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秘宝の真実
しおりを挟むアドルナフ伯爵家に固執する必要性を失ったカルラーナはリーデンハイズ公爵家に身を寄せていた。それは彼女自身の貞操を護るためでもある。カミラ・アウベアを追い出して以降、アマデオがやたら接触してきたからだ。
「ほんとうに図々しいこと、もとより白い結婚は決まっていたというのに」
「え、そうなんですか?俺はてっきり彼を誘惑するのかと」
デニィスのその言葉を聞いた彼女は「キッ」と睨みつけて「そんなはずないじゃない」と怒った。
「私が求めたのは彼の遺伝子に違いないけれど、行為をするわけではないのよ!体外受精てわかる?そういうことよ」
不妊治療のひとつであるそれを嫌そうにして語るカルラーナはソッポを向いた。いまとなってはそれも無駄なのだと彼女は言う。
「確率が低いのも理由だけれど、あれよ……アイツには種がなかったの。カミラの妊娠を阻止までしたのにとんだマヌケよね」
「えええ!?種がない?」
リーデンハイズ家お抱えの医者が彼の種を調べた結果、元気な精子は一匹も発見出来なかった。どうやら成人してからおたふく風邪に罹患したことが原因のようだ。
「はぁ、とんだことよね。二年後に妊娠する予定が……ふふっ今となってはそれで良かったと思うわ、何せ秘宝のありかを彼は何も知らなかった」
「そ、そうなんですね。ところで一護衛の俺にそんな事を話して宜しいので?」
「いいのよ、それとも貴方はベラベラと余所に吹聴してまわるのかしら」
それを聞いた彼は首を横に振り、強く否定した。主の秘密を護れない護衛などいるはずもない。
***
「秘宝の真実わかったぞ、カルラーナ。知ってしまえば何とも……我らは痴れ者と言う事だ」
リーデンハイズ卿は「ははは」と力なく笑った、カルラーナはそんな父の様子を見て彼が語るのを待つ。逸る気持ちはあったが嫌な予感が彼女を襲う。
卿の手元には古い書籍らしきものがある、恐らくそこに何か重大な秘密があるらしい。
長いこと王家の秘宝に頭を悩ませてきたリーデンハイズは肩を竦めたり、頭を振り嘆いている。それを幾度か繰り返して漸く口を開いた。
「良く聞いて欲しい。王家の秘宝とは……いかに血を薄くするかだったのだ」
「え?よくわからないですわ、お父様」
「ああ、そうだろうな。私も耳にした時は同じ気持ちになったよ」
首を傾げてどういうことだろうとカルラーナは悩む、子々孫々を代々繋げてなんぼの王家なのだから当然と言えた。それでも父の口から真実が語られるのを待つ。
「……あれだ王家は、先祖はやらかしていたのだ、血の濃さを重んじるあまりに近親交配をかさねてきたのだよ。ハハッ……だが、当然それは良くないことだ、わかるな?」
「え、ええ」
カルラーナはそれを聞いて気分が悪くなる、なんと言うことしでかしたのかと思わずえずく。
秘宝などでは決してない。
王家の血は濃くなるほどに奇形が生まれた、所謂、劣勢有害遺伝子の発生である。彼らは近交弱勢に気が付いた、生物としての適応の能力が著しく低下したことを。
口伝でしか伝わらなかった事を敢えて残したのは、一人の人間として苦悩していた事が記されていた。
「そ、そうですか。人類のタブーを犯してまで王家は」
「ああ、3代前の王の日記の発見で明らかになった。彼らは他所から嫁を貰うことに必死になったようだよ。徐々に薄くなった血だが、やはり隔世遺伝なのか奇形が生まれてしまったのだ」
沈痛な顔を見せるリーデンハイズ卿は呪われた血は漸く消えるのだよと力なく笑った。
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