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陰謀の夜会
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従弟レナードの伯爵邸へ私は急いだ、姉に気取られないようララが協力してくれたわ。なんて心強い!
レナードに会うのは1年ぶりだけれど快く迎えてくれた。
「やぁ血相をかえて一体どうしたの?なんか凄い大荷物もあるけど」
穏やかに微笑む我が従弟は私に似た顔で小首を傾げてます。
話が通じそうな相手をやっと見つけた思いが溢れて涙が出てしまいました。
レナードは慌ててメイドへ手巾を渡すよう配慮してくれます、なんて優しい!
「落ち着いたら話てね、冷静なキミが泣くなんて余程のことだよね」
まぁレナード、あなたこそ優れた慧眼を持ってるじゃない。
私は礼を述べてゆっくりと事の経緯をかいつまんで告白した、彼は黙って私の話を聞いてくれた。
夢物語のような巫山戯た内容だというのに。
「ふむ、なんとも……俄かには信じがたいけど、その予言書とやらが存在してる以上は避けられない運命がミラベルを翻弄してるのは理解したよ」
彼は冷めた紅茶を一口飲んで溜息を吐いた。
「叔母様の行動も常軌を逸している、王子の婚約者を挿げ替えようだなんて謀反と見られる行為だね」
「ええ、でも王子も陛下も姉の思惑に乗っている様子なのよ、強制力というのが働いてるらしいわ」
侍女ララの言葉を借りて私は説明する。
「抗うミラベルを制御しようとしているのか、……てことは神か悪魔か知らないが厄介な存在がいるのかな」
「物語そのものが天啓にして創造神なのだとしたらそうなのかも」
見えない敵に私達は改めて恐ろしく震えた、だけど大人しく破滅に向かうのは嫌だ。
姉がかつて生きた世界で作られた物語、それが私がいま存在しているこの場所だなんて……。
「勝手すぎるわ、私は人形じゃないもの。迷惑千万よ、作られた世界だなんて受け入れないわ」
「うん、ボクも同意見さ。ところで前半の話を聞いてみて考察したのだけどね、ミラベルは物語通りの性格ではないよね。運命を変える力がキミにあるのだとしたら破滅には至らないんじゃないか?」
そうか、そうよね。
私が世界を変えるイレギュラーの存在ならば光明が見えてきた。
「私は諦めない!自分の人生だもの他人に邪魔されるつもりはないわ、最後まで抗うわよ」
「うん、ミラベルを救うためなら協力しよう。なによりデボラの自己中な考えが苛立って仕方ないよ。王子の奇行についても看過できない」
全面協力を申し出てくれたレナードに私は感謝して涙する。
「泣いちゃダメだ、心を強くね?それから夜会についてだけど」
レナードの言葉に私は耳を傾け、どう軌道修正を図るか作戦を練る。
「まず、王子が屋敷にくるのを阻止する……これは不可能だね」
「そうよね、王族の行動を妨害するのは無理だわ。だったら屋敷に私がいなければエスコートはできないじゃない?そこで頼みたいの」
彼は私の言わんとすることを先読みして頷く、夜会前日に伯爵邸で匿って貰う事になった。
もちろん行き先は姉たちに嘘を吹き込んで。
そして……
***
夜会当日、まんまと王子と姉を出し抜いた私達は無事デビュタントを済ませた。
レナードのエスコートによりバカ王子を見事牽制する。
しつこいダンスの誘いも「足首を痛めている」という設定のもとに回避を成功させたのだ。
「ぬかりないわね。ふふ、ありがとうレナード!」
「ううん、機転が利くミラベルの行動の賜物さ。しかし二人のマヌケ面は面白いね」
会場の真ん中で悔し気に顔を歪ませる姉デボラ、そして捨てられた犬のような王子が恨めし気に私達を見ている。
公の場で婚約者の二人が離れるのは外聞が悪い、それに今夜は王妃の目が光ってる。
妃教育にとても厳しい王妃は姉デボラの振る舞いを常々窘めていた。
そして王は王妃に頭があがらないダメ夫だ、王太子であるバカ王子の行動を幇助するわけもいかないようだ。
安堵した私はレナードの差し出したシャンパンを飲む。
良く冷えて最高に美味しく感じた。
そして細やかなザマァ気分を味わう。
それから二度目のダンスタイムが始まり楽団が緩やかに曲を奏でた時だった。
遅参したと思われる賓客の登場に会場が沸いた、どこかの国の重鎮が来たと噂を耳にした。
壁の花を決め込んでいた私達はその騒めきを遠目で観察する。
「私には縁のない方だわ」
蚊帳の外と私は気を緩め、いくつかのオードブルを皿に取って食べる。
うん、さすが王宮料理ものすごく美味しい!
