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末路
しおりを挟むカルラーナがリーデンハイズ公爵家に完全に戻ってしまって以降、融資もすべて終わりになった。しかし、アドルナフ伯爵は大人しく引き下がる事はない。
連日連夜、彼女の名を叫び「会わせてくれ、そして融資を」と繰り返した。彼の厚顔無恥さに呆れ返るリーデンハイズ卿はとうとう面会すら拒否するようになる。
「昨日は旦那様が留守だというのに門前に居座り続けました。やむなく衛兵を呼び厳重注意して貰いましたが」
「うむ、その程度で諦めるわけがなかろうな、あの家は火の車どころではないからな」
従者たちの給金も支払えないのか馭者さえ従えていなかったと家令はいう。
懐事情を察したリーデンハイズ卿は黒い笑みを浮かべて「離縁時に発生する慰謝料について相談しようか」と言った。伯爵は尻の毛まで毟られるだろう。
「お父様は人が悪いわ。そうなればどのような暴挙にでるかわかろうというもの」
カルラーナはかつて嫁いだアドルナフ家の紋章つきのハンカチをジュワリと火をつけた、暖炉がない時期を恨めしく思う。
ケホリと燻されたハンカチを睨んでデニィスを呼ぶ。
「何用でしょうか、お嬢様」
「わかっているでしょ、あの男がそろそろ行動を起こすはずよ。見なさい、垣根に潜んでいるわ。あれで隠れているつもりらしいわ」
「あー……こちらも馬鹿ではないです、ちゃんと警戒してますよ」
いまは泳がせているのだとデニィスは言う。相手はなりふりかまっておれない状態だ、呑気そうに構えている護衛たちに苛立って当然だ。
「それなら良いけど、ちゃんとしてよね。ところでデニィス、貴方の正体だけれどバティスタ・ブランテド公爵令息で間違いないわよね?」
「げ、ばれた……」
同じく秘宝探しをしていたブランテド公爵家は、子息の髪色と瞳の色を変えさせてリーデンハイズ家に忍び込ませていた。もちろん、リーデンハイズ卿も容認してのことだ。
「あーまぁ、ぶっちゃけちゃいますと白い結婚が成立したらうちと縁を結ぶ予定です、申し訳ない」
「なるほどね、通りで寝室にまで貴方が出入りしているはずだわ」
「えーそれもバレたんですか」
「バレないほうが可笑しいわ。影の者が見逃すはずがないのに、私の寝顔は面白かった?」
「うへぇ……寝顔にキスしてたのもバレたのか」
「んな!なんですって!?き、キスぅ?」
余計な事を暴露したデニィスことバティスタは蒼い顔をして「ごめんなさい」と縮こまるのだった。
***
その晩、事は起きた。
警戒されているとも知らなかったアマデオ・アドルナフは寝室に近づくこともなく捕縛された。彼の装備品は短剣一つと縄、そして花束が一つだ。いったい彼は襲いかかるつもりなのか愛の告白をしようとしたのかさっぱりだ。
「それはやはり彼女が俺を好いていると思ったからさ、知っているんだ。幼い彼女は俺に恋していたことを、それを上手く利用して俺は婚姻したのだ」
悪びれる様子もなくそう告白した彼はカルラーナに会わせろと暴れた。だが、それは叶うことなくそのまま罰せられた。
誘拐と住居侵入などで身柄を確保されたアマデオは貴族法のもと処罰された。二度と同じ事が出来ないように両の足の腱を切られ両目の視覚を奪われたのだ。彼は命は残ったものの明るい未来はななくなった。
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