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厚かましいエイマーズ一家2
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「土産が足らなかった事の詫びの品ですわ」
仕掛けがあると知らない彼らはその高価な品に喜ぶが、やはり金が欲しいらしい義父母はこんなものでは絆されないと言う。
だがエメラインは「恩義ある公爵家から賜った一点物の宝石箱ですから質などに入れないよう」と釘を刺すことを忘れない。転売を密かに目論んでいた義母は悔しそうに嫁を睨んだ。
そのあからさまな顔色を見たエメラインは『愚者はどこまで浅慮だ』だと小馬鹿にする。
それに興味が失せたらしい義母はあっさり娘に譲った、美しい装飾の箱にアニタは夢中になった。
ずっしり重いそれは鏡台の横に設置されて愛でられる。
その蓋が開かれる度に会話が録音されるとも知らず、彼女は素肌にネックレスを飾って義兄と情交を楽しむ。
開かれたままにされたのは、蓋裏に描かれた模様があまりに美しいせいだった。
螺鈿細工によって描かれた蝶花図は開けないと楽しめない。それすらもランデルが考案した仕組みなのだが、愛欲に溺れている彼らには知る由もない。
一週間分たぷりと録音されたそれは密かに回収され、再生された閨の声は吐き気を催す酷いものだった。
”……あぁもっと奥まで頂戴……はぁん!素敵ぃテ…ー!なんて大きくて硬いのぉん”
”愛しているよ私の……ー!……ハァハァあぁ足りない!もっと欲しいよ、そ……て孕んでくれ”
再生して数分で音声を停止したランデルとアレンは「おげええええええ!」とえずく仕草をして顔色を悪くする。
「とてもじゃないが妹にはエメに聞かせられない」
「ああ、男の俺でも聞くに堪えないぞ……」
下ネタ大好きな青年であっても他人のリアルな情交の音はとても気色悪いようだ。会話だけならともかくグチャグチャと淫らな水音が耐えられないようだ。
「ボクは暫く恋愛は遠慮したく思う、オェップ……女性不信になりそうだよ」
「まてまて、世の女性はこんな阿婆擦ればかりではないぞ」
音声による不貞の証拠は一つ得られたが、これだけでは生ぬるいとアレンは言った。
「しっかりと聞き取れるが、自分の声ではないと反論されたらどうしようもないレベルかな」
「ああ、音声も途切れ気味だったからな。聞きようによっては他人だと言い逃れできるかもしれん」
素晴らしい録音技術ではあるが性能はいまいちな音声データである。
やはり映像もとらえるべきだろうと二人は頭を悩ませる。
***
一方で、虐げられながらも白い結婚に耐え忍んでいるエメラインは執拗な金の無心をノラリクラリと躱していた。
催促の手紙はともかく、たかが小娘が伯爵家の財や資金繰りについて意見することは無理であると彼女が述べると業を煮やしたエイマーズ家は強硬手段に出た。
「現金がなくともツケという手があるわ、オルドリッチの名を大いに使ってやるだけよ」
「なるほど、さすが母上。エメラインが使ったと言えばどうとでも出来る」
浅慮な彼らは買い物の請求を擦り付けるという荒業に出たのだった。ワイン蔵にして豪商であるオルドリッチの名声は偉大だ。ツケを断れる店は少ないだろう。
早速と街へ繰り出した彼らは好き勝手に買い漁り豪遊して廻る。
義母はドレスはもちろん装飾品と靴を山のように買い求めた、本来であれば邸宅に商人を呼びつけ購入するものだが、それでは都合が悪いのだ。仮にも嫁であるエメラインに見咎められ諌言でもされたら商人たちから信頼を失う。
そればかりは避けなけらばならない。
しかも邸宅とあればその場で小切手を切らなければならないし、銀行には潤沢とは言い難い額しかない。不渡りになったら今後の取引にも影響を及ぼす。
「ほっほっほ、外に出てツケにしてしまえば良いのよ!嫁の名を使えば実家も文句言えないでしょう」
「はは、お前は奸智が働いて仕方ないな」
同行していた義父も苦笑いを浮かべつつ、スーツを仕立て、葉巻などの小物を買いあさった。
そもそも、エメラインが葉巻など購入するはずがないのだが、義父へと贈り物などと称して誤魔化すつもりなのだろうか。
そして、義兄義妹の二人はというと箍が外れてしまったのか、邸宅にて振る舞うようなことを晒して歩いていた。
これにはさすがに黙認してきた侍従も諫めようとしたが「うるさい」の一言で黙らせた。
「次期当主に対して敬いが足りないんだ、まったくせっかくの甘い時間が台無しだよ」
「そうよねぇ、私一度この高級カフェに来たかったのぉ!お茶もお菓子も美味しいし、とーても気に入ったわ」
そこは見事な彫刻を施した調度品を設えた上品なカフェだった、落ち着いた色合いで整えられた店内は王族までも通う店である。ちなみにエイマーズ家のサロンなどと比べたら雲泥の差がある。
兄妹はそこにも人の目があるにも拘わらずベタベタと戯れた、いつもの癖を発動させて「アーン」などとやり合っていた。
その店内で寛ぐ客達の中に、彼らの醜い行為を記録として残そうと動いている公爵家の手の者が紛れ込んでいるとも知らずに。
