112 / 172
トラブルプランツ スタンピード篇
謀反
しおりを挟む
影が情報収集に動いていた頃、同時に猿族たちも密かに行動を起こしていた。
魔法工学省の地下講堂にて、決起集会が開かれていたのだ。
出入り口は魔道具技術の粋を結集し隠蔽を施しており発見されなかった。さすがの影も見落とした。
真夜中に開かれた会には、入りきれないほどの同族が集まり犇めいていた。
いよいよ国崩しの時がきたと、感情が昂った同胞たちの咆哮がゴウゴウと講堂に響く。
共鳴にも似たそれは固く結ばれた絆の証明のようだった。
そこへ講壇へ上った男が「静まれ」と一言発っし手を掲げるととシンと静まりかえった。
男はフードに隠れていた顔を見せると鷹揚に頷く。大臣ジャルバである。
拡声魔道具を手にジャルバが宣った。
「我が愛する同胞諸君よ、愚王の尻を玉座から蹴落とす時がきた!我らは国崩しを発端に世界を蹂躙し、統一国家を樹立するのだ!全ての頂点に君臨するは我らに与えられるべき当然の権利である、同胞に相応しい国を造ろうではないか、しかし戦いは愚劣な者たちに阻まれ容易なことではないだろう、だが、臆するな!魔道具をはじめ科学技術を手に入れた我が種族はなによりも優等である。数年待たずして世の天地万物が平伏するであろう!我らの新しい歴史をここに刻もうぞ!」
黑い為政者の言葉に同胞たちは歓声で応えた。
輝かしい未来がすぐそこにあると信じてやまないのである。
人は大袈裟な言葉に酔いしれると疑う心が麻痺するのだ。
壇上から下りたジャルバは側近に声をかけた。
「少々誇張しすぎたか?」
「いいえ、同胞の矜持と自尊心を刺激するには大袈裟くらいが良いのです」
主ジャルバのマントを整えつつ手長の側近はそう答えた。
***
猿たちは夜明けと共に王城へ攻め入るべく進軍を開始した、初期数200万。
獣王国全土から終結した猿族はおよそ1000万に及ぶ。
進軍する兵は徐々に増え、昼前には500万を超えていた。
王都は夜中から昼の間に猿族で埋め尽くされていた。
住民たちは、街中を埋め尽くす焦げ茶の大群を見下ろして「猿族の祭りなんてあったか?」と頭を傾ぐのだった。
王都民がこれほど呑気だったのは、王都軍が全く動きを見せなかったからだ。
”迎え撃つまでもない”そう判断したのは他でもない獅子王である。
最低限の騎士を王城外門各所に配置をして高みの見物をしている。
だが決して猿族を見縊っているわけではない、むしろ賢い彼らを一番の脅威として警戒をしてきた。
「いまさらバタバタするまでもあるまいて」
「左様で」
獅子王と宰相は、長年に渡り牽制し合って来た相手を鋭い眼光で見張り台から見下ろしている。
小さな諍いは数年に一度起きていた、賢い猿族は他族を見下しては煽る行為をするのだ。
その度に獅子王は自ら動き、猿共を黙らせてきた。
「とうとう余の手の平から零れる日がきたか……ジャルバよ。其方はなにを欲する、身の丈に合わぬものを手にしても先にあるのは破滅ぞ」
先刻、陰から受け取った諜報文書を思い出して獅子王は苦い顔する。
「宰相、液体の正体はいつわかる?」
「内乱が静まる頃までにはご報告できるかと」
その返事に満足した獅子王だった同時に悲痛な思いが襲う。
「ジャルバ、世の中は広いのだ。お前が思っている以上にな……」
小競り合いが始まると王都民に退避命令が出された。
有事の際に用意されていた地下通路を通り、民たちは郊外または田舎町へ逃げおおせたのである。
蔓延る猿族を除けば、空になった王都はゴーストタウンのようだ。
それから本格戦闘に移ったのは、獅子王が午後の茶を一口含んだ時だった。
《―愚王を討て!勝利を我が手に!―》
拡声器から響くジャルバの声を聞いた獅子王は何を思っただろうか。
魔法工学省の地下講堂にて、決起集会が開かれていたのだ。
出入り口は魔道具技術の粋を結集し隠蔽を施しており発見されなかった。さすがの影も見落とした。
真夜中に開かれた会には、入りきれないほどの同族が集まり犇めいていた。
いよいよ国崩しの時がきたと、感情が昂った同胞たちの咆哮がゴウゴウと講堂に響く。
共鳴にも似たそれは固く結ばれた絆の証明のようだった。
そこへ講壇へ上った男が「静まれ」と一言発っし手を掲げるととシンと静まりかえった。
男はフードに隠れていた顔を見せると鷹揚に頷く。大臣ジャルバである。
拡声魔道具を手にジャルバが宣った。
「我が愛する同胞諸君よ、愚王の尻を玉座から蹴落とす時がきた!我らは国崩しを発端に世界を蹂躙し、統一国家を樹立するのだ!全ての頂点に君臨するは我らに与えられるべき当然の権利である、同胞に相応しい国を造ろうではないか、しかし戦いは愚劣な者たちに阻まれ容易なことではないだろう、だが、臆するな!魔道具をはじめ科学技術を手に入れた我が種族はなによりも優等である。数年待たずして世の天地万物が平伏するであろう!我らの新しい歴史をここに刻もうぞ!」
黑い為政者の言葉に同胞たちは歓声で応えた。
輝かしい未来がすぐそこにあると信じてやまないのである。
人は大袈裟な言葉に酔いしれると疑う心が麻痺するのだ。
壇上から下りたジャルバは側近に声をかけた。
「少々誇張しすぎたか?」
「いいえ、同胞の矜持と自尊心を刺激するには大袈裟くらいが良いのです」
主ジャルバのマントを整えつつ手長の側近はそう答えた。
***
猿たちは夜明けと共に王城へ攻め入るべく進軍を開始した、初期数200万。
獣王国全土から終結した猿族はおよそ1000万に及ぶ。
進軍する兵は徐々に増え、昼前には500万を超えていた。
王都は夜中から昼の間に猿族で埋め尽くされていた。
住民たちは、街中を埋め尽くす焦げ茶の大群を見下ろして「猿族の祭りなんてあったか?」と頭を傾ぐのだった。
王都民がこれほど呑気だったのは、王都軍が全く動きを見せなかったからだ。
”迎え撃つまでもない”そう判断したのは他でもない獅子王である。
最低限の騎士を王城外門各所に配置をして高みの見物をしている。
だが決して猿族を見縊っているわけではない、むしろ賢い彼らを一番の脅威として警戒をしてきた。
「いまさらバタバタするまでもあるまいて」
「左様で」
獅子王と宰相は、長年に渡り牽制し合って来た相手を鋭い眼光で見張り台から見下ろしている。
小さな諍いは数年に一度起きていた、賢い猿族は他族を見下しては煽る行為をするのだ。
その度に獅子王は自ら動き、猿共を黙らせてきた。
「とうとう余の手の平から零れる日がきたか……ジャルバよ。其方はなにを欲する、身の丈に合わぬものを手にしても先にあるのは破滅ぞ」
先刻、陰から受け取った諜報文書を思い出して獅子王は苦い顔する。
「宰相、液体の正体はいつわかる?」
「内乱が静まる頃までにはご報告できるかと」
