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愛人カミラ

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「カミラというベタッとした女が接触してきました」
デニィスは「おえ」っというえずく仕草をして、気持ち悪さを表現して見せた。その様子がカルラーナにツボったらしく、ケタケタと笑い、お嬢様らしくない態度で笑い転げる。

「お嬢様、笑い事じゃありませんよ」
「う、うふっ、ごめんなさいね。あのプライドだけのツンツン女が……ブフッ!アハハッ!」
普段から見下したように振る舞うカミラが、護衛如きに声をかけてしなを作ったというのを聞いて笑いを抑えきれない。

「余程貴方が気に入ったと見られるわ、ふぅ、邪険にするでもなく適当にあしらってあげなさいな。あちらの出方を見たいわ」
「……わかりました、ですがフリだけですよ。あの手の女は嫌いなので」
「へぇ、そうなの。男好きするタイプだと思うのだけど」

すると彼は頭をブンブンと振り「冗談じゃない」と意思表示した、すべての男子がアマデオ・アドルナフのような男ではないのだと知った。
「貴方は殿方のほうが好き?どんな性癖でも容認するわよ」
「やめてください、俺はノーマルです」
「フフフッ」




***


「あぁ、デニー!会いたかったわ。どうかこれを受け取って頂戴」
「……困りますよ、お気持ちだけ頂きます」
「んもう、貴方ったら欲がないんだから困っちゃうわぁ、そこが良いのだけど」

休憩に入る度に会いに来るカミラ・アウベアは「ふふっ」と笑って何かと体に触れようとして来る。今日は新しいクラバットを用意したといって首に手を廻そうとしてきた。だが、彼は指定の支給品があるからとやんわり断ったところだ。

「では、ピンだけでもどう?貴方と私の愛のピンよ」
「要りません」
「んもう!つれないのねぇ」
惚れこんでいるという意味を込めたクラバットピンを「いやいや」をして付けさせようとしてくるカミラである。だが、「お嬢様から支給されたものがある」と言って受け入れないのだ。

「カルラーナがなんだっていうのよ、ただの飼い主じゃない!私なら貴方を手駒だなんて思わないわ!愛しい人として側におくのに」
「……はぁ」
付かず離れずな態度を取れと言われているが、ここまであからさまだと疲れてしまう。どうしたものかと頭を悩ませていると遠くからカミラを呼ぶ声が聞こえてきた。

「ああ、アマデオだわ、仕方ないわぇ」
彼女は素早く彼の頬に口づけると「じゃあまたね」とウインクして駆けていった。デニィスは彼女が去って行く背を見つめながら手巾で頬をゴシゴシとふき取って捨てた。

「ふん、メス豚が目障りなんだよ」
彼は尚も新しい手巾で顔を拭き続ける。



***

「なぁカミラ、ここの所買い物が多くないか?無駄な金とは言わないが少々使い過ぎているぞ」
「あらぁ、そう?美容液を使い過ぎたかしらね。貴方のために美しくありたいじゃない」
「そ、そうか。私のために」

カミラを見つめるアマデオはふにゃりと相好を崩して「愛している」と彼女を抱きしめる。彼女もまたそれに応えるように抱き返した。

本当はデニィスに入れ込み無駄な買い物をしているのだが、それは受け取って貰えない。大体それはクラバットやカフスボタンだったので「貴方に似合うと思って」とおさがりを渡す。

「ありがとう、だが少々派手じゃないか?」
「いいえ、歳を召したのなら余計に派手じゃないと。そうでしょ?」
「そうか、そうだねぇ」

何も知らないアマデオはそれらを身に着けてデレデレとしていた。








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