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蹂躙される獣王国

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シンギル王子の愚行を開戦の理由に同盟国軍は獣王国へ攻め込んだ。
宣戦布告の書簡を受けとっていたフォルヴェス王は「時はきた」と立ち上がる。

「勘違い甚だしい人族を迎え討とうではないか!我が国の王子を盾に取ったことを後悔させてくれる、どちらが大陸の覇者か知らしめてくれるわ!」
愚王の言葉に決起した獣人たちは「返り討ちだ」と息巻いた。元より血の気が多い種族は交戦することを喜んだ。後先のことを考えないその行動は愚蒙そのものであった。

数だけは多い獣王国だったが、戦法も銃火器にも大差がある両陣営の鬩合いせめぎあいの優劣は開戦当初から明らかだ。
先陣から優勢だった人族の同盟国軍は勢いを止めずに二倍近い獣人兵軍を蹴散らして行った。
魔導蜂巣砲ガトリングの連射砲撃と帝国軍による空爆が凄まじい、上空を先導するのは巨鳥に乗ったロウナード王子だ。見た事もない兵器と戦法を前に獣王軍の戦意は瞬く間に削がれていく。

「ば、馬鹿な!たかが人族の攻撃に押されるなど!何故だ!こちらは倍近い兵がいるのだぞ!」
戦況を高台から見ていた王は獣王国が誇る精鋭部隊が蹴散らされて敗走する無様な様子を信じられないと叫ぶ。兵のほとんどは獣化して体躯は通常の二倍になっているにも関わらず力で押されているのだ。

「我が王よ、各兵隊の六割が敗走しました……これはもう……」
同じく戦況を見守っていた宰相が諦めた口調で負けを認める発言をした。すでに牙を捥がれた様子の宰相を見て王は怒り狂う、まさに獅子の歯噛みである。
シンギル王子と同様に赤獅子の姿に変貌していた王は、腑抜けた発言をした宰相の首を己の大爪で撥ねた。
「ふん!余の側近に腰抜けは要らん」
その容赦ない断罪を目の当たりにした他の臣下達は震えあがった、戦いを選んでも逃げを選んでも未来はないのだと知る。



「クソッ!無人の戦車が厄介だぞ」
苦戦を強いられる獣人の兵達はしきりに動力源である箇所を攻撃していた。それは間違いではないが一番の得策は車輪の破壊であると気が付かない。その無駄な作業に夢中になり過ぎて、背後から手榴弾や空撃を浴びてしまうのだ。

「ふむ、やはり浅慮な連中だ。勇猛な姿は良いがそれだけだな」
無人戦車を遠隔していた某国の兵が苦笑しつつ、無様に散っていく獣人兵を哀れに思った。だが、手を緩める気はない。
獣王軍の兵力を七割近く潰したが、フォルヴェスの愚王は負けを認めない。認めたくないのだ。本来であればとうに白旗を揚げているはずだ。


「諦めが悪いなぁ……気持ちはわかるけど」
上空より戦っていたロウナードは犬死にしていく敵国の兵へ哀悼した。引くことを許されない彼らは逃走できないでいるらしい。勇退という言葉を知っていれば倒すべきはフォルヴェスの王だと気が付いていただろう。
矜持だけで耐えていた獣王軍だったが、その戦いは半日で停戦となった、獣王国の殿にして王が渋々白旗を揚げたからだ。一千万以上いた獣人兵の生き残りは僅かに二万以下だった。瓦礫と化した獣王国の都心部は悲惨だ。都民のほとんどは逃げおおせていたようだが逃げ遅れた者は生存が困難と思われる。

「判断が遅すぎたようだね、獣王の首を捧げていれば被害はここまで甚大じゃなかったはず」
ベラゴワシ古代鷲から降りたロウナード王子は焦土と化した敵国の街を眺めて嘆息した。いくら繁殖力が高い獣人たちでも復興にはかなり時間を要するだろう。
「まぁ、手を貸すつもりはないけれどね」

敗戦国となったフォルヴェスの城は火を放たれて栄華を誇った姿は消え去った。千年以上続いた国の歴史が幕を閉じた。

獣王国の絶対王者を失った獣人の民は散り散りになり、平坦な土地を捨て森深い場所や山岳に隠れ住むことを選んだ。閉塞的な生き方を選んだ彼らは文化までも失い、言語さえ理解しない者が増えた。その大戦を傍観していた他の獣人国も人族の叡智を恐れたあまりに同じような生き方を選び力を失って行った。
やがて彼らは獣人から魔物と名を変えて人里から遠く離れた地で繁殖することになる。

戦の後にロウナードとカリノは次のような会話を交わした。
「豊かな暮らしを捨てた獣人はほんとうの獣に成り下がったのね」
「哀れであるが、彼らはその選択をした。なるようになったと私は思うよ」


大戦の跡地は同盟国が共同で管理支配することで落ち着いた、やがてそこは共和国の名を掲げて新しい歴史を刻む。



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