公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)

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戦火の先に(覚醒)篇

蹂躙 ウェインライト・ブレイクリー

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戦況は膠着状態のまま三日が過ぎた、両国睨み合う場所は山岳地帯のど真ん中である。そんな状況下では敵は人間だけではない、人里離れたそこは質の悪い魔物が多く生息しているのだから。

コカトリスならば食糧にもなるので歓迎だが、それ以外の毒持ち大蛇や本能のまま暴れたいだけの熊型と蜥蜴の魔物が厄介だった。戦地では物資を温存するのが基本だったため、現地調達できる木の実などを求めた下級兵士達が運悪くブラッディベアの縄張りに入り食い殺される惨事が発生した。

毒蛇と大蜥蜴の餌になる犠牲者も少なくなく、碌に治療もされずに野ざらしにされたまま朽ちる運命を迎える。持ち帰られるのは銀のプレートのみだ。

その多くの犠牲者は帝国兵だったが皇帝は「捨て置け」と言った、力なき者は淘汰されて当然という考えのようだ。
兵糧は無限ではない、下々の者は配給が乏しいことになりこのような悲劇が起こる。
敵戦地での水の確保なども下っ端がまず毒見をさせられるので、命の水を前に死と向き合う羽目になる。

そして4日目の朝、斥候から戻った伝令兵が皇帝の前に跪いた。
「お報せします!テトラ側辺境伯部隊2,500余名が後退しました。現在は統治領の際に下がっており大きな動きはありません」

「ほう?やっと身の程を知ったとみえる、我が軍の好機と見るが将軍はどう思う?」
吉報と取った皇帝だったが将軍の顔には期待した表情は浮かんでいない。

「辺境伯たちにはほとんど被害が見受けられません、なぜ後退したのか……守る側には物資も滞りなく届きましょう、私の考えでは」

煮え切らない態度の将軍に、皇帝は苛立ちそれ以上の進言を許さなかった。
「もう良い!四日も足止めを食らったのだ十分だろうが!斥候部隊を本体に合流させ前進させよ!」
「ぎ、御意!」

いつもの短気な性格を発揮して皇帝は鉄鎧を着付け直し、兜を深く被った。いつでも己が剣を揮うと言って昏い笑みを浮かべる。将軍は暴れ馬皇帝の手綱を引くのを止めた。

”着くべき主に恵まれなかった”と初老の男は天を仰ぐ。
一粒の雨が彼の頬に落ちた。

***

帝国軍騎馬隊が先陣を切りテトラビス国へ進軍した、もう後戻りは出来ない。
戦地には暗雲が覆い始める、やがて霧雨がチラチラと視界を遮るようになった。見慣れぬ敵地において良い状況とは言い難い。

そして敵軍を確認すると手早く荷車が解かれ、砲台が幾そも露わになる。
「ふふ、帝国の脅威を誇る力のひとつ遠距離砲だ。標的に命中すれば四方に鉄針が無数に飛び散り殺傷するのだ」
魔法ばかりに頼らず砲撃と騎馬、歩兵部隊でもって国崩しをしてきた歴史に誇りをもっていた。その戦法は野蛮のひとことに尽きる。

「物資を略奪の後、領民の家を容赦なく焼き払え!住民がいてもかまわぬ!油をまけば小雨など意味はない!」
略奪を兼ねた戦いの指示を飛ばす帝国軍部隊長たちの怒号に、我先にと兵達は暴れだした。特に良識に欠く傭兵たちの振る舞いは酷かった。


「なんと品の無い、あれでは山賊ではないかね」
辺境伯アスカムは物見台の上から遠眼鏡を荒ぶる一団へ向けてそう言った。側に控えていた伯爵の息子も「まったくだ」と言って憤慨する。

「父上、あれらにはハリボテの家屋を餌にしてちょうど良かったですね。王都より派遣されたあの方が間もなく到着されます」
「うむ、ウェインライト様が来て下さればなんの憂いもないだろう。あの方にとってムシケラどもなど鼻息ひとつで片が付くというもの」

辺境伯親子が高みの見物をしていた時、背後より飄々とした声がかかる。
「やぁやぁ、久方ぶりだね。ボクの孫弟子ちゃん、それからひよっこちゃん元気だった?」

その人物は銀縁取りをした白いローブを纏って菓子袋をガサコソやっていた。仮にも戦火を目の前にしているというのに緊張感はゼロである。

「大師匠様!ウェインライト様!お久しぶりでございます!」
「硬い挨拶はいいよー、でもたまには家に遊びにおいでよね。それより愚か者が勢いよく飛び回ってるじゃないか、目先の欲というのは一番怖いのにね?実に楽しそうで羨ましい」

いままさに目の前の大きな家に破落戸同然の兵たちが襲いかかり、金目の物はないかと物色しだした。
ウェインライトと呼ばれた男はその様を「バカだなぁ」と言って大笑いした。

「あの赤い石はボクが作ったガラス玉じゃない?見事に引っ掛かるなアハハハハッ」
「は、はぁ。大師匠なら土塊さえ金にしてしまいますからね」

白いローブの男はどこかの国から買って来たという黄金色の丸い菓子をモソモソと食べて見物に余念がない。
”人形焼き”というものらしく甘い香りが周囲に漂った。

「ひよっこちゃん食べる~?」
「い、いいえ。お気持ちだけ」
急に絡まれた子息がたいそう恐縮して答える。ハリボテの町が半分ほど焼き討ちされたところでウェインライトはどっこいしょと気合を入れて立ち上がった。

「火はすぐに広がるからね、だけど、ただ消しちゃうのはつまらないや。うん、円形にすぼめて彼らを囲っちゃおうか」

彼はナナカマドの杖をちょいちょいと動かして呟く。
”カンセラから~のレストリフィネ”と唱えた、飛び火から延焼していた町が円形に崩れ落ちていくと同時に消火された。それから丸く残った火がずんずんと縮小していった。

異変に気が付いた兵たちは逃げ惑うが、囲う火の手が阻んでどうにもならなかった。
それは高さ3mを超す火の壁となって、じりじりと狭まってくる。


「なんだ!?どうした?早く火を消せ!魔術師たちはなにをしている!早く消火魔法を、兵は水をかけろ!」
各部隊たちがそのように怒鳴るがどうにもならない。

「だめだ!この火は水では消えないぞ!」
「ひぃい!水魔法が反射してしまう!燃え移るものを崩すんだ!」

兵らは水をかけて奮闘したが意味はなく、魔術師の力も異常な炎には成す術がない。

「うん、ボクの火を消せたのは一番弟子のあの子だけだったからね、残念だよ」

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