「美味しいわぁ」
「美味しいねぇ」
アフォ面を晒した二人は互いの口元に残るクリームを舐め合い、そのまま接吻を楽しむ姿をしっかり録画されてしまった。
仕掛けがあると知らない彼らはその高価な品に喜ぶが、やはり金が欲しいらしい義父母はこんなものでは絆されないと言う。
だがエメラインは「恩義ある公爵家から賜った一点物の宝石箱ですから質などに入れないよう」と釘を刺すことを忘れない。転売を密かに目論んでいた義母は悔しそうに嫁を睨んだ。
そのあからさまな顔色を見たエメラインは『愚者はどこまで浅慮だ』だと小馬鹿にする。
それに興味が失せたらしい義母はあっさり娘に譲った、美しい装飾の箱にアニタは夢中になった。
ずっしり重いそれは鏡台の横に設置されて愛でられる。
その蓋が開かれる度に会話が録音されるとも知らず、彼女は素肌にネックレスを飾って義兄と情交を楽しむ。
開かれたままにされたのは、蓋裏に描かれた模様があまりに美しいせいだった。
螺鈿細工によって描かれた蝶花図は開けないと楽しめない。それすらもランデルが考案した仕組みなのだが、愛欲に溺れている彼らには知る由もない。
一週間分たぷりと録音されたそれは密かに回収され、再生された閨の声は吐き気を催す酷いものだった。
”……あぁもっと奥まで頂戴……はぁん!素敵ぃテ…ー!なんて大きくて硬いのぉん”
”愛しているよ私の……ー!……ハァハァあぁ足りない!もっと欲しいよ、そ……て孕んでくれ”
再生して数分で音声を停止したランデルとアレンは「おげええええええ!」とえずく仕草をして顔色を悪くする。
「とてもじゃないが妹にはエメに聞かせられない」
「ああ、男の俺でも聞くに堪えないぞ……」
下ネタ大好きな青年であっても他人のリアルな情交の音はとても気色悪いようだ。会話だけならともかくグチャグチャと淫らな水音が耐えられないようだ。
「ボクは暫く恋愛は遠慮したく思う、オェップ……女性不信になりそうだよ」
「まてまて、世の女性はこんな阿婆擦ればかりではないぞ」
音声による不貞の証拠は一つ得られたが、これだけでは生ぬるいとアレンは言った。
「しっかりと聞き取れるが、自分の声ではないと反論されたらどうしようもないレベルかな」
「ああ、音声も途切れ気味だったからな。聞きようによっては他人だと言い逃れできるかもしれん」
素晴らしい録音技術ではあるが性能はいまいちな音声データである。
やはり映像もとらえるべきだろうと二人は頭を悩ませる。
***
一方で、虐げられながらも白い結婚に耐え忍んでいるエメラインは執拗な金の無心をノラリクラリと躱していた。
催促の手紙はともかく、たかが小娘が伯爵家の財や資金繰りについて意見することは無理であると彼女が述べると業を煮やしたエイマーズ家は強硬手段に出た。
「現金がなくともツケという手があるわ、オルドリッチの名を大いに使ってやるだけよ」
「なるほど、さすが母上。エメラインが使ったと言えばどうとでも出来る」
浅慮な彼らは買い物の請求を擦り付けるという荒業に出たのだった。ワイン蔵にして豪商であるオルドリッチの名声は偉大だ。ツケを断れる店は少ないだろう。
早速と街へ繰り出した彼らは好き勝手に買い漁り豪遊して廻る。
義母はドレスはもちろん装飾品と靴を山のように買い求めた、本来であれば邸宅に商人を呼びつけ購入するものだが、それでは都合が悪いのだ。仮にも嫁であるエメラインに見咎められ諌言でもされたら商人たちから信頼を失う。
そればかりは避けなけらばならない。
しかも邸宅とあればその場で小切手を切らなければならないし、銀行には潤沢とは言い難い額しかない。不渡りになったら今後の取引にも影響を及ぼす。
「ほっほっほ、外に出てツケにしてしまえば良いのよ!嫁の名を使えば実家も文句言えないでしょう」
「はは、お前は奸智が働いて仕方ないな」
同行していた義父も苦笑いを浮かべつつ、スーツを仕立て、葉巻などの小物を買いあさった。
そもそも、エメラインが葉巻など購入するはずがないのだが、義父へと贈り物などと称して誤魔化すつもりなのだろうか。
そして、義兄義妹の二人はというと箍が外れてしまったのか、邸宅にて振る舞うようなことを晒して歩いていた。
これにはさすがに黙認してきた侍従も諫めようとしたが「うるさい」の一言で黙らせた。
「次期当主に対して敬いが足りないんだ、まったくせっかくの甘い時間が台無しだよ」
「そうよねぇ、私一度この高級カフェに来たかったのぉ!お茶もお菓子も美味しいし、とーても気に入ったわ」
そこは見事な彫刻を施した調度品を設えた上品なカフェだった、落ち着いた色合いで整えられた店内は王族までも通う店である。ちなみにエイマーズ家のサロンなどと比べたら雲泥の差がある。
兄妹はそこにも人の目があるにも拘わらずベタベタと戯れた、いつもの癖を発動させて「アーン」などとやり合っていた。
その店内で寛ぐ客達の中に、彼らの醜い行為を記録として残そうと動いている公爵家の手の者が紛れ込んでいるとも知らずに。
「美味しいわぁ」
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