151 / 172
戦火の先に(覚醒)篇
足掻く皇帝
しおりを挟む
「そもそも、俺達を呼ぶまでもなくモルティガが種明かししちゃえば良かったろ?」
レオニードはもっともな意見を彼にぶつけたのだが、何事も事象があるから面白いのですよ、と彼はヘラリと言った。
焼け爛れた痕跡を残す大地の向こう側には磔にされた女性の姿と、その横で不敵に笑うヴェラアズ皇帝の姿があった。10分ほど前にモルティガに拉致られてきたレオニードは戦場を目の当たりしているところだ。
「国同士の戦いというのはもっと一触即発のような緊張感があるのかと思ってた」
「はい、実際はこんなものですよォ、互いに命が惜しいですからね。忍耐強さと物資を多く持つものが有利です」
下手に仕掛けたら相手の思う壺なのだとモルティガは言う。
前世でも戦争というものを知らないレオニードは、どうにも受け入れ難いと思うのだ。攻めてきた方が不利に陥ることが多いらしい。
「そりゃま……敵地に身を投じるわけだし、当たり前か。スポーツもそうだよな」
ブツブツと独り言つレオニードの元に少し遅れてバリラとフラウット、ジェイラが到着した、短距離とはいえ転移魔法で飛ばされたらしくバリラの顔色は良くない。
「うっぷ……伝令で戦況はこちらが有利と聞いたけど」
「うん、そうなんだけどね。完膚なきまで相手の矜持をズタボロにしろと上がね」
レオニードは物見台に到着したらしいガルディを目線で指して溜息をつく。
ガルディ王は一見軽装で戦地にやってきた、防御がほとんどなさそうな装いだが魔法攻撃を弾く特別な仕様軍服だという。肌着は炭素繊維製で簡単には刃を通さない、これは獣王国からの支援のひとつだ。
この戦場において帝国出身のバリラは微妙な立ち位置なのだが、心情的にはテトラの味方をするつもりだと言った。
「ふん、都合が悪い者を排除して威張り腐る皇帝一家には辟易してたからね。ちなみに実家は穏健貴族派だから敵みたいなもんだよ、これを機に権威を完全に失墜してくれたら良い」
それを聞いたレオニードは安堵の顔をして、加減なく暴れられると言った。
「もっとも大包丁の出番はなさそうだけど」
相手がどう出るかテトラビス側ずっと静観していたが、業を煮やした皇帝が自ら動く。
腰に佩いた長剣を抜き、磔にされた銀髪の女性に切っ先を向けて宣う。
「テトラの侯爵にして冒険者よこれを見ておるのだろう?貴殿の親しき仲間がここにおる、助けたくば名乗り出るが良い!」
短慮な彼は声高に敵軍の方へ恫喝した、だが集結した1万の兵は物見遊山の態度を崩さず全体が冷淡な様子だった。
皇帝は駆け引きのつもりなのだろうとテトラの連中を見下す。
「脅しに屈しないというつもりかね?いいだろう、我らの本気を目の当たりにして後悔するがいい!」
青みがかった長剣が先ずは銀髪を斬り落とした、アシンメトリーになった御髪が冷風に晒され惨めに映る。
それから彼女のドレスが裂かれて、柔肌が露わになった。
これには女性陣が軽蔑の眼差しを皇帝に向ける。
「まだコケ脅しと思っているようだね、ふん、では次は……」
そこで、物見台からガルディ王が口を開き、愚行に走ろうとする皇帝に声をかけた。
「ヴェラアズ殿、ショーを楽しんでいるところ水を注して済まないが、そもそも交渉材料としてその人物は弱いのではないかね?聞けばその女性は貴殿の妹君なのだろう、皇帝家から追い出されたことは知っているし冒険者として我が国に腰を下ろしているのも聞いた、しかし、だからなんだ?という感情しかでない。我が国にとってなんの脅威にもならんよ」
ガルディは国の王として至極もっともな言葉を紡ぐ、場に居た従者達から失笑が漏れる。
だが、皇帝は顔色を変えず人質に価値があることを続けた。
「テトラの王よ、なんでも熟知していると言うのだな、愚かな。我らもレオニードとかいう者が貴殿の親しいものだと知っているのだよ、その者の冒険者仲間に愚妹が加わり、ともに行動してると把握済みなのだよ。近頃は家族同然となって同衾までしてるそうな」
真実はこちらこそが握っていると憎らしくほくそ笑む皇帝である。
「えぇ~同衾ってやらしいなご主人様、ムッツリスケベ」
「んなっ!同衾しとらんわ!」
「シッ、今はどうでもいいでしょうが」
抗議の声をあげて名乗り出そうになったレオニードをバリラが引き止めた。フラウットは飽きてしまい「話が長い」と言ってクッキーを噛みだす始末。
慌てて平静を装うレオニード達だったが、僅かな動揺を見せた一団を皇帝は見逃さなかった。
「そこの者!よく見れば密偵が寄越した人相書きに酷似しておるな、貴様がレオニードなるものだな!」
剣の先で定められ名指しされたレオニードは観念して肩を竦めながら群衆から前へ出た。
「はいはい、レオニード・ルヴェフル。しがない貧乏侯爵でーす」
