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綻び
しおりを挟む「なんの成果もあげられませんでしたわ、彼には何も伝わってないらしいです」
「うむ、そうか。期待はしていなかったがやはり……」
リーデンハイズ公爵は「ううむ」と唸ると早速と融資額の変更を認めて家令に渡した。有益な情報を持っていないとなれば当然の処置である。
「ですが、お父様。アドルナフ伯爵は大人しく受け入れるでしょうか?」
「ははっ、そんな事はないさ。王族の末端にいるとはいえ家格は我が家が上だ、なにも憂慮することはない」
「そうですか、では白い結婚も継続でよろしいのね。後、一年半。はぁ、地獄ですわ」
眉間に皺を寄せて唸るカルラーナに「気苦労をかける」と卿は言う。
「減らした融資をお前に流そう、どうか許して欲しい」
「あら、良いんですの?やったあ!」
途端に顔色が良くなった娘を見て、現金なヤツだと苦笑いする。
「なんだと!?減額……そんな!何がいけなかったのだ、茶会では彼女を労い優しく接してきたはず」
ギリリと歯を噛むアマデオ・アドルナフは「自分に落ち度がある」とは夢にも思っていない。カルラーナに淡い恋心を抱いている彼は「やはりカミラを優先させているのが拙い」と考えた。
とんだ見当違いである。
***
あれからカミラの態度は益々と大胆になっていた、アマデオ・アドルナフの目を盗んでデニィスを呼びつけるようになり、彼と連れだって歩いているにも関わらず手を振ったりしている。
危険を孕む行為が楽しいらしい。
「似た者同士よね、あの二人は。二年後にはさっさと結婚でもしたら良いわ。長く続くとは思えないけど」
カミラは相変わらずデニィスに御執心だし、アマデオはカルラーナに熱い視線を送っていた。本来は夫婦なのだから当たり前なのだが、世間の常識から逸脱している彼らには果たし当てはまるのか。
「鬱陶しいたらないですよ!あのメス豚は!発情期かってね。スリットを利かせたドレスで腰を振って来るんですよ、破廉恥極まりない!」
「あははっ、嫌われたものねぇ。まぁ、気持ちはわかるわ」
わかっているのなら止めさせてくださいと抗議するデニィスは怒り心頭だ。
「あら、言っているわよ?私の護衛に色目を使うなとね、でもあの女には効果がないのよ。アマデオにでも言ってしまうと脅そうかしら」
「脅してくださいよ!今すぐに」
「ふふ、待ってよ。そうカッカせずとも綻びはでているわ」
「それはどういう?」
融資額を大幅にカットされたアドルナフ伯爵は、湯水の如く金子を使いまくるカミラに対して怒っていた。普通に使っていれば十分な金額だったが、それを軽く上回る額を使うのだ。
「良い加減にしないか!予算は教えただろうが!」
「あらぁ、そんなに怒らないでよぉ。夜伽を頑張るから、ね?」
得意の色仕掛けでもってなんとか宥めようとしているカミラだが、若さが擦り減ってきている彼女を抱く気になれない伯爵はウンザリする。
近頃は腰回りが太くなってきており、弛んだ肉が悍ましいとさえ思っている。
「決めた、お前とは御終いだカミラ。近日中に出て行け」
「そんな!どうしてよ!」
すると伯爵は苦々しい顔をして言い放つ。
「俺が何も知らないとでも?カルラーナの護衛に色目を使っているそうだな、証拠はいくらでもあるんだぞ」
「え……」
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