公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)

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戦火の先に(覚醒)篇

護りたいもの

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爆音のようなものに反応した王城中の兵がそこへ終結した、てっきり台風に被災したと勘違いした者達は惨状を見て驚くばかりだ。壁際に吹き飛ばされたらしいレオニードと侍女たちは気絶していてピクリともしない。無数に傷を負っている。
その惨事の中央と見られる寝具の上には、白目を剥いて宙に浮かぶジェイラがいた。
真ん中から割れた骨組みと、引き裂かれた布団から羽毛がユラユラと飛び散って余計に不気味さを演出する。
なんとか彼女を下ろそうとする兵たちだったが、触れようとするとバチリと電撃のようなショックを受けて飛ばされてしまう。

『女帝ティリルはどこだ……連れて行く』女性が発したとは思えない野太い声が浮かんでいる彼女から聞こえて来た。その浮いた体のまま廊下へ出てティリルが居るであろう場所へと移動し始めた。
どこだ、どこだ。と呟きながらそれは彷徨う、時々すれ違うらしい者達が悲鳴や怒号を上げている。
『ティリルどこ、連れて行く』
表情を失くして浮かぶジェイラはまるで幽霊のようである、もどかしさに苛立ちながら兵達は後を追うが距離は開くばかりだ。

「ティリル皇帝陛下!一大事でございます、直ちに避難してください!」
「なんですか!台風くらいで大袈裟な、城より河川周辺に住む民を気にしなさい」
天候の悪さを憂慮して、各所へ連絡をしていた所に騎士が飛び込んできたものだからティリルは泡を食う。
頑丈な城にいて何を騒ぐのかと窘める。

「ち、違うのです!台風ではなく人災が……あぁまるで砲弾を受けたような惨事で、あれは悪魔だ」
「なんですって?落ち着いて話しなさい」
執務室のドアを頑強に閉じるよう命令すると事のあらましを聞くことにした。
「あの娘が暴走しました!押さえていた魔力が戻ったようです。そして陛下を連れ去ろうと彷徨っています」
宙を飛び回るそれを悪鬼か幽鬼かと城中が大騒ぎになっていることを兵は報せた。

「そんな……ジェイラが私を探して暴走するだなんて」
俄かに信じ難い事件に彼女は青褪めたが、女帝として冷静な判断をせねばと唇を噛む。あれこれと策を練るがどうにも良い案が出てこない、同室にいた宰相と大臣らも「避難するべき」と言うばかりだ。

「城を捨ててどこへ行けと?私が居る場所に災厄は追って来る、ならば私はここで対抗するのみ、あなた達は巻き添えになる前に退去なさい!」
「陛下!ならば私もご一緒するのみ!」
「私共もですぞ!」新政府は発足したばかりというのに結束は固いようだ。
彼らは各々携帯していた魔道具を取り出すと迫りくる悪鬼を迎え撃たんと身構えた。

***

外は益々荒れて豪雨は止む気配がない、やがて遠くから怒号らしい声が届く。重鎮らが籠る執務室へは通さぬと奮闘する城の兵たちの声のようだ。小娘ひとりと侮ったらしい者が返り討ちに合って気絶していた。
「無闇に近づくな!相手は魔法使いだ、遠巻きに攻撃をして魔力を削るのだ!投擲が一番有効だかかれ!」
「応!」
電撃結界を纏っているジェイラに戦法を変えた兵は勢いづく、しかし彼女から溢れる魔力は静まる様子はなかった。何方が果てるか持久戦となる。

「陛下!応戦しておりますがジワジワとこちらへ移動しております、かなりの魔力は削ったはずですが魔女も捨て身で対抗しております」伝令兵はそういうと再び渦中へと戻って行った。
「私も結界を張り応戦いたしましょう、伊達に冒険者をしてきたのではないわ。ジェイラ……どうか正気に戻ってくださいな」
魔力量なら負けない自信があるティリルであるが、友と戦うのは辛いと眉を下げた。暴風が執務室の窓をガタガタ揺らし緊張を高めてくる。

応戦する兵の声が近づいてきた。
「いよいよね、貴方方は危険と感じたらすぐに撤退なさい。皇帝の執務机の下に隠し階段があります、それを利用しなさい。自分の命を最優先です、これは命令です」
「陛下!」
「ティリル陛下!」

そして数分後、ドンドンと分厚い扉を攻撃する音がした。
ミシミシバキバキと木材が裂けて行く音がした。刹那、攻撃音が収まったかと思うと爆音とともに扉が破壊され粉塵が舞った。

『……会いたかったティリル、隠れん坊は御終いだよ』
白目を剥いたままのジェイラが頭上から微笑んで語り掛ける、髪は四方に乱れて伸び、衣服はズタズタで手足からは血が滴っている狂気な姿に一同は息を呑む。
「貴女、ジェイラではないわね……恐らく呪術師。許せない彼女はとても美しい人なのよ!こんな醜い姿にして頭を着いて謝りなさい!」
振絞って出たティリルの声は震えているが気丈に立ち向かう姿はまさに女帝に相応しい。

『ふふ、いいね。生かして捕えたかったが死体でもいいや、嬲り殺して楽しんであげよう。私は遺体を愛でるのも大好きなんだ、屍を操って永遠の女帝にでもしてあげようか』
「なんて悪趣味な……」
すると身構えていた誰かが魔道具を発動させて宙に向けた。だが、電撃結界に触れて氷魔法の槍は霧散してしまった。これを機に一斉に攻撃を仕掛けた重鎮たちだった、火魔法、土魔法と休む間もなく攻撃が爆ぜた。

『ふ、少しはやるね。でも魔力はまだまだあるよ』

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