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罪咎の果て
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国を崩壊させるほどの大罪を犯したアルゴリオとその一派は、極刑の斬首が妥当であると判断はされたが、その程度では生温いという声があった。それは若くして王の座に就いた第一王子マルドの意見である。
「斬首も絞首も一瞬の恐怖しか与えられない、そうは思えませんか宰相殿」
先代が作った負の財産を押し付けられた新王は眉間に皺を寄せてそう言う。
「では、どのような処刑を?」
「南の荒野の先にある砂漠へ放逐が良い」
「!?悪魔の大鍋へ……いや、確かに大罪人には相応しいかと思いますが、逃亡の恐れがございます」
全体が鍋のように広がる広大な砂漠の地形は日中は灼熱地獄である、だが柵などの囲いは当然になくその気になれば這い出ることは可能に思われた。
「逃げられるような抜けたことはしないさ、この私の魔法を忘れたのかな?」
「あ、あぁそうでした……失念しておりました」
「うん、思い出してくれて良かった、だてに異国を回って学んできたわけではない。名目上は外交だがね」
彼は温厚そうな相貌をしていながら、実はとても厳格で冷徹な内面を持つ。弟王子とは違う厳しさがあるようだ。
罪人たちの処罰が下されてすぐに騎士団は動く、地下牢にて沙汰を待っていた教団と貴族たちは「流刑」と聞かされてすぐに命を刈られるわけではないと知って安堵の顔をした。国外への放逐処分が生き地獄の旅路になるなどと想像もしていないのだろう。
粗末な荷馬車に手足は縛られたままなのはもちろん、目隠しをされて乗せられた元大司教アルゴリオは鼻歌でも奏でそうに呑気な様子だ。その他、大勢も同様である。
「放逐処分ならばいかようにも生きられるだろう、我はこの程度では終わりはせんぞ!」
「流石はアルゴリオ猊下!どこまでも付いていきますよ!」
「私もです!」
「どうか我らを御導ください!」
視界を塞がれいたが、アルゴリオの声を拾った教会関係者らは未だに事態を甘く見ていて、ただの罪人でしかない肥満男に縋って諂う。別動の馬車には元貴族たちが乗せられているが、おそらく似たような甘い考えをしているかもしれない。
***
荷馬車に揺られること一月弱、やっと罪場の地へ辿り着いた。
碌に食事を与えられていない罪人たちはすっかり憔悴していたが、その目はまだ死んではいなかった。漸く外気に触れられ目隠しを外された彼らは解放感でいっぱいなのだ。
最後にその地に降り立った偽姫巫女ドナジーナは周囲の景色を見渡して何もない荒野に驚き目を見開く。赤茶の大地とゴツゴツの大岩、草木一つ生えておらず地平線が見渡せるが良い景色とは言いかねる。
「な、なによここ?家屋どころか小屋すらないじゃないの!」
彼女は何を勘違いしていたのか最低限の生活拠点くらいはあるものと期待していたようだ。
そして、彼らの後に少し遅参して到着した豪奢な馬車が停止してドアが開かれた。
「マルド陛下に敬礼!」
降り立つ人物を騎士らは一斉に敬礼して出迎えている、新王マルドである。彼は自ら処刑場に出向きアルゴリオ達を断罪するようだ。
「マルド王様!」
軽い頭のドナジーナは顔をパッと明るくして一縷の望みを期待した。この土壇場に慈悲を請うようなそぶりを見せた。だが、マルド王は愚者の顔など目もくれない。
侍従がマルド王の為に赤い絨毯を敷き跪いて到着を待機した。マルドはゆっくりと歩を進めると手を翳して術を展開した。それはあっと言う間の出来事だった、黄金の幕のようなものが大地の先に続く砂漠へ覆われたのだ。一度そこに入った者は出られない牢獄結界である。
「うん、良い出来だ。これなら十数年は持つんじゃないかな」
「お見事でございます陛下!眼福です、ですが奴らはそんなに生きながら得るでしょうか?」
護衛の騎士団長が御業に感服しながら言う。
「まぁまぁ、備えあれば憂いなしと言うじゃないか、奇跡的に助かっても困るからね」
「は、はは……なるほど」
マルド王は優美に微笑みながら中々に残酷なことを言った、決して怒らせてはいけない人だと騎士たちは唾を飲み込む。
「では始めてくれ、私はひと足早く撤退させていただくよ」
「御意!」
護衛の騎士団長と侍従らは陛下専用の馬車に共に乗り込み素早く帰路に発った。
それを見ていたドナジーナは「なによう!期待させておいて恩赦はないの!」と叫んだ。罪人の綱を引いていた騎士が見咎めて彼女の背を蹴り上げ「不敬だ!」と怒鳴る。
蹴られて転げた彼女はグスグスと泣いたが誰も手を差し伸べはしない。
一列に並ばされた罪人一行は数十分先の砂漠へと歩き出す。次第にジワジワと焼くような日光と巻き上がる熱風に顔を顰め熱砂に足を取られては悲鳴を上げていた。
ドナジーナ以外にも女囚は幾人か混ざっていたので甲高い悲鳴が何度も上がって騎士達を苛立たせた。
「さあ、到着だ。ここが流刑の地、南の砂漠だ。別名悪魔の大鍋という精々罪を悔いるが良い」