レオニードはもっともな意見を彼にぶつけたのだが、何事も事象があるから面白いのですよ、と彼はヘラリと言った。
焼け爛れた痕跡を残す大地の向こう側には磔にされた女性の姿と、その横で不敵に笑うヴェラアズ皇帝の姿があった。10分ほど前にモルティガに拉致られてきたレオニードは戦場を目の当たりしているところだ。
「国同士の戦いというのはもっと一触即発のような緊張感があるのかと思ってた」
「はい、実際はこんなものですよォ、互いに命が惜しいですからね。忍耐強さと物資を多く持つものが有利です」
下手に仕掛けたら相手の思う壺なのだとモルティガは言う。
前世でも戦争というものを知らないレオニードは、どうにも受け入れ難いと思うのだ。攻めてきた方が不利に陥ることが多いらしい。
「そりゃま……敵地に身を投じるわけだし、当たり前か。スポーツもそうだよな」
ブツブツと独り言つレオニードの元に少し遅れてバリラとフラウット、ジェイラが到着した、短距離とはいえ転移魔法で飛ばされたらしくバリラの顔色は良くない。
「うっぷ……伝令で戦況はこちらが有利と聞いたけど」
「うん、そうなんだけどね。完膚なきまで相手の矜持をズタボロにしろと上がね」
レオニードは物見台に到着したらしいガルディを目線で指して溜息をつく。
ガルディ王は一見軽装で戦地にやってきた、防御がほとんどなさそうな装いだが魔法攻撃を弾く特別な仕様軍服だという。肌着は炭素繊維製で簡単には刃を通さない、これは獣王国からの支援のひとつだ。
この戦場において帝国出身のバリラは微妙な立ち位置なのだが、心情的にはテトラの味方をするつもりだと言った。
「ふん、都合が悪い者を排除して威張り腐る皇帝一家には辟易してたからね。ちなみに実家は穏健貴族派だから敵みたいなもんだよ、これを機に権威を完全に失墜してくれたら良い」
それを聞いたレオニードは安堵の顔をして、加減なく暴れられると言った。
「もっとも大包丁の出番はなさそうだけど」
相手がどう出るかテトラビス側ずっと静観していたが、業を煮やした皇帝が自ら動く。
腰に佩いた長剣を抜き、磔にされた銀髪の女性に切っ先を向けて宣う。
「テトラの侯爵にして冒険者よこれを見ておるのだろう?貴殿の親しき仲間がここにおる、助けたくば名乗り出るが良い!」
短慮な彼は声高に敵軍の方へ恫喝した、だが集結した1万の兵は物見遊山の態度を崩さず全体が冷淡な様子だった。
皇帝は駆け引きのつもりなのだろうとテトラの連中を見下す。
「脅しに屈しないというつもりかね?いいだろう、我らの本気を目の当たりにして後悔するがいい!」
青みがかった長剣が先ずは銀髪を斬り落とした、アシンメトリーになった御髪が冷風に晒され惨めに映る。
それから彼女のドレスが裂かれて、柔肌が露わになった。
これには女性陣が軽蔑の眼差しを皇帝に向ける。
「まだコケ脅しと思っているようだね、ふん、では次は……」
そこで、物見台からガルディ王が口を開き、愚行に走ろうとする皇帝に声をかけた。
「ヴェラアズ殿、ショーを楽しんでいるところ水を注して済まないが、そもそも交渉材料としてその人物は弱いのではないかね?聞けばその女性は貴殿の妹君なのだろう、皇帝家から追い出されたことは知っているし冒険者として我が国に腰を下ろしているのも聞いた、しかし、だからなんだ?という感情しかでない。我が国にとってなんの脅威にもならんよ」
ガルディは国の王として至極もっともな言葉を紡ぐ、場に居た従者達から失笑が漏れる。
だが、皇帝は顔色を変えず人質に価値があることを続けた。
「テトラの王よ、なんでも熟知していると言うのだな、愚かな。我らもレオニードとかいう者が貴殿の親しいものだと知っているのだよ、その者の冒険者仲間に愚妹が加わり、ともに行動してると把握済みなのだよ。近頃は家族同然となって同衾までしてるそうな」
真実はこちらこそが握っていると憎らしくほくそ笑む皇帝である。
「えぇ~同衾ってやらしいなご主人様、ムッツリスケベ」
「んなっ!同衾しとらんわ!」
「シッ、今はどうでもいいでしょうが」
抗議の声をあげて名乗り出そうになったレオニードをバリラが引き止めた。フラウットは飽きてしまい「話が長い」と言ってクッキーを噛みだす始末。
慌てて平静を装うレオニード達だったが、僅かな動揺を見せた一団を皇帝は見逃さなかった。
「そこの者!よく見れば密偵が寄越した人相書きに酷似しておるな、貴様がレオニードなるものだな!」
剣の先で定められ名指しされたレオニードは観念して肩を竦めながら群衆から前へ出た。
「はいはい、レオニード・ルヴェフル。しがない貧乏侯爵でーす」
0
お気に入りに追加
1,473
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
異世界でひっそりと暮らしたいのに次々と巻き込まれるのですが?
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
旧名「異世界でひっそりと暮らしたいのですが」
俺──柊 秋人は交通事故で死んでしまった。
気付き目を開けると、目の前には自称女神様を名乗る神様がいた。そんな女神様は俺を転生させてくれた。
俺の転生する世界、そこは剣と魔法が飛び交うファンタジー世界!
その転生先はなんと、色鮮やかな花々が咲き乱れる楽園──ではなかった。
神に見放され、英雄や勇者すら帰ることはないとされる土地、その名は世界最凶最難関ダンジョン『死を呼ぶ終焉の森』。
転生から1年経った俺は、その森の暮らしに適応していた。
そして、転生してから世界を観てないので、森を出た俺は家を建ててひっそりと暮らすも次々と巻き込まれることに──……!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)
ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。
流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定!
剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。
せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!?
オマケに最後の最後にまたもや神様がミス!
世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に
なっちゃって!?
規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。
……路上生活、そろそろやめたいと思います。
異世界転生わくわくしてたけど
ちょっとだけ神様恨みそう。
脱路上生活!がしたかっただけなのに
なんで無双してるんだ私???
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜
ワキヤク
ファンタジー
その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。
そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。
創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。
普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。
魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。
まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。
制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。
これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。
転生王子の異世界無双
海凪
ファンタジー
幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。
特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……
魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!
それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
妖刀使いがチートスキルをもって異世界放浪 ~生まれ持ったチートは最強!!~
創伽夢勾
ファンタジー
主人公の両親は事故によって死んだ。主人公は月影家に引き取られそこで剣の腕を磨いた。だがある日、謎の声によって両親の事故が意図的に行われたことを教えられる。
主人公は修行を続け、復讐のために道を踏み外しそうになった主人公は義父によって殺される。
死んだはずの主人公を待っていたのは、へんてこな神様だった。生まれながらにして黙示録というチートスキルを持っていた主人公は神様によって、異世界へと転移する。そこは魔物や魔法ありのファンタジー世界だった。そんな世界を主人公は黙示録と妖刀をもって冒険する。ただ、主人公が生まれ持ったチートは黙示録だけではなかった。
なろうで先行投稿している作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる