公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
上 下
155 / 172
戦火の先に(覚醒)篇

 穏やかな日

しおりを挟む
「いつ食べても美味いな~」
誰かの手料理を食べたのは久しぶりだと言って、レオニードは3倍増しの食欲を発揮した。カリーセットとドリアをペロリ平らげて、次はなにを注文しようかメニューを開いている。

「季節のシチューはキノコとチキンか、猪豚のローストも捨てがたいな」
「レオ~、その調子じゃデザートが入らないよ?アップルパイのマロンアイス添えは絶対たべるべきだもん!」
「ぐぬ!?秋の限定メニューか……くぅ!」

「ご主人様、また来れば良いじゃない?どれもこれも季節限定メニューが多すぎるよ」
ジェイラの提案にそれもそうかとレオニードは考え直して新作デザートに絞ることにした。その右前に座るバリラは黙々と皿を空にしてバゲットのおかわりをしていた。

「あら、皆さんすごい食欲ね。でも当然よね、成長期なんだもの」
給仕していたメリアが嬉しそうに微笑みながらレモン水を注いでまわった、レオもバリラも大分背が伸びていると言った。

「え、俺は成長してたんだ?……うーん、そっか最近やたら腹が減るもんな食べても追いつかないし寝てると節々が痛いんだよ」
そうぼやくレオニードをマジマジ観察してフラウットが15cmは伸びたんじゃないかと言う。装備品を新調するべきだとバリラも同意する。

「私もなんか衣服が縮んだとは思ってたんだ、食べ過ぎて太ったのかと思ってた。もぐもぐ」
「本人は気が付かないものかもね、私は成長止まってるし」
19歳になって成人間近のジェイラは少し羨ましそうにバリラを見つめた、そして恋がしたいなぁと溜息をつく。
みんなの様子を見守っていたフラウットは思案顔になり、ゆっくりのんびり年を重ねる獣人の彼女は「100年後くらいには伸びてるかなぁ?」と己の頭をポンポン叩く。

たらふく食べた彼らは眠い目を擦る、動くのが辛いと言うのを聞いたメリアは休憩室を使って良いと笑った。

***

長テーブルに臥せったり、カウチに延びて惰眠を貪る一行。1時間ほどした頃レオニードは誰かのクシャミ音で目を覚ました。大鼾をかいていたバリラが少し寒そうに縮こまっている。
「たく……しょうがないな」
カウチにあったブランケットをそっとかけてやり、時計を確認してからキッチンへと向かう。午後3時過ぎは仕込みの最中だと知っていたレオニードは手伝いでもしようと思ったのだ。


「グーズリーさん、休憩室を占拠しちゃってごめん。ちゃんと休んだ?何か手伝いできないかな」
大きな背中に向かって声をかけると巨大鍋と格闘していたシェフ兼店主のグーズリーが振り向いた。

「おお!師匠、気を使わせてすまんな。ふぅイテテテ……」
ベシャメルソースを作り終えた彼は、巨体を揺らして鍋を作業台へ移して椅子に腰かけた。ティリルがいたら癒し魔法をかけていただろう。そう思ってしまったレオニードは胸の奥がチクリとする。

ほんの少し歓談したふたりは次は玉葱を炒める作業をしようと張り切る。そして山と積み上げった玉葱を剥きまくり、ザクザクと切り進めた。美味しいものを作るには手がかかるのだ。ふたつの鍋に山盛りほおりこまれた白い玉葱はみるみると嵩が減っていく、だが飴色になるのは大分先である。

「戦場に行ったんだってな帝国軍はどうだった?」大陸の覇者フェインゼロスはさぞ恐ろしかっただろうとグーズリーは肩を震わせた。

「んーん、噂ほどではなかった。というか3万の兵と聞いてたけど2千も居なかったよ」
たった一人の魔導士に蹂躙されて白旗寸前に追い込まれていたことをレオニードは見たまま聞いたままを話してきかせた。

「なんだって!?たった一人の魔導士に殲滅されたってか……えぇ信じられねぇ」
「いやいや、殲滅ではないけどさ。とにかくすごい人だってさ、俺達が現場についたのは収束寸前だった、攻撃していた場面を見てみたかったな」

