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『どうか、私に自由を!愛したこの方と共に生きたいのです!』
娘の叶えたい夢は細やかだったが、身分がそれを許さない。公爵家令嬢アメリ・ベルガールが愛したのは平民の男性アボット・ベインなのである。

『お願いだ悪魔よ、アメリと幸せになりたいのだ!』彼もまた似たような世迷言を言う。
ヒシッと抱き合う二人の様子を俯瞰で見ている悪魔は血のように赤い柘榴を啜るとニタリと嗤った。

『なぁおい、柘榴ってのは人間の味に似ていると言われる。だが、どうだちっともそんな味はしやしない』
そういうと柘榴を握り閉めてバラバラと崩してしまう。

『俺は本物の味が好きだ、代償はくれるのだろうな?』




***


身分差を超えて結婚する為に悪魔との契約で実を結んだ。
だが、引き換えに命を奪われるのでは元も子もない、それを回避するべくアメリは封印隠匿した部屋へ籠っている。

とある洋館の一室に呼ばれた子爵家の親子は彼女に懇願されていた。

「どうか私を救って!貴女しか頼めないの!」
「ちょっと落ち着いてください。どういうことなのか」
「私の代わりに公爵家に住んでいただきたいの」彼女はそう言って涙を零した。
彼女は背格好が似ているマルベリアを頼ってきた、姿が似ている貴女ならば魂は取られないという。なんの話だとマルベリアは眼をしばたたかせる。

悪魔の潜むと噂の公爵家に身代わりとして棲んで欲しいのだと言う。それもこれもその家の娘アメリが悪魔と契約したからに他ならない。
代償は魂だというが姿が似通っている子爵家の娘マルベリアならば悪魔を騙せるのではという見解だ。
「似ている貴女ならば魂は取られないはず、悪魔を手玉に取れるはずよ!」
「な、なんですって!?」
だが果たしてそんな子供騙しに悪魔は惑わされるのか。

「お、お父様……これはどうしたら」
ずっと押し黙ったままの子爵に縋るように見たが、「うーん」と唸るばかりで要領を得ない。やむなくマルベリアは意を決して彼女に問う。


「悪魔がそんな事で騙せると?無謀ですわ」
「そんな事を言わないで!お金ならばいくらでも」
「でも、もし失敗して……」
その時は更に莫大な慰謝料を支払うという、マルベリアは話にならないと眩暈を覚えた。

躊躇う娘だったが、金子欲しさに彼女の父親が快諾してしまう。
「よかろう、貴女の切望を叶えましょう!」
「まぁ、良かった!これで私はほんとうの自由を得るのね!」
「そ、そんな御父様!」

乗り気のルディンクス子爵と涙目のマルベリアである。
「ふん、なにも取り柄のないお前が我がの役に立てるのだ!誇りに思うが良い!」
「そんな……」

傾いた子爵家の娘マルベリアはそれをしぶしぶ承諾した、それで子爵家が立ち直るならと……





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