公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)

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フェインゼロス帝国篇

開戦

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静観を決め込んでいた穏健派は、暴走した飛行戦艦が帝都を壊滅状態にした脅威に恐れをなしていた。なにより、その被害を多く被ったのは貴族達だったので暴君ヴェラアズを抑え込む派閥勢力がなくなってしまった。
皮肉なことに好戦的な皇帝派は一気に勢いに乗ったのである。一部の者は皇帝にこそ非があると事件の責任を問う声を上げたが秘密裡に処された。


夏終盤の候となったある日、皇帝ヴェラアスは城の謁見台に立ち声高に宣言する。
「空から攻める事は叶わなかった、だが帝国陸軍は世界を蹂躙尽くす軍力を誇る、平和ボケの国テトラビスなど恐れるに足らん相手ぞ!満を持して望む今日の良き日、我ら大帝国フェインゼロスは戦の旗を掲げる!」

大広場に召集された武士もののふたちは、長く燻ぶっていた闘志の炎を吹き出すように歓声でもって君主に応えた。壁際に並ぶ兵達がホーンを吹き鳴らして彼らをさらに奮い立たせる。

その様子を眼下に確かめると皇帝は満足そうに頷き手を振った。
その背後には新たに将軍に就いたアストリ侯爵が控えている、彼も前将軍に劣らず血気盛んな人物である。

「期待しているぞ、アストリ候よ。我を失望させるなよ?」
「ハッ!”攻めこそが優”!これぞ強者の生きる道にございます」

「うむ、わかっているじゃないか、存分に武勲を立てるが良い。功績に見合った褒美はいくらでも出すぞ」
皇帝は愉快そうに声をあげて笑った、黒地に緋色の紋章を刺したマントを翻して己も戦闘馬車に乗るべく動き出す。
「テトラ王と対峙するのは初めてだな、金髪の優男を聞いておるが、どのような首か掴み取るのが待ち遠しい」
皇帝の中ではすでに勝鬨が上がっているのである。


***


帝国軍に動き有とテトラビス城に報が届いたのは、半時後のことだった。
あまりに早い報せにガルディ王は「やはりレオの間諜が欲しい」と欲を述べた。

「……我が友にして王よ、そればかりは出来ない相談だ……うぇっぷ」
謁見に来たレオニードは、若干青い顔をして跪いている。蝙蝠男モルティガが仕入れた情報なので単体で登城すれば済んだのだが流石にスルスルと忍び込んでは外聞が悪いので主にして侯爵が同行するしかなかった。

「また魔力酔いか?」
「いいや、モルに抱えられて飛んできたんだけど……コイツは手加減しないんだ」
滑空するスピードが伊達ではない上に、景色が視界から消え去って行く様は転移の不快さとあまり差がないのだ。
しかも悪戯好きなモルティガは時々反転させたり錐揉みにして民家の屋根に飛び降りるものだから堪ったものではない。

「そりゃ普通にいやだな……間諜交換の話はなかったことに」ガルディは口元を隠して言う。
「んん~それは実に残念ですねェ、クフフフ。空の散歩にご招待したかった」
モルティガはいつものように軽る口を叩くと天井へ飛び上がり逆さに待機する。

「疲弊したとはいえ腐っても帝国だな、兵の数3万か……内訳は帝国兵が1万5千に傭兵1万、残りは同盟国の者か」
書面を睨むように読むガルディ王は思ったより同盟国支援が少ないと言った。マンパワーより物資支援に重きをおいたと言えば聞こえは良いが、僅かに綻びを見せた帝国を見下しつつあるのかもしれないと若き王は時代の先を読む。

「ガルディ、こっちの兵力はどのくらいで臨むの?」
「うむ、民兵なしで1万弱というところだな、俺は武器を持たない者たちを徴兵する気はない」
穏やかで優しい王らしくガルディはそう答えた、甘いと諌言されるであろうことは重々承知のうえらしい。軍務会議でどう変わるかはこれからだろう。

これ以上は一介の若輩貴族であるレオニードが口を挟むことではない。
それでも窮地にたった時はだれよりも早く駆けつけると約束して城を後にした。

帰りは王家から借りた馬車に揺られて家路を行く。車窓を眺めながらモルティガが他人事のように呟いた。
「ふーん、帝国の傭兵1万……金にものを謂わせた力は無いに等しいですねェ」
「……そうだな、劣勢と知れば彼らは無理して働かない、頃合いを見て逃走だってするからな」
「クフッ、まるで私のようですねェ」

雇われ兵などそれが当たり前である、帝国が搔き集めた努力は感心するがレオニードたちの目には形振り構っていられない弱さに映った。忠誠なき味方は敵に変わるからだ。

「レオ殿、この戦いをどう見ますか?」
「実のところ勝敗のことは読めない、俺は職業軍人じゃないから。素人目線でいえば青い天使を欲しがる帝国には美味しいのかもしれない。でもテトラにはどうでもいいからなぁ、うちが勝ったところで賠償できる余力が帝国にあるように見えないし」

至極真っ当な回答に蝙蝠男は「ふむふむ」というと何か思案するように目を伏せた。


黒い武装集団が砦に到着したと警告が轟いたのは、軍が動いた報せより1週間後のことだった。
国境を護るテトラ側辺境伯率いる軍勢が徹底抗戦して、帝国軍に挑んだ。
帝国軍の先頭を切るのは斥候を兼ねた傭兵団1千と帝国軍2千だった、後方から戦況を覗うのは皇帝と将軍である。

「この砦を突破口に雪崩れ込めば、我が帝国軍は一気に攻め込めるぞ!」
まだ小競り合いの状況だというのに、帝国の部隊長は先走った物言いをして傭兵たちを呆れさせる。
同胞を鼓舞するには早すぎた宣言であった。

「おいおい、帝国兵も落ちたな……戦況すら読めねぇのかよ」
「しっ、ほっとけよ。武勲に逸る野郎はみんな同じなんだ」
「違ぇねー、なんの為に斥候部隊を引いてんだ」

やはり日和見が好きな傭兵たちは報酬以上の働きはしたくないようだった。



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