一冒険者としてそう感想を述べるレオニードに、グーズリーは木ベラを回しつつ「うぬー」と唸って思案顔である。
そして、なにかを思い出したのか小さく「うん、あの方ならばやりかねん」とひとりで納得しているようだった。
そんな彼に質問したくなったレオニードだったが、そこへ買い出しから戻ったメリア夫妻がキッチンへドタドタ入ってきた。
話題が食材の話にかわった為、それ以上問うことは出来なかった。

「みてみて~まだ新鮮なマスカットが売っていたのよ!でも量はないからみんなで食べちゃいましょう、それから面白い豆が安く売ってたの!なにかしらこれ?」
「おいおい、調べもせずに買い込んだのかよ。持て余したらどうすんだ?」
兄のグーズリーが呆れて軽率な妹を窘める、傍らに申し訳なさそうに佇むメリアの夫が「制止できませんでした」と悄気た。
だがメリアは反省の色を見せずにふんぞり返って宣う。
「持て余すわけがないわ!ねぇ?レオ?」
「え」


麻袋10kgほど買い込んだそれは濃い赤紫の豆だった、レオニードはなるほどと頷くと早速に「洗いましょう」と言ってニッコリ笑う。

「テトラでこの豆を買うのは俺くらいかと思ってましたよ。ツヤツヤで粒も大きい良い小豆だよ、餡子炊きを頑張ろうか」
「やっぱりレオなら知ってると思ってた!でもあんこ?聞き慣れない料理だわね」メリアは小さな豆を指先で弄ぶ。

「本当は一晩水に浸すんだけど。綺麗に洗ってアク抜きして圧力鍋で煮てしまえば問題ないよ」
それを聞いたメリアは子供のようにはしゃぐ、炊きあがった餡子はすぐに食べることが出来ると聞いて興奮するのだった。

「レシピはいろいろありすぎて俺でも迷うくらいだよ、春先には草餅を食べたし。秋のいまなら羊羹、栗どら焼き、団子、ど定番のおはぎ。朝食に餡バタートースト、寒い冬ならお汁粉!これがまた美味いんだ~!あとね保存食として甘納豆がお茶請けに合ってさケーキ生地に混ぜても良い。実はお赤飯が俺の大好物なんだ!豆が潰れちゃうから祝い事に使われないけど」
レシピを言いまくるレオニードにメリアはもっと詳しくと迫るのだった。

すっかり蚊帳の外にされたグーズリーとメリアの夫カールは玉葱を炒めるのに集中した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

異世界でひっそりと暮らしたいのに次々と巻き込まれるのですが?

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 旧名「異世界でひっそりと暮らしたいのですが」  俺──柊 秋人は交通事故で死んでしまった。  気付き目を開けると、目の前には自称女神様を名乗る神様がいた。そんな女神様は俺を転生させてくれた。  俺の転生する世界、そこは剣と魔法が飛び交うファンタジー世界!  その転生先はなんと、色鮮やかな花々が咲き乱れる楽園──ではなかった。  神に見放され、英雄や勇者すら帰ることはないとされる土地、その名は世界最凶最難関ダンジョン『死を呼ぶ終焉の森』。  転生から1年経った俺は、その森の暮らしに適応していた。  そして、転生してから世界を観てないので、森を出た俺は家を建ててひっそりと暮らすも次々と巻き込まれることに──……!?

異世界のんびり冒険者ギルド生活

みやび
ファンタジー
竜のお姫様に転生した少女と、冒険者ギルドの受付の人と、冒険者ギルドのおっさんの話 短編連作です。 基本的に毎日更新

異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)

ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。 流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定! 剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。 せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!? オマケに最後の最後にまたもや神様がミス! 世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に なっちゃって!? 規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。 ……路上生活、そろそろやめたいと思います。 異世界転生わくわくしてたけど ちょっとだけ神様恨みそう。 脱路上生活!がしたかっただけなのに なんで無双してるんだ私???

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

転生王子の異世界無双

海凪
ファンタジー
 幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。  特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……  魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!  それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...