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戦火の先に(覚醒)篇
友たちの涙
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「……やっと捕まえたよティリル陛下。ふふ、どんな風に遊ぼうか」
ジェイラの瞳は虚ろなままだが、その手はしっかりとティリルの両腕を掴んでいる。馬車内でのことが蘇ったティリルは彼女の手を無理矢理に引き剥がして距離を取る。
魔力が尽きたはずのジェイラが再び攻撃態勢になったことを場にいた者たちは訝しむ、宙に浮かぶことはなかったが血に濡れた服を着たまま動く様は不気味である。
「まさかまだ操作されたままなの?彼女の身は限界を超えているのよ!」
見えない卑劣な敵へ怒りをぶつけるティリルは彼女らしくない荒れた言葉を吐いた。人の心を持ち合わせていない敵にギリリと歯噛みして身構える。
「ティル落ち着いて、貴女は攻撃魔法を使えないでしょ」
フラウットが一歩前にでて援護をお願いねと言う、ティリルは静かに頷いて彼女へバフを掛けた。出来る事はなんでもしようと覚悟を決めた。
「ふふ、剣士がいないのなら分はこちらにある。風と雷でズタズタにしてあげよう」
ジェイラではない声が愉快そうに煽ってくる、戦うほどジェイラの生命力を削るので短期決戦でくるに違いない。
「トロヴォアーダ邪魔者を一掃せよ」
室内だというのに風と雷が暴れ出し容赦のない攻撃がはじまった、逃げ場のないここでは防戦一方である。結界を張るティリルは気が抜けないと気張る。足手纏いになると判断した重鎮たちは皇帝の机下へ潜り脱出を始めた。
「ほお、なんて強固な結界なんだ……でもね。キミ達が抗うほど、この女の身体は疲弊していく、最期には肉片すら残るか怪しいよ。なんせ生命力を使って魔法を駆使してるのだからフフフ」
敵の台詞を聞いた二人は瞠目して叫んだ。
「なんて残酷な仕打ちを!絶対許せないわ!」
「そうだよ!ジェイラを返せ!人でなし!」
怒りを剥き出した彼女らだったが、どう判断すべきか苦悩する。友か己の命か選択を迫られたのだから。
***
そうこうしているうちに救護員たちを連れて戻ったバリラが顔をだした、再び戦場と化した室内の有様を目にして驚愕する。大慌てで救護員たちを退出させると彼女は参戦する。
「ティル、フラ!状況を説明しろよ!なんでまたジェイラが暴れてんだよ!」
「ば、バリラ……ジェイラが死んじゃう、死んじゃうよ……」
反撃も出来ずに泣くフラウットが防戦するほかに手立てがないことを説明した。どちらも風前の灯火に等しいことを知らされてバリラは悔しそうに顔を歪めた。
結界を張り続けていたティリルが覚悟を決めた顔をして、敵前へ歩み出て交渉する言を発した。
「それほどに私の命が欲しいならば差し上げます、ですから彼女達を傷つけないで」
バリラとフラウットはギョッとして、彼女を引き止めて騒いだが「これしかないの」と女帝ティリルは彼女らの手を払い除けた。
「やっと降参したか、ティリル・フェインゼロ。大丈夫さその身は死んでも朽ちないよう施してやるよ。生ける屍の傀儡となれ。そして我が妻として側に置いてやろう」ジェイラの口を通して愚劣なことを述べる敵は勝ち誇って嗤う。
そして、雷撃でもって彼女の身体を貫かんと手を翳すのだった。
「ティル!嫌だよ、あんたが死んだら私はどうしたら……」
「嫌だ―!どうしてこんな惨いことができるの!?」
泣き叫ぶ彼女たちの悲痛な声が最後の足掻きとなってしまうのか。
翳した手の平から雷光が放出され膨張していく、そして――「逝くが良い我妻となる者よ」その言葉と共に雷撃が放たれた。
眩い光の玉はバシンと弾けるような音を立てて落ち、部屋を白い閃光で包んだ。焦げ臭い煙が漂いゆっくりと部屋に充満していく。それはほんの一瞬の出来事だった。
バリラは泣き叫びながら友の名を呼び床を這う、目が眩い光にやられ一時的に視力を奪われたのだ。フラウットは突っ伏して泣いている。
悲しい嗚咽が響く中、呻き声が小さく聞こえた。
徐々に視力を回復した彼女らの視界の先には薄ボンヤリと浮かぶ人影が写る。絶命したはずのティリルが床に膝をつけたままそこにいて茫然としていたではないか。バリラは彼女に声を掛けたかったが口を噤む他なかった。
命を散らしたのはジェイラのほうだった。
ティリルの前には両手を広げて立ったまま絶命していた彼女の姿があった。
彼女は操られながらも身を挺してティリルを護ったのだ。きっと助ける機を待っていたのかもしれない。
こと切れていながら、その顔はとても穏やかで微かに笑みを浮かべていた。
「ジェ、ジェイラ……貴女、あぁ……そんな私なんかの為に」
ティリルは震えながら彼女の亡骸を抱きしめて泣いた、諦めきれないのか、利きもしない治癒を何度もかけてジェイラの名を呼ぶ。
