公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)

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独立篇

お嬢様は猫の手を覚える1

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レオは左腕の広範囲に油を浴びてしまった。



フラが出した氷でガンガンに冷やし、痛みが和らいだ後ティルが治癒魔法をかけてくれた。

少し赤身を残しほぼ治るもティルが包帯を大袈裟に巻く、ちょっと不格好。





「ワザと手を抜きました、明日には完治します」

「ティル、なんで?」

「治癒は完璧で痕も残りません、これはバリラに怪我を認知させるためですの」

ティルは本気で怒っていた。



「それから、レオさん。狩場で手を抜くのはいただけません。なんの為のスキルですか」

「ご、ごめんなさい」





談話室へ入るなりバリラが駆け寄って謝罪した。

「ごめん!ほんとうにごめん、痛かっただろ?煮るなり焼くなり」

「いいよ、煮炊きするのは美味いもんだけだ」

「う・・・」





包帯の白が痛々しく、バリラの精神を抉る。

「とりあえず飯にしよう、せっかくのトンカツが冷めちゃう」

「私がスープをわけますね」

ティルが率先して動く、バリラは右往左往するばかりで「邪魔です」と叱られて悄気た。





目を潤ませて小さくなったバリラは借りてきた猫のよう。

サクサクのカツを噛んでるのに「モソモソ」と音がする、皿のカツは一向に減らない。



「ソースかけるとすっごい美味しいね」フラはいつものマイペースっぷりでガツガツサクサク平らげる。

「バリラ、ちゃんと食べるのが一番の謝罪ですわ」



ビクンと肩を跳ねてバリラがますます萎縮する。

「う、うん。・・・美味しいよレオ」

「そうか、怪我した甲斐があって嬉しいよ」



バリラが死刑宣告を受けた囚人みたいに「ひぃ!」と声をあげて頭を抱えて蹲る。

やり過ぎたかとティルを見れば、肩を竦め(あとで)と声を出さず返す。



***



食後、片付ける隙に「一晩かけてゆっくり魔法が効くと教えてましたわ」とティルが囁く。

「う、うん」

(ティルは耳元で囁くクセでもあるのだろうか?)



色っぽい声と微かにかかる吐息にHPが削られたレオは床にへたりこむ。

それを見ていたバリラが駆け寄ってきた。

「だ、だいじょうぶか?まだ痛むのか?」



眉毛を下げて心配するバリラはいつもと違いしおらしく、ちゃんと女の子に見えた。

平気だと言って包帯の手を振る、「バカ!無茶するなよ」と優しく手を握ってくる。





大きな瞳からつうっと涙を零した。

「ば、バリラ、元気だせ。お前が悄気たら調子狂うだろ?」

「らってぇ・・・ふえぇぇぇ。わたしのせいで怪我しちゃって・・・」



私はみんなを護る剣になりたいのにと泣き崩れた。

バリラは料理中にふざけてゴメンと何度も謝る。

レオは気にするなと頭を撫で怒ってないよと伝えた、溢れる涙を袖口で拭ってやる。

「俺も狩場で浮かれてたから、お相子にしよう」

「うん。グス・・」





「バリラ、手伝いたいってキッチンへ来たのは興味あったから?」

「・・・ふぅ・・・うん。覚えたい・・・頑張りたい、野営の練習にもなるから」

少し涙を溜めて真っ赤に染めた顔をあげると、レオを真っすぐ見つめる。



「バリラって可愛かったんだな」

「ふぇ?」



「まずは猫の手から覚えよう」

「ねこのて?」





バリラは「それはどんな剣技だ?」と見当違いのことを言った。
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