公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)

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フェインゼロス帝国篇

人災は天災より質が悪い

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夜半過ぎのこと、月明かりのない日にそれは決行された。

「想像を絶するとは……こういうことか」
フェインゼロスの帝都を見下ろせる山影から、ある人物が囁いた。

ナイトグラス越しに見た景色は昼のようにハッキリ見える。
少々不格好で重く、鼻梁に食いこんで痛いが仕方ないとその影は肩を竦める。

眼下に広がる青白磁の帝都は無惨な瓦礫と化してそこにあった。
元は美しく整地されていただろう痕跡が僅かに覗えるだけである。

斜めに盛り上がり変形した白っぽい元街道には、馬車で出来たであろう轍が等間隔で残っている。
つい最近まで帝都の人々が闊歩していたとは想像もつかない有様だ。



幾本か残った円柱を見つけ、そこに巨大な神殿があったのだろうかと覗き見る者は思った。
すり鉢状に抉られた中央の地面が赤黒く変色して顔を出している。


「くふぅ、あそこは闘技場後ですよ。血気盛んな帝都民らしい趣味ですよねェ」
背後に控えていたもう一人の人物が軽口を叩く。


「……蛮行を繰り返して巨大になった国家なだけはあるな、あそこだけで町一つ分ありそうじゃないか?」
「レオ殿、中央の窪みから西へ視線を、怪しい残骸がありますヨ」

「え!?どこ……ん~俺の視力ではわからないや」

獣人のようにはいかない普通の人間であるレオニードには、目視出来ない距離だった。
「ふむ、人族は弱視なんですねェ。なんて不便な」
「いやいや、俺はいたって普通だから!獣人が身体能力高過ぎなんだよ!」

「クフフッ、ではでは移動しましょうかァ?」
「え?えええええええぇぇぇ!ぎゃーーーーー!」


モルティガは言うが早いか、レオニードを抱きかかえると崖から滑空してあっという間に窪みに到達する。

「ぎひぃ!ババババ……ばかやろ!死ぬかと思ったぞ!」
「シーッ、これを被ってなるべく屈んでくださいね」

モルティガは纏っていた黒マントを表裏返して素早くレオニードへ被せた。
「あれ?このマントの裏側って白いんだね」
「しっ、無駄口はおさえて私の後に続いてください」とモルティガは先導する。

それから、彼はドロリとした液体状に体を変化させて、ズルリズルリと移動し始めた。

「なんていうか、改めて目の当たりにするとメチャクチャな能力だよなぁ……なんかズルイ」
「ふっふっ、私だけの特殊能力ですからァ」


レオニードは周囲を警戒しながら歩を進めたが、人影はない。
それでも都市の中央部である、どこに監視の目があるかわからない。
緊張で喉が渇き、鼓動はバクバクと煩く鳴った。

「はぁ、俺って足手纏い?」
「おやァ、自覚がありましたか」

「ぐぬっ!」


***

目的の物は意外にも小さな欠片で、レオニードは拍子抜けした。
「ちっさ!ほんとにこれなの?」
「ええ、間違いありませ~ん。山影からハッキリ見えるくらい、この辺りには異物であり不自然な物体ですよ」

「これがねぇ」

つまんでマジマジと観察してから、拳大ほどにモノを内ポケットにしまいこむ。
さっさと暇しようとモルティガが再び先導してズルズルと動きだした。


「まるで古代遺跡みたいだな、巻き込まれた都民の弔いは済んでいるのかな?」
「熱線と衝撃波で粉砕されたと聞きますから、運良く残っても骨くらいじゃないですかねェ」
「ひぃ!?」

レオニードは撤退する道すがら、足元に転がる不自然な何かを目の端に捕らえる度に悲鳴を上げそうになりつつ耐えて歩いた。

「……やっぱ俺は来なきゃ良かったよ」
「クフクフ、きょうはずいぶんと臆病ですねェ。」

「だ、だって亡くなった人がいると思うと……」
「フッ、だいじょうぶです。山間から見たときに遺体らしきはありませんでしたよ」

それを聞いたレオニードはやっと安堵の溜息を吐いた。
二人が残骸を回収して国境を抜けたのは朝日が昇る直前だった。

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