「嫌よジェイラ、貴女がいないとタコパが楽しくないわ、きっと美味しくないわ。お願いよ目を開いて……ジェイラ」
ジェイラの瞳は虚ろなままだが、その手はしっかりとティリルの両腕を掴んでいる。馬車内でのことが蘇ったティリルは彼女の手を無理矢理に引き剥がして距離を取る。
魔力が尽きたはずのジェイラが再び攻撃態勢になったことを場にいた者たちは訝しむ、宙に浮かぶことはなかったが血に濡れた服を着たまま動く様は不気味である。
「まさかまだ操作されたままなの?彼女の身は限界を超えているのよ!」
見えない卑劣な敵へ怒りをぶつけるティリルは彼女らしくない荒れた言葉を吐いた。人の心を持ち合わせていない敵にギリリと歯噛みして身構える。
「ティル落ち着いて、貴女は攻撃魔法を使えないでしょ」
フラウットが一歩前にでて援護をお願いねと言う、ティリルは静かに頷いて彼女へバフを掛けた。出来る事はなんでもしようと覚悟を決めた。
「ふふ、剣士がいないのなら分はこちらにある。風と雷でズタズタにしてあげよう」
ジェイラではない声が愉快そうに煽ってくる、戦うほどジェイラの生命力を削るので短期決戦でくるに違いない。
「トロヴォアーダ邪魔者を一掃せよ」
室内だというのに風と雷が暴れ出し容赦のない攻撃がはじまった、逃げ場のないここでは防戦一方である。結界を張るティリルは気が抜けないと気張る。足手纏いになると判断した重鎮たちは皇帝の机下へ潜り脱出を始めた。
「ほお、なんて強固な結界なんだ……でもね。キミ達が抗うほど、この女の身体は疲弊していく、最期には肉片すら残るか怪しいよ。なんせ生命力を使って魔法を駆使してるのだからフフフ」
敵の台詞を聞いた二人は瞠目して叫んだ。
「なんて残酷な仕打ちを!絶対許せないわ!」
「そうだよ!ジェイラを返せ!人でなし!」
怒りを剥き出した彼女らだったが、どう判断すべきか苦悩する。友か己の命か選択を迫られたのだから。
***
そうこうしているうちに救護員たちを連れて戻ったバリラが顔をだした、再び戦場と化した室内の有様を目にして驚愕する。大慌てで救護員たちを退出させると彼女は参戦する。
「ティル、フラ!状況を説明しろよ!なんでまたジェイラが暴れてんだよ!」
「ば、バリラ……ジェイラが死んじゃう、死んじゃうよ……」
反撃も出来ずに泣くフラウットが防戦するほかに手立てがないことを説明した。どちらも風前の灯火に等しいことを知らされてバリラは悔しそうに顔を歪めた。
結界を張り続けていたティリルが覚悟を決めた顔をして、敵前へ歩み出て交渉する言を発した。
「それほどに私の命が欲しいならば差し上げます、ですから彼女達を傷つけないで」
バリラとフラウットはギョッとして、彼女を引き止めて騒いだが「これしかないの」と女帝ティリルは彼女らの手を払い除けた。
「やっと降参したか、ティリル・フェインゼロ。大丈夫さその身は死んでも朽ちないよう施してやるよ。生ける屍の傀儡となれ。そして我が妻として側に置いてやろう」ジェイラの口を通して愚劣なことを述べる敵は勝ち誇って嗤う。
そして、雷撃でもって彼女の身体を貫かんと手を翳すのだった。
「ティル!嫌だよ、あんたが死んだら私はどうしたら……」
「嫌だ―!どうしてこんな惨いことができるの!?」
泣き叫ぶ彼女たちの悲痛な声が最後の足掻きとなってしまうのか。
翳した手の平から雷光が放出され膨張していく、そして――「逝くが良い我妻となる者よ」その言葉と共に雷撃が放たれた。
眩い光の玉はバシンと弾けるような音を立てて落ち、部屋を白い閃光で包んだ。焦げ臭い煙が漂いゆっくりと部屋に充満していく。それはほんの一瞬の出来事だった。
バリラは泣き叫びながら友の名を呼び床を這う、目が眩い光にやられ一時的に視力を奪われたのだ。フラウットは突っ伏して泣いている。
悲しい嗚咽が響く中、呻き声が小さく聞こえた。
徐々に視力を回復した彼女らの視界の先には薄ボンヤリと浮かぶ人影が写る。絶命したはずのティリルが床に膝をつけたままそこにいて茫然としていたではないか。バリラは彼女に声を掛けたかったが口を噤む他なかった。
命を散らしたのはジェイラのほうだった。
ティリルの前には両手を広げて立ったまま絶命していた彼女の姿があった。
彼女は操られながらも身を挺してティリルを護ったのだ。きっと助ける機を待っていたのかもしれない。
こと切れていながら、その顔はとても穏やかで微かに笑みを浮かべていた。
「ジェ、ジェイラ……貴女、あぁ……そんな私なんかの為に」
ティリルは震えながら彼女の亡骸を抱きしめて泣いた、諦めきれないのか、利きもしない治癒を何度もかけてジェイラの名を呼ぶ。
「嫌よジェイラ、貴女がいないとタコパが楽しくないわ、きっと美味しくないわ。お願いよ目を開いて……ジェイラ」
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