レナードも皿を大盛にしてご満悦の様子だ、敵を御した後はなんでも美味しいとがっついていた。
つぎつぎ料理に舌鼓を打ちながら私達はデボラ達を観察する。
姉はどうやらその賓客の接待で大忙しのようだった、でもおかしいバカ王子をほったらかしにしている。
王子はといえば不貞腐れた顔でワインをあおっていた。
夜会の主役はその賓客にとって代わったのだと理解した。
その人物を良く見れば、豪華な衣装の右肩に金と紫のエンブレムを輝かせ威厳を振り撒いているではないか。帝国モンテレイドのものだとわかった。
「マティアス・モンテレイド皇子だね」
レナードが少し恐れた言い方で名を吐露した。まったくねその存在感ったらすごいオーラだわ。
見事な銀糸を揺らし、ルビーのような瞳で会場の者たちを魅了しているわ。
美しさは武器よねぇ眼福です。
その時、姉の言葉が蘇った『マティアス・モンテレイドに断罪されて獄中死する終焉』……。
ギャー!待って私にとってラスボスじゃないの!最大の敵がなぜ今夜登場してるの!?
侍女ララの話では私が学園を卒業してそのパーティ中に現れるはずでは!?
顔面蒼白になった私にレナードが「気をしっかり」と叱咤する。
「ご、ゴメン、まさかラスボスが登場するとは思わなくて」
「うん、だいぶシナリオからズレているね。でも良い兆しじゃないかな」
そうかなー?
断罪劇が早まっただけな気がするのだけど……。
姉はあの日『マティアスに迎えらえて世界一幸福な花嫁になる』とか言ってなかった?
それが今夜なのだとしたら?
前倒しされた自分の不幸を懸念した私は姉の様子をみつめる。
薔薇色に頬を染めた姉デボラはマティアスに夢中になっている、必死になにかを言い募り気を引こうとしているのがわかった。
そしてラスボスことマティアス皇子の動向は……。
レナードに会うのは1年ぶりだけれど快く迎えてくれた。
「やぁ血相をかえて一体どうしたの?なんか凄い大荷物もあるけど」
穏やかに微笑む我が従弟は私に似た顔で小首を傾げてます。
話が通じそうな相手をやっと見つけた思いが溢れて涙が出てしまいました。
レナードは慌ててメイドへ手巾を渡すよう配慮してくれます、なんて優しい!
「落ち着いたら話てね、冷静なキミが泣くなんて余程のことだよね」
まぁレナード、あなたこそ優れた慧眼を持ってるじゃない。
私は礼を述べてゆっくりと事の経緯をかいつまんで告白した、彼は黙って私の話を聞いてくれた。
夢物語のような巫山戯た内容だというのに。
「ふむ、なんとも……俄かには信じがたいけど、その予言書とやらが存在してる以上は避けられない運命がミラベルを翻弄してるのは理解したよ」
彼は冷めた紅茶を一口飲んで溜息を吐いた。
「叔母様の行動も常軌を逸している、王子の婚約者を挿げ替えようだなんて謀反と見られる行為だね」
「ええ、でも王子も陛下も姉の思惑に乗っている様子なのよ、強制力というのが働いてるらしいわ」
侍女ララの言葉を借りて私は説明する。
「抗うミラベルを制御しようとしているのか、……てことは神か悪魔か知らないが厄介な存在がいるのかな」
「物語そのものが天啓にして創造神なのだとしたらそうなのかも」
見えない敵に私達は改めて恐ろしく震えた、だけど大人しく破滅に向かうのは嫌だ。
姉がかつて生きた世界で作られた物語、それが私がいま存在しているこの場所だなんて……。
「勝手すぎるわ、私は人形じゃないもの。迷惑千万よ、作られた世界だなんて受け入れないわ」
「うん、ボクも同意見さ。ところで前半の話を聞いてみて考察したのだけどね、ミラベルは物語通りの性格ではないよね。運命を変える力がキミにあるのだとしたら破滅には至らないんじゃないか?」
そうか、そうよね。
私が世界を変えるイレギュラーの存在ならば光明が見えてきた。
「私は諦めない!自分の人生だもの他人に邪魔されるつもりはないわ、最後まで抗うわよ」
「うん、ミラベルを救うためなら協力しよう。なによりデボラの自己中な考えが苛立って仕方ないよ。王子の奇行についても看過できない」
全面協力を申し出てくれたレナードに私は感謝して涙する。
「泣いちゃダメだ、心を強くね?それから夜会についてだけど」
レナードの言葉に私は耳を傾け、どう軌道修正を図るか作戦を練る。
「まず、王子が屋敷にくるのを阻止する……これは不可能だね」
「そうよね、王族の行動を妨害するのは無理だわ。だったら屋敷に私がいなければエスコートはできないじゃない?そこで頼みたいの」
彼は私の言わんとすることを先読みして頷く、夜会前日に伯爵邸で匿って貰う事になった。
もちろん行き先は姉たちに嘘を吹き込んで。
そして……
***
夜会当日、まんまと王子と姉を出し抜いた私達は無事デビュタントを済ませた。
レナードのエスコートによりバカ王子を見事牽制する。
しつこいダンスの誘いも「足首を痛めている」という設定のもとに回避を成功させたのだ。
「ぬかりないわね。ふふ、ありがとうレナード!」
「ううん、機転が利くミラベルの行動の賜物さ。しかし二人のマヌケ面は面白いね」
会場の真ん中で悔し気に顔を歪ませる姉デボラ、そして捨てられた犬のような王子が恨めし気に私達を見ている。
公の場で婚約者の二人が離れるのは外聞が悪い、それに今夜は王妃の目が光ってる。
妃教育にとても厳しい王妃は姉デボラの振る舞いを常々窘めていた。
そして王は王妃に頭があがらないダメ夫だ、王太子であるバカ王子の行動を幇助するわけもいかないようだ。
安堵した私はレナードの差し出したシャンパンを飲む。
良く冷えて最高に美味しく感じた。
そして細やかなザマァ気分を味わう。
それから二度目のダンスタイムが始まり楽団が緩やかに曲を奏でた時だった。
遅参したと思われる賓客の登場に会場が沸いた、どこかの国の重鎮が来たと噂を耳にした。
壁の花を決め込んでいた私達はその騒めきを遠目で観察する。
「私には縁のない方だわ」
蚊帳の外と私は気を緩め、いくつかのオードブルを皿に取って食べる。
うん、さすが王宮料理ものすごく美味しい!
レナードも皿を大盛にしてご満悦の様子だ、敵を御した後はなんでも美味しいとがっついていた。
つぎつぎ料理に舌鼓を打ちながら私達はデボラ達を観察する。
姉はどうやらその賓客の接待で大忙しのようだった、でもおかしいバカ王子をほったらかしにしている。
王子はといえば不貞腐れた顔でワインをあおっていた。
夜会の主役はその賓客にとって代わったのだと理解した。
その人物を良く見れば、豪華な衣装の右肩に金と紫のエンブレムを輝かせ威厳を振り撒いているではないか。帝国モンテレイドのものだとわかった。
「マティアス・モンテレイド皇子だね」
レナードが少し恐れた言い方で名を吐露した。まったくねその存在感ったらすごいオーラだわ。
見事な銀糸を揺らし、ルビーのような瞳で会場の者たちを魅了しているわ。
美しさは武器よねぇ眼福です。
その時、姉の言葉が蘇った『マティアス・モンテレイドに断罪されて獄中死する終焉』……。
ギャー!待って私にとってラスボスじゃないの!最大の敵がなぜ今夜登場してるの!?
侍女ララの話では私が学園を卒業してそのパーティ中に現れるはずでは!?
顔面蒼白になった私にレナードが「気をしっかり」と叱咤する。
「ご、ゴメン、まさかラスボスが登場するとは思わなくて」
「うん、だいぶシナリオからズレているね。でも良い兆しじゃないかな」
そうかなー?
断罪劇が早まっただけな気がするのだけど……。
姉はあの日『マティアスに迎えらえて世界一幸福な花嫁になる』とか言ってなかった?
それが今夜なのだとしたら?
前倒しされた自分の不幸を懸念した私は姉の様子をみつめる。
薔薇色に頬を染めた姉デボラはマティアスに夢中になっている、必死になにかを言い募り気を引こうとしているのがわかった。
そしてラスボスことマティアス皇子の動向は……。
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