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王の思惑と抗う王子
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頑なに姫巫女は「第二王子でないと結婚しない」と宣った。
当初はそればかりは出来ないと王は了承しなかったが、ならばこの国に幸を与えることは出来ないと巫女が言う。
これには焦燥した王、そしてアルゴリオ大司教が神の恩寵を受けたいのならば譲歩すべきと唆す。
そして婚約者交代の条件に「挙式までの期間に王子の気持ちを振り向かせられたら」と王が勝手な約束を巫女と交わしてしまう。それを聞きいて怒った王子は「フィオネ以外を愛するわけがない」と猛反発をした。
早速と登城して、あからさまな態度で篭絡しようと動く巫女、王達も加担する有様だ。
「良く考えろ、平凡な令嬢と国に栄華を齎す巫女では比較しようがない」と王は説得する。
だが王子の心は揺れない、だったらその力を見せて貰おうと言うが「私の異能が開花するのは好きな殿方とまぐわった時」と言い訳をするのだ。
「聖女や姫巫女とは無償で民の幸を齎すものだとばかり思っていたよ、キミはなんて俗物なんだ」
「あらぁ、そんな事をおっしゃらないで。私だって幸せになる権利はあるはずよ?秘術を使うのは大変で酷使ですのよ」
姫はそう言って王子にしな垂れようと迫るが、彼は身体を躱すと「汚らわしい!」と叫んだ。
清いからこその姫巫女がそんな発言をするのを訝しむ王妃は矛盾を指摘したが、目が眩んでいる王は「他国の聖女とて婚姻を結び平和にやっている」と突っぱねた。
「民に祀り上げられた聖女と姫巫女では意味が違うでしょうに……」
他国の聖女とは治癒の魔力が強く美しい容姿で選ばれた者をさしている、つまり神の天啓を授かれる姫巫女とは格が違うのだ。
なんとしても巫女を手中に収めたい欲深な王は、王妃の諌言を撥ね退けて聞く耳を持たない。
「私は国の繁栄と民の幸福の為に選択したのだ、それから猊下にはこの命を救われた大恩があるのだ!姫巫女を蔑ろにすることは恩人の猊下を軽んじる事と同義である」
そう言われてしまった王妃は口を噤むしかなくなった。
***
入園式の当日、約束通りにリカルデル王子はステラロザーデ邸に迎えにやってきた。
「まぁ、王子……学園へは遠回りですのに」
「良いんだキミと一緒に登園したいから、なんの苦もないさ。それからいつも通りに名で呼んでくれ」
「はい、わかりました。私のリカル」
久しぶりに愛称で呼ばれた王子は相好を崩してデレデレになる、その様子はよその女などに傾倒するとは想像できない。
「私の心は揺るぎはしない、父王の思惑など気にしないで良いよ」
「ええ、リカル。その通りね、私達らしさを忘れないようにします」
その言葉を聞いた王子は再びフニャリとして彼女の手を取って「私は果報者さ」と呟く。ふたりの甘美な愛を朝から見せつけられた侍女たちは「胸焼け用の薬が欲しい」と密かに思うのだった。
道すがら矛盾した言動をする姫巫女ドナジーナ・アルゴリオについて王子は嫌悪の言葉を並べて聞かせる。
「猊下の養女に迎えたらしいがどうにも不信感が拭えないんだ。母上も可笑しいと疑っている」
「そうなのですか?それはどのような理由で」
すると王子は信じ難いことを口にした、登城してからというもの姫巫女ドナジーナはまるで娼婦のような振る舞いをするのだという。
「私を口説きにかかっていることは当然だが、見目が良いものにばかり声を掛けて周っているんだ。気安く体にベタベタと纏わりついて不愉快極まりない」
「まぁ……大胆なご息女なのですね」
「うん、あれは男を知っているメスの顔だった。あんなビッチが清らかな乙女の巫女なわけがないんだ」
「あ、あらぁ……なんというかその……困りました」
王子の言葉を聞いたフィオナは顔を恥じらいで赤く染めて表情を歪めた。それを見た侍女は「んん!」と咳払いして王子を諫める。
「いや、これは失言したな!とにかくそんな女などに私は騙されやしないと言いたい!」
「ふふ、わかりましたわリカル。」
「うん!私の身も心もフィオだけのものさ」
大丈夫信じてくれと言う王子、占い師の言葉を思い出していたフィオナだが、不安を見せまいと気丈に振る舞うのだ。
そして、入園式が始まる――。
一つ年上の王子は在校生代表で歓迎祝辞を述べた、その雄姿をフィオはうっとり眺めている。激励の言葉に応えるべく新入生代表の生徒名が呼ばれた。
