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王家の秘宝
しおりを挟む王家に伝わると言われる秘宝がある、それがどのようなものなのか。貴族派筆頭のリーデンハイズ家はそれが欲しいのである。
「廃れた王家には最早一滴も血を残しておらん、先々代の王が最後であると聞いた。しかも秘宝がどのようなものかすらわからない。わかっているのは”血が必要”と言う事だ」
リーデンハイズ卿は深くため息を漏らす、小国ディカルド王国はだいぶ傾いている。その秘宝さえあれば盛り返すと信じているのだ。
「お父様、衰退した王家は戻るのですか?そもそも秘宝はあるのでしょうか」
娘カルラーナは落ち着いた様子でその疑問をぶつける、問われた卿は困ったように視線を外す。
「いや、実を言うとわからないのだ。その所在さえも……雲をつかむような話なのだよ。伝承は口伝だ、先代王すらも聞いていない。まったく困ったものだ」
「では、その秘宝とやらが役立たず、あるいは無価値であった場合は」
「うむ、アドルナフ家に用は無くなる。その時点で縁を切り融資は打ち切りだな」
「さようで……」
彼女は彼のことを思いだす、アマデオ・アドルナフは亡くなった先代から引き継ぎ伯爵となった。血筋は大祖母が王女であったことだ。兄妹もおらず、いまでは彼が最後の王の血を引く。
カルラーナは生を受けた瞬間から彼の婚約者になった、すべては血を受け継ぐためだけに。だが、彼女は物心つく頃にはアマデオに焦がれるようになっていた。
18も年上のアマデオはその端正な顔だちのせいか微笑むと女性を虜にする甘い雰囲気をだす。それにコロリと騙されて彼女は恋をした。年を感じさせない若々しさも相まったものと思われる。
『か、カルラーナ参りました、御機嫌麗しゅう』
『ああ、よく来たね。楽にしてくれ給え』
微笑みの貴公子ぜんとした彼は丁寧に彼女を迎えた、彼女の椅子を引く彼は紳士そのものだ。そんな彼が女にだらしない奔放者などと想像がつくはずもない。
彼が頬に触れるくらい近くで「フッ」と微笑めばカルラーナは天にでも昇る気持ちになったものだ。
「あぁ、忌々しい……あんな男だと知っていれば」
バキリと扇を折ったカルラーナはミシメシと再びそれを折った。そして彼女は己の気持ちに封をする。リーデンハイズの父の書斎から出て馬車に揺られる彼女は不機嫌そのものだ。
「……愛人を作って良いと言っていたわね」
彼女はスゥッといつもの顔に戻り彼の言葉を反芻する、そして目を眇めてどのような男が丁度良いかと考えた。
彼は言った『キミも愛人を持つことを了承しよう、でないとフェアじゃないだろう?そのぶんしっかりと我が家に貢献してくれ給え』
あの男はカルラーナを金蔓としか見ていない、益々と怒りが湧いてきて「見るものを見せてやろう」と昏い笑みを浮かべる。
「あの、お嬢様。愛人を作るおつもりですか?」
おずおずと侍女が聞いてくる、あの晩のアマデオの言葉は彼女も聞いているのだ。
「そりゃそうよ、初夜を台無しされたのだものね。意趣返ししたいじゃない」
「なるほど、ですが口の堅いものでないといけませんね」
「ふーん、そんな都合の良い男がいるかしらね?」
流れる車窓の風景をボンヤリと眺めるカルラーナは「現実的じゃないわね」と呟いた。その言葉を拾う侍女は「考えがあります」と言った。
「愛人が欲しいのならば平民はどうでしょう?彼らは金さえ積めば、それに口封じも簡単かと」
「あら、フフフッ怖いことを言うわね」
先ほどとは違って機嫌が治ったらしいカルラーナはコロコロと笑った。
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