公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)

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戦火の先に(覚醒)篇

溢者の慟哭

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緊張感の片鱗もない様子でレオニードは皇帝と向き合った、距離は取ってあるが歳の割に頑迷そうな皇帝の顔ははっきり見て取れる。同じ為政者でもこうも違うのかと友のガルディとを比べて少し驚く。

強者が放つ覇気をヴェラアズから感じたがレオニードは怯むことはなかった、獣王国で会った獅子王セレータに比べれば子猫のようなものだと思ったのだ。
「えーっと、俺の仲間がどうとかいう話のようですが?」
「……ほう、我を前にして平静でおるとはなかなか胆力があるようだな小僧」

「は?小僧って……俺と10歳も離れてないでしょ、そんなことより本題をどうぞ」
言葉による牽制は失敗したと思った皇帝は苛立って、額に青筋を作る。そして、磔させた銀髪の女性のアゴを剣の柄で上に向けさせて見えやすくしてやった。どうだと言わんばかりの態度だ。

「ご自分の妹を晒し者にして楽しいですか、なんて捻くれているんだ」
「ふん、こんな出来損ないを身内として数えたことはない。貴様こそ親しいものを嬲られて平気なのか?この場で討ち捨ててもかまわんのだぞ」

どうにも話が進まないとレオニードはワザとらしく肩を竦めて「俺の知る仲間ではない」とはっきり拒否の意を伝えた。皇帝は期待した応えではなかった事に瞠目して戦慄く。

「な、なんと!貴様らテトラの民には情というものが欠如しておるのか!?さきほどの魔導士といい巫山戯たものだ!」

「貴方に言われたくないな、自虐のつもりだったなら失礼。結局なにがしたいのか遠回しもいい加減にしてよね。大方分が悪い戦局を覆そうと画策してたんだろ、残念でした。」

レオニードは言いたい事を一気に捲し立てると元居た場所へ歩き出した。
皇帝はその背に雑言を浴びせて騒いだが、レオニードには届かなかった。あからさまな拒絶反応と全く人質を取っても動じない事に帝国兵たちもさすがに拙い事態に陥ったと騒めきだした。

「なぜ……なぜなのだ、どうしてこう上手くいかないのだ!」
すっかり憤怒した皇帝ヴェラアズは理性が吹き飛んだのか、磔にされた己の妹に目掛けて剣を揮った。
青銀のそれが腹部を突き抜け、それから袈裟斬りにし、最後に頸を跳ねて血飛沫が飛び散らせた。それでも飽き足らず柱に残った胴体を幾度も突き刺した。
ザクリとした手応えが金属を伝ってやってくる度にヴェラアスの顔に昏い笑みが零れる。どこまでも性根が腐っている。

「お前が殺したのだ!ハハハッ!警告を無視した結果だぞ、存分に苦しめ!愚民が!」
残酷な深紅が皇帝の身体を濡らして地に落ち吸い込まれる、その様子はまるで地獄の鬼のようだった。血濡れとなった彼を将軍たちは恐れて数メートルほど退いた。

始終を物見台から見守っていたガルディ王はこれほど愚かな戦争はないと言った。
「悪しき羅刹とはああいうものなのだな」
「はい、とても人の心があるとは思えませんね」

***

先代皇帝に続き、歴史に汚点を残した現皇帝ヴェラアズ。率いていた帝国軍達は抵抗することもせず捕縛された。勝国テトラビスは抗議文と召喚状を携えた使者を送り、すぐに帝国から宰相ら重鎮が敗戦国代表として損害賠償などの会談に馳せ参じた。


テトラビス側は戦争による大きな損害は被らなかったが、帝国側の不届き者が違法に搾取してきた鉱山への甚大な被害を理由に国家が崩壊するほどの額を請求した。テトラが青い天使の価値を知らぬと高を括っていた帝国首脳たちは青褪めて土下座をするほかなかった。

それでも浅ましい彼らは、すべての元凶である皇帝ヴェラアズの命と引き換えに減額を願い出た。
しかし、それで許すほどガルディ王は甘くはなく、金が無いのなら国土を寄越せと突っぱねたのである。

「たかがアフォの首一つで収まるとでも?それとも貴殿らの首も寄越すのか?生ゴミなど要らんわ、国庫などとうに空なのだろう、土地で赦すと申しておるのだ。この温情の言葉は二度はない、私を舐めるなよ」
若き王は歳に似合わぬ邪智深い顔を見せて恫喝した。
何とか丸め込もうとしていた帝国の老獪な連中は項垂れて、要求を呑むほかないと床に蹲った。



「いやぁ呆れたよ、帝国の地を査定させたがなんの価値もないときた。よく国として回っていたものだよ」
分厚い書類に目を通し終えたテトラの宰相と大臣が指先で疲れた眉間を解しながら愚痴った。開拓済みの田園地帯はともかく取り立てて大きな産業がなかった帝国は国土が広いだけの空っぽの国だった。

「通りで我が国の鉱山から盗みを働いていたわけですな。魔石ばかりに頼っていたツケでしょう。だが我が国には思わぬ棚ボタになりそうですぞ」
どれほど被害を回収できるか計算に余念がない財務大臣だったが、青い天使の製法と奪われた石を徴収すればどうにかなると結論した。

枯れた土地など返せば良いという声も上がったが、それでは敗戦国の苦渋を背負う民が気の毒だとガルディ王は一蹴した。

「臭い物には蓋ではなにもならん、使い物にならない首だけを一掃してしまえ、国崩しなのだ。温くはないぞ。」

「なんと……王は帝国を完全に潰すお考えでしたか」
それ以外になにがあると、ガルディは不敵に笑い「完膚なきまでやれ」と言った。
地図から帝国フェインゼロスの名が消えるのは遠い日ではない。


一方で、戦犯となり牢獄塔に監禁されたヴェラアズは、ただひたすら冷たい石壁を見つめる日々を送っていた。
最初こそは手の付けられない抵抗をして昼夜問わず声が枯れるまで騒ぎたてたが、やがて治癒が間に合わないほどの怪我をしてから大人しくなった。いくら特異体質持ちで治癒能力が高くても、骨折するほど暴れればさすがに懲りたようだ。
折れた腕に添え木され包帯だらけになった皇帝はただの青年に戻ったかのようだ。


投獄されて八日目の夜、彼を訪問する物好きが現れた。
「こんばんはァ、元皇帝さん。クフゥ、慰問客が見目麗しい女性でなくて申し訳ありません。私はこういう役回りが多いんですよォ」

「な、なにものだ!?」

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