”宣誓代表ベルント・アルゴリオ”と――。
「え、アルゴリオ……猊下の御子息が入園されたの?」
ざわつく会場に教師が「静粛に!」と怒鳴った。フィオナは気が付いていなかったが貴賓席の列に司教の顔が並んでいたのだ。息子の晴れ舞台とあり猊下の顔には誇らしげな笑みが浮かんでいる。
「てっきり聖教会の方々は専門教師に習うものと思ってましたわ」
閉会後に上位貴族生徒用のカフェに寄った王子とフィオナは式典の感想を語り合っていた。苺のロールケーキを頬張る王子は”うんうん”と頷きながら苺の塊を堪能し飲み込むと彼は口元を拭って答える。
「猊下の子息殿は急遽入園を決めたそうだよ、宣誓者もとうぜん急に変更になった。決まっていたオスタ伯爵令息が気の毒さ。とても勤勉な男子で試験トップだったんだから」
「そうですね、代表に選ばれるのは誉ですもの」
フィオは苺のモンブランをフォークの先で弄びながら「酷いわ」と呟く。この学園では代表に選ばれた生徒は自動的に生徒会への役員推薦となる、よほどの事が無い限り入会は決定だ。
当初はそればかりは出来ないと王は了承しなかったが、ならばこの国に幸を与えることは出来ないと巫女が言う。
これには焦燥した王、そしてアルゴリオ大司教が神の恩寵を受けたいのならば譲歩すべきと唆す。
そして婚約者交代の条件に「挙式までの期間に王子の気持ちを振り向かせられたら」と王が勝手な約束を巫女と交わしてしまう。それを聞きいて怒った王子は「フィオネ以外を愛するわけがない」と猛反発をした。
早速と登城して、あからさまな態度で篭絡しようと動く巫女、王達も加担する有様だ。
「良く考えろ、平凡な令嬢と国に栄華を齎す巫女では比較しようがない」と王は説得する。
だが王子の心は揺れない、だったらその力を見せて貰おうと言うが「私の異能が開花するのは好きな殿方とまぐわった時」と言い訳をするのだ。
「聖女や姫巫女とは無償で民の幸を齎すものだとばかり思っていたよ、キミはなんて俗物なんだ」
「あらぁ、そんな事をおっしゃらないで。私だって幸せになる権利はあるはずよ?秘術を使うのは大変で酷使ですのよ」
姫はそう言って王子にしな垂れようと迫るが、彼は身体を躱すと「汚らわしい!」と叫んだ。
清いからこその姫巫女がそんな発言をするのを訝しむ王妃は矛盾を指摘したが、目が眩んでいる王は「他国の聖女とて婚姻を結び平和にやっている」と突っぱねた。
「民に祀り上げられた聖女と姫巫女では意味が違うでしょうに……」
他国の聖女とは治癒の魔力が強く美しい容姿で選ばれた者をさしている、つまり神の天啓を授かれる姫巫女とは格が違うのだ。
なんとしても巫女を手中に収めたい欲深な王は、王妃の諌言を撥ね退けて聞く耳を持たない。
「私は国の繁栄と民の幸福の為に選択したのだ、それから猊下にはこの命を救われた大恩があるのだ!姫巫女を蔑ろにすることは恩人の猊下を軽んじる事と同義である」
そう言われてしまった王妃は口を噤むしかなくなった。
***
入園式の当日、約束通りにリカルデル王子はステラロザーデ邸に迎えにやってきた。
「まぁ、王子……学園へは遠回りですのに」
「良いんだキミと一緒に登園したいから、なんの苦もないさ。それからいつも通りに名で呼んでくれ」
「はい、わかりました。私のリカル」
久しぶりに愛称で呼ばれた王子は相好を崩してデレデレになる、その様子はよその女などに傾倒するとは想像できない。
「私の心は揺るぎはしない、父王の思惑など気にしないで良いよ」
「ええ、リカル。その通りね、私達らしさを忘れないようにします」
その言葉を聞いた王子は再びフニャリとして彼女の手を取って「私は果報者さ」と呟く。ふたりの甘美な愛を朝から見せつけられた侍女たちは「胸焼け用の薬が欲しい」と密かに思うのだった。
道すがら矛盾した言動をする姫巫女ドナジーナ・アルゴリオについて王子は嫌悪の言葉を並べて聞かせる。
「猊下の養女に迎えたらしいがどうにも不信感が拭えないんだ。母上も可笑しいと疑っている」
「そうなのですか?それはどのような理由で」
すると王子は信じ難いことを口にした、登城してからというもの姫巫女ドナジーナはまるで娼婦のような振る舞いをするのだという。
「私を口説きにかかっていることは当然だが、見目が良いものにばかり声を掛けて周っているんだ。気安く体にベタベタと纏わりついて不愉快極まりない」
「まぁ……大胆なご息女なのですね」
「うん、あれは男を知っているメスの顔だった。あんなビッチが清らかな乙女の巫女なわけがないんだ」
「あ、あらぁ……なんