは彼の瞳の色の青にして」
「ふふ、畏まりました」
トルマリンのピアスとネックレスをしたセレンジェールはとびきりの笑顔でコランタムに会いに行った。彼はすでに待ち合わせ場所にいて、軽く手を振っていた。
「お待たせいたしましたわ、さぁ行きましょう」
「うん、今日は綺麗だね。いいや今日もだった!」
「嫌だ、うふふっ」
いつになくテンションが高めの二人は連れだって歩き始めた。そして、湖畔について釣道具を借り早速と針を落とす。
「釣果はどうなるかしら、頑張ってね」
「ああ、鱒を釣るよ!キミに食べさせたい」
「まぁ、嬉しい!」
こんな風に楽し気に過ごすのはいつぶりだろうかとセレンジェールは微笑む。そして、鱒を釣ってハシャグ彼を見つめて目を細めた。
「うーん、二匹目がなかなか釣れないなぁ」
「大丈夫よ焦らないで?」
この日の彼女は例え釣れなくとも穏やかに過ごせればそれで良いと思っていた。愛する彼と共に過ごせるだけで幸福に満たされるのだ。
その時だ、2匹目が釣れそうだと王子が言った。慎重になり身構えている。だが、それは別荘からやって来た従者の言葉で中断される。
「なんだって?マーガレットが高熱を出しただと!?それはいけない!」
「え……そんな」
とても嫌な予感がした、王子は釣りの手を止めて従者の報告に耳を傾けている。
「高熱というほどでは、37度程度ですので」
「いいや、いつ何時容態が悪化するかもしれないだろう?」
心配そうに顎に手をやるコランタムだ、何事か思案して「うーん」と唸りだした。
「あ、あのコランタム……釣りの続きは」
だが、彼女の声が聞こえないのか引っ張ってもなんのリアクションも返らない。こうなっては彼の考えが纏まるまで待つしかない。しばしの沈黙の後、信じられない事を言った。
「セレン、今日の約束は中止だ。マーガレットが心配だからね」
「そ、そんな!私はこの日を楽しみにしていたのに」
「あのさぁセレン、友人が苦しんでいる時に笑って過ごせるの?」
「え……でも」
それ以上の押し問答は続けられないと王子はさっさと屋敷に戻ってしまう。彼女はひとり置いてきぼりをくらいポツンと佇む。
「酷い……そりゃ熱を出したのは気の毒だけど……なにも今日でなくっても」
都合が良すぎるマーガレットの熱は結局微熱で終わるのだった。
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