騎士たちは罪人たちを情け容赦なく砂漠の窪みへと落として行く、太々しい態度だったアルゴリオも勘違い娘のドナジーナも無様に熱砂の底へとザラザラと滑り落ちた。
最悪な地獄の始まりである。
「斬首も絞首も一瞬の恐怖しか与えられない、そうは思えませんか宰相殿」
先代が作った負の財産を押し付けられた新王は眉間に皺を寄せてそう言う。
「では、どのような処刑を?」
「南の荒野の先にある砂漠へ放逐が良い」
「!?悪魔の大鍋へ……いや、確かに大罪人には相応しいかと思いますが、逃亡の恐れがございます」
全体が鍋のように広がる広大な砂漠の地形は日中は灼熱地獄である、だが柵などの囲いは当然になくその気になれば這い出ることは可能に思われた。
「逃げられるような抜けたことはしないさ、この私の魔法を忘れたのかな?」
「あ、あぁそうでした……失念しておりました」
「うん、思い出してくれて良かった、だてに異国を回って学んできたわけではない。名目上は外交だがね」
彼は温厚そうな相貌をしていながら、実はとても厳格で冷徹な内面を持つ。弟王子とは違う厳しさがあるようだ。
罪人たちの処罰が下されてすぐに騎士団は動く、地下牢にて沙汰を待っていた教団と貴族たちは「流刑」と聞かされてすぐに命を刈られるわけではないと知って安堵の顔をした。国外への放逐処分が生き地獄の旅路になるなどと想像もしていないのだろう。
粗末な荷馬車に手足は縛られたままなのはもちろん、目隠しをされて乗せられた元大司教アルゴリオは鼻歌でも奏でそうに呑気な様子だ。その他、大勢も同様である。
「放逐処分ならばいかようにも生きられるだろう、我はこの程度では終わりはせんぞ!」
「流石はアルゴリオ猊下!どこまでも付いていきますよ!」
「私もです!」
「どうか我らを御導ください!」
視界を塞がれいたが、アルゴリオの声を拾った教会関係者らは未だに事態を甘く見ていて、ただの罪人でしかない肥満男に縋って諂う。別動の馬車には元貴族たちが乗せられているが、おそらく似たような甘い考えをしているかもしれない。
***
荷馬車に揺られること一月弱、やっと罪場の地へ辿り着いた。
碌に食事を与えられていない罪人たちはすっかり憔悴していたが、その目はまだ死んではいなかった。漸く外気に触れられ目隠しを外された彼らは解放感でいっぱいなのだ。
最後にその地に降り立った偽姫巫女ドナジーナは周囲の景色を見渡して何もない荒野に驚き目を見開く。赤茶の大地とゴツゴツの大岩、草木一つ生えておらず地平線が見渡せるが良い景色とは言いかねる。
「な、なによここ?家屋どころか小屋すらないじゃないの!」
彼女は何を勘違いしていたのか最低限の生活拠点くらいはあるものと期待していたようだ。
そして、彼らの後に少し遅参して到着した豪奢な馬車が停止してドアが開かれた。
「マルド陛下に敬礼!」
降り立つ人物を騎士らは一斉に敬礼して出迎えている、新王マルドである。彼は自ら処刑場に出向きアルゴリオ達を断罪するようだ。
「マルド王様!」
軽い頭のドナジーナは顔をパッと明るくして一縷の望みを期待した。この土壇場に慈悲を請うようなそぶりを見せた。だが、マルド王は愚者の顔など目もくれない。
侍従がマルド王の為に赤い絨毯を敷き跪いて到着を待機した。マルドはゆっくりと歩を進めると手を翳して術を展開した。それはあっと言う間の出来事だった、黄金の幕のようなものが大地の先に続く砂漠へ覆われたのだ。一度そこに入った者は出られない牢獄結界である。
「うん、良い出来だ。これなら十数年は持つんじゃないかな」
「お見事でございます陛下!眼福です、ですが奴らはそんなに生きながら得るでしょうか?」
護衛の騎士団長が御業に感服しながら言う。
「まぁまぁ、備えあれば憂いなしと言うじゃないか、奇跡的に助かっても困るからね」
「は、はは……なるほど」
マルド王は優美に微笑みながら中々に残酷なことを言った、決して怒らせてはいけない人だと騎士たちは唾を飲み込む。
「では始めてくれ、私はひと足早く撤退させていただくよ」
「御意!」
護衛の騎士団長と侍従らは陛下専用の馬車に共に乗り込み素早く帰路に発った。
それを見ていたドナジーナは「なによう!期待させておいて恩赦はないの!」と叫んだ。罪人の綱を引いていた騎士が見咎めて彼女の背を蹴り上げ「不敬だ!」と怒鳴る。
蹴られて転げた彼女はグスグスと泣いたが誰も手を差し伸べはしない。
一列に並ばされた罪人一行は数十分先の砂漠へと歩き出す。次第にジワジワと焼くような日光と巻き上がる熱風に顔を顰め熱砂に足を取られては悲鳴を上げていた。
ドナジーナ以外にも女囚は幾人か混ざっていたので甲高い悲鳴が何度も上がって騎士達を苛立たせた。
「さあ、到着だ。ここが流刑の地、南の砂漠だ。別名悪魔の大鍋という精々罪を悔いるが良い」
騎士たちは罪人たちを情け容赦なく砂漠の窪みへと落として行く、太々しい態度だったアルゴリオも勘違い娘のドナジーナも無様に熱砂の底へとザラザラと滑り落ちた。
最悪な地獄の始まりである。
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