公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
上 下
137 / 172
フェインゼロス帝国篇

洞窟に歌う

しおりを挟む
帝都から北東へ行った森林にそれはひっそりとあった。
人ひとりがやっと通れる幅の洞穴の先に、急ごしらえで作ったと思われる檻がある。


そこの隅に銀糸を揺らして、か細く歌う女がひとり。廃油ランプに照らされた横顔は凛としていた。
薄暗がりから響いてくる歌声には悲しみは伺えない。


「ふん、囚われの癖に見た目より豪胆だ」
「しっ、無駄口叩くな見張りに集中しろよ」

真っ暗な森に小さな篝火が二つ、頼りなげなその明かりに時折羽虫が飛んできて男達に嫌がらせしてくる。
やってられねぇなと何方ともなく愚痴る、視界には闇以外は映らない。
見張りとは一番損な役回りである。


初夏とはいえ、地形的に夜から朝はとても冷え込む。
所謂高地のそこは日中は過ごしやすいが、なんの面白みも無い場所だった。
真冬には5mもの雪が積もるため、棲みつこうなんて物好きはほとんどいない。

だからこそ選ばれたと言える。

遠くでなにかの声がした、野犬だろうかと見張りの一人がキョロキョロする。
「最悪は魔物かもなぁ」
「おい、やめろよ。たくっ!感知魔法には反応ねぇだろ」

ふたりのうちやや小柄なほうの男は大分ビビリのようで、しきりに周囲を見まわしては肩を竦める。
意味のないことだったが止めることができない。
存外、見張りには向いているようだ。

***

午前0時を少し回った頃だ。

寝静まったかと思われた囚われの女が再び歌いだした。
監視人たちはビクッとして、瞼が落ちかけた目がすっかり覚めた。


「んな、なんだよ気持ち悪い歌い方をしやがって!」
ビビリの小男が洞の奥を睨みつけた、疲れと擦り減った神経で苛立ちがつのっていた。

「ちょっと様子を見てくるぜ」
「あぁ、乱暴はすんなよ」


ゴソゴソと洞窟内へ入ると己の足音がやけに煩く感じた、男が近づいても歌声は途切れない。

「やいてめぇ!夜中にうるせぇってんだ!」
「あら、見張りさん。ごめんなさい、つい目が覚めてしまって退屈なの」


男は舌打ちして、呑気に答える女の方へ松明を翳す。
やや項垂れている女の顔ははっきりとは見えないが、銀糸の奥の目は美しく輝いていた。

ガキだと思っていた相手が、思ったより成熟していたと男は気が付いて劣情が湧いてきた。
「へっへ、暇ならどうだい相手しろよ。檻からは出してやれねぇが……」

若干膨らんだ欲を見せつける男に、女がクスリと笑う。

「そうね、ここはとても底冷えしますの、良かったらどうかしら」
女が懐から緑の瓶を出して光に晒す。

「おいおい、酒瓶じゃねーか。どうやって……。まぁ良いやちょっと相伴させてもらおうか」
期待した誘いとは違ったが、酒の相手も良いと男は判断してそれを受け取った。


栓をもどかし気に外して男はラッパ飲みをした。
「……ぷぅっはー!たまんねぇ、このくらいの役得がなきゃやってらんねぇからな」

酔いがまわって気分が高揚したのか、躊躇うことなくグビグビと喉を鳴らす。

…………

……

「……それで、貴方を雇ったのは闇ギルドなのね」
「あにいってんら、それは仲介で……俺らえ雇うのは決まって身分が高いヤツだお」
「へぇ例えば?」

「皇族、もしくはその側近らなぁ……手を汚さず悪さすんには俺らみたいのは重宝されるんらろ、ここだけの話、皇帝が絡んでるんさぁ。いつもの倍以上の報酬だからなぁバレバレよぉ、けへへえ!」

「なるほどなるほど、良くある話ねぇ、ささ、もう一瓶いかが?」

3本目の酒に手を伸ばした男だったが、その背後から怒鳴り声がした。



「おい貴様!戻らないと思ったら酒盛りしてただと!?巫山戯るな!」
「あへぇ?おめぇもろうら、すげぇ美味いろ」

ヘベレケになった相棒を蹴飛ばして、「見張りに戻れバカ野郎!」と引き摺っていく。

すると静かになった檻の中で、女はすっくと立ちあがると蠱惑に笑う。
それから変化を解くと”ゴン”と頭を岩天井にぶつけてしまった。

「アテテテ……身長差を忘れてましたァ」
彼女から彼になったその人物はゴソゴソとなにかを作り出した。


「案山子よりはマシでしょう、しっかり身代わりよろしくね」
160cmほどのそれに銀髪を一本捩じ込むとブルブルと振動して人型になった。

「はい、良い子だ。ティリル2号ちゃん、クフゥ!まさかここで猿共の魔道具が役に立つとは!良かったですねジャルバよ」

ティリルそっくりになった土傀儡はぎこちなく動くと地べたに座る。

「はい、ティリルちゃん。貴女は誰の仲間?」
『ワタシハ ナニモ ハナシマセンワ』

土人形ティリルはそう言うとふわりと微笑んだ。

「うん、良くできましたァ」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界でひっそりと暮らしたいのに次々と巻き込まれるのですが?

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 旧名「異世界でひっそりと暮らしたいのですが」  俺──柊 秋人は交通事故で死んでしまった。  気付き目を開けると、目の前には自称女神様を名乗る神様がいた。そんな女神様は俺を転生させてくれた。  俺の転生する世界、そこは剣と魔法が飛び交うファンタジー世界!  その転生先はなんと、色鮮やかな花々が咲き乱れる楽園──ではなかった。  神に見放され、英雄や勇者すら帰ることはないとされる土地、その名は世界最凶最難関ダンジョン『死を呼ぶ終焉の森』。  転生から1年経った俺は、その森の暮らしに適応していた。  そして、転生してから世界を観てないので、森を出た俺は家を建ててひっそりと暮らすも次々と巻き込まれることに──……!?

異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)

ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。 流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定! 剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。 せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!? オマケに最後の最後にまたもや神様がミス! 世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に なっちゃって!? 規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。 ……路上生活、そろそろやめたいと思います。 異世界転生わくわくしてたけど ちょっとだけ神様恨みそう。 脱路上生活!がしたかっただけなのに なんで無双してるんだ私???

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

転生王子の異世界無双

海凪
ファンタジー
 幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。  特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……  魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!  それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

処理中です...