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反抗期篇

拗れた恋の溶かし方

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「何を期待し、何を勘違いして生きているやら知らないが。どうしてキミは周りを不快にさせるんだ?」
王太子が冷たい台詞を吐いた。


「わ、わたくしは別に、自分の立場を理解して、それを知らしめているだけですわ」
「へえ?立場・・・。我儘で傲慢、謙虚さもない。そんな性格で王妃になれるとでも?誰彼構わず気に障る相手に喧嘩腰の女が外交で通ずるものか」


王太子はそう吐き捨てると薔薇園から去って行った。
(おーい猛獣を置いてくなよ)


般若顔で怒り震えるメスイヌ嬢はどういうつもりかベンチに座る。
レオはそっぽを向いて残りの冷茶を飲みカラカラと氷の音で涼む。


「なにがいけないのよ!お父様たちはわたくしに気高く振る舞いなさいとおっしゃったわ!」
彼女は籠からショートブレッドを鷲掴みガシガシと食べだした。


「……!?なにこれ凄い美味しい!」
淑女らしからぬ食べっぷりで山盛りの菓子を全部平らげてしまった。


ちらりとレオを見る目は「ざまあ」と言っている。

「……それ、俺が作ったんだけどね」
「なんですって!?」
王宮の菓子職人が作ったものだと勘違いしてたメスイヌ嬢は瞠目して固まる。


ガバリと立ち上がりレオの胸倉を掴んで叫んだ。
「作り方を教えなさい!」



は?



***



「まずは勝手に食べた謝罪からじゃないの?」
レオは憤慨し、彼女の手を払い除けて立ち去ろうとした。


「お待ちなさい!いえ……待って……お願いします」
尻窄みになり哀願し始めたメスイヌ嬢にレオは困惑した。


「勝手に食べて申し訳ありません……そのガルディ様はいつもアナタの傍にいると楽しそうで、悔しくて辛くて」
顔を真っ赤にしてメスイヌ嬢は涙を溜めて謝罪する。


「あーまあ、ガルディ以外は嫉妬が凄いって気が付いてたさ」
「まあ!?」


ガルディは女心に非常に鈍感だ、それ故にメスイヌ嬢の恋心は拗れに拗れてしまい周囲を困らせる悪循環を作っていた。
「私はただ、お慕いしていただけで。でもあの方はただの婚約者としてしか見て下さらないの」


冷静ならば彼女は儚げな美少女である。
恋ってのは女をモンスターにする厄介な病気だとレオはウンザリした。

「魔物より怖い」
「え?」

「いいえ、なんでも。まあいいよ、レシピは凄く簡単だ。ただ、俺の場合目分量で作っててさ」
サラサラと材料と目安分量をメモして渡す。

「小麦粉、砂糖、バター、塩・・・え?材料はこれだけですの?」
「基本はそれだけ、好みでナッツ入れるかは自由だね。俺はメンドイから粉を振るったりしないし冷蔵庫で冷やしもしない」


材料をポリ袋にいれてガサガサって混ぜて平たく伸ばし焼くだけでも十分出来てしまう。
丁寧に作ったほうが良いけど、だが見た目度外視のメンズ料理に期待したらダメ。


「細かい作業はメイドにでも聞いてよ、庶民の菓子だから誰でも作れる」
「そ、そうでしたの。あの・・・」


「それからこれ、初心者でもできるナッツのフォンダン。砂糖使うのが流行りなんだろ?」
ちょっぴりの水と砂糖を煮溶かしてナッツを入れて絡めるだけのレシピを渡す。


「あ、ありがとうございます」
ぎこちなく礼をすると彼女は足早に去っていった。


「王太子の胃袋掴めよー」
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