その返事に満足した獅子王だった同時に悲痛な思いが襲う。
「ジャルバ、世の中は広いのだ。お前が思っている以上にな……」
小競り合いが始まると王都民に退避命令が出された。
有事の際に用意されていた地下通路を通り、民たちは郊外または田舎町へ逃げおおせたのである。
蔓延る猿族を除けば、空になった王都はゴーストタウンのようだ。
それから本格戦闘に移ったのは、獅子王が午後の茶を一口含んだ時だった。
《―愚王を討て!勝利を我が手に!―》
拡声器から響くジャルバの声を聞いた獅子王は何を思っただろうか。
0
お気に入りに追加
1,473
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
孤児による孤児のための孤児院経営!!! 異世界に転生したけど能力がわかりませんでした
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はフィル
異世界に転生できたんだけど何も能力がないと思っていて7歳まで路上で暮らしてた
なぜか両親の記憶がなくて何とか生きてきたけど、とうとう能力についてわかることになった
孤児として暮らしていたため孤児の苦しみがわかったので孤児院を作ることから始めます
さあ、チートの時間だ
異世界でひっそりと暮らしたいのに次々と巻き込まれるのですが?
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
旧名「異世界でひっそりと暮らしたいのですが」
俺──柊 秋人は交通事故で死んでしまった。
気付き目を開けると、目の前には自称女神様を名乗る神様がいた。そんな女神様は俺を転生させてくれた。
俺の転生する世界、そこは剣と魔法が飛び交うファンタジー世界!
その転生先はなんと、色鮮やかな花々が咲き乱れる楽園──ではなかった。
神に見放され、英雄や勇者すら帰ることはないとされる土地、その名は世界最凶最難関ダンジョン『死を呼ぶ終焉の森』。
転生から1年経った俺は、その森の暮らしに適応していた。
そして、転生してから世界を観てないので、森を出た俺は家を建ててひっそりと暮らすも次々と巻き込まれることに──……!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜
ワキヤク
ファンタジー
その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。
そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。
創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。
普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。
魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。
まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。
制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。
これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)
ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。
流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定!
剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。
せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!?
オマケに最後の最後にまたもや神様がミス!
世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に
なっちゃって!?
規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。
……路上生活、そろそろやめたいと思います。
異世界転生わくわくしてたけど
ちょっとだけ神様恨みそう。
脱路上生活!がしたかっただけなのに
なんで無双してるんだ私???
転生王子の異世界無双
海凪
ファンタジー
幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。
特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……
魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!
それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女も聖職者も神様の声が聞こえないって本当ですか?
ねここ
ファンタジー
この世界では3歳になると教会で職業とスキルの「鑑定の儀」を受ける義務がある。
「鑑定の儀」を受けるとスキルが開放され、スキルに関連する能力を使うことができるようになり、その瞬間からスキルや身体能力、魔力のレベルアップが可能となる。
1年前に父親を亡くしたアリアは、小さな薬店を営む母メリーアンと2人暮らし。
3歳を迎えたその日、教会で「鑑定の儀」を受けたのだが、神父からは「アリア・・・あなたの職業は・・・私には分かりません。」と言われてしまう。
けれど、アリアには神様の声がしっかりと聞こえていた。
職業とスキルを伝えられた後、神様から、
『偉大な職業と多くのスキルを与えられたが、汝に使命はない。使命を担った賢者と聖女は他の地で生まれておる。汝のステータスを全て知ることができる者はこの世には存在しない。汝は汝の思うがままに生きよ。汝の人生に幸あれ。』
と言われる。
この世界に初めて顕現する職業を与えられた3歳児。
大好きなお母さん(20歳の未亡人)を狙う悪徳領主の次男から逃れるために、お父さんの親友の手を借りて、隣国に無事逃亡。
悪徳領主の次男に軽~くざまぁしたつもりが、逃げ出した国を揺るがす大事になってしまう・・・が、結果良ければすべて良し!
逃亡先の帝国で、アリアは無自覚に魔法チートを披露して、とんでも3歳児ぶりを発揮していく。
ねここの小説を読んでくださり、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる