上 下
9 / 9

末路

しおりを挟む




カルラーナがリーデンハイズ公爵家に完全に戻ってしまって以降、融資もすべて終わりになった。しかし、アドルナフ伯爵は大人しく引き下がる事はない。
連日連夜、彼女の名を叫び「会わせてくれ、そして融資を」と繰り返した。彼の厚顔無恥さに呆れ返るリーデンハイズ卿はとうとう面会すら拒否するようになる。



「昨日は旦那様が留守だというのに門前に居座り続けました。やむなく衛兵を呼び厳重注意して貰いましたが」
「うむ、その程度で諦めるわけがなかろうな、あの家は火の車どころではないからな」
従者たちの給金も支払えないのか馭者さえ従えていなかったと家令はいう。

懐事情を察したリーデンハイズ卿は黒い笑みを浮かべて「離縁時に発生する慰謝料について相談しようか」と言った。伯爵は尻の毛まで毟られるだろう。


「お父様は人が悪いわ。そうなればどのような暴挙にでるかわかろうというもの」
カルラーナはかつて嫁いだアドルナフ家の紋章つきのハンカチをジュワリと火をつけた、暖炉がない時期を恨めしく思う。
ケホリと燻されたハンカチを睨んでデニィスを呼ぶ。

「何用でしょうか、お嬢様」
「わかっているでしょ、あの男がそろそろ行動を起こすはずよ。見なさい、垣根に潜んでいるわ。あれで隠れているつもりらしいわ」
「あー……こちらも馬鹿ではないです、ちゃんと警戒してますよ」

いまは泳がせているのだとデニィスは言う。相手はなりふりかまっておれない状態だ、呑気そうに構えている護衛たちに苛立って当然だ。

「それなら良いけど、ちゃんとしてよね。ところでデニィス、貴方の正体だけれどバティスタ・ブランテド公爵令息で間違いないわよね?」
「げ、ばれた……」

同じく秘宝探しをしていたブランテド公爵家は、子息の髪色と瞳の色を変えさせてリーデンハイズ家に忍び込ませていた。もちろん、リーデンハイズ卿も容認してのことだ。

「あーまぁ、ぶっちゃけちゃいますと白い結婚が成立したらうちと縁を結ぶ予定です、申し訳ない」
「なるほどね、通りで寝室にまで貴方が出入りしているはずだわ」
「えーそれもバレたんですか」

「バレないほうが可笑しいわ。影の者が見逃すはずがないのに、私の寝顔は面白かった?」
「うへぇ……寝顔にキスしてたのもバレたのか」
「んな!なんですって!?き、キスぅ?」
余計な事を暴露したデニィスことバティスタは蒼い顔をして「ごめんなさい」と縮こまるのだった。



***


その晩、事は起きた。
警戒されているとも知らなかったアマデオ・アドルナフは寝室に近づくこともなく捕縛された。彼の装備品は短剣一つと縄、そして花束が一つだ。いったい彼は襲いかかるつもりなのか愛の告白をしようとしたのかさっぱりだ。



「それはやはり彼女が俺を好いていると思ったからさ、知っているんだ。幼い彼女は俺に恋していたことを、それを上手く利用して俺は婚姻したのだ」
悪びれる様子もなくそう告白した彼はカルラーナに会わせろと暴れた。だが、それは叶うことなくそのまま罰せられた。

誘拐と住居侵入などで身柄を確保されたアマデオは貴族法のもと処罰された。二度と同じ事が出来ないように両の足の腱を切られ両目の視覚を奪われたのだ。彼は命は残ったものの明るい未来はななくなった。












しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

夫の愛人が訪ねてきました

杉本凪咲
恋愛
「初めまして、ライドさんの愛人のフィルと申します」 家を訪ねてきたのは、ピンク色の髪をした可愛らしい令嬢。 夫の愛人だと告げた彼女は、私たち夫婦の秘密を次々に言い当てた。 彼女が去った後に夫を問い詰めるが、彼は愛人なんていないと怒りだす。 そして挙句の果てに夫は家を出て行ってしまい……

【完結】旦那に愛人がいると知ってから

よどら文鳥
恋愛
 私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。  だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。  それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。  だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。 「……あの女、誰……!?」  この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。  だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。 ※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。

〖完結〗旦那様には出て行っていただきます。どうか平民の愛人とお幸せに·····

藍川みいな
恋愛
「セリアさん、単刀直入に言いますね。ルーカス様と別れてください。」 ……これは一体、どういう事でしょう? いきなり現れたルーカスの愛人に、別れて欲しいと言われたセリア。 ルーカスはセリアと結婚し、スペクター侯爵家に婿入りしたが、セリアとの結婚前から愛人がいて、その愛人と侯爵家を乗っ取るつもりだと愛人は話した…… 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全6話で完結になります。

あなたとはもう家族じゃない

ヘロディア
恋愛
少し前に結婚した夫婦だが、最近、夫が夜に外出し、朝帰りするという現象が続いていた。 そして、その日はいつもより強く酒の匂いがし、夫の体温も少し高く感じる日であった。 妻にとっては疑わしくて仕方がない。そして…

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

形だけの正妃

杉本凪咲
恋愛
第二王子の正妃に選ばれた伯爵令嬢ローズ。 しかし数日後、側妃として王宮にやってきたオレンダに、王子は夢中になってしまう。 ローズは形だけの正妃となるが……

とりあえず離婚してもらっていいですか?

杉本凪咲
恋愛
結婚して一年。 夫のアトラスは、パーティー会場で私に離婚を叫んだ。 不倫相手のクロイツも加わり、私は心無い罵倒を受ける。 所詮私は、飽きたら捨てられるだけのお飾りの妻だったのだ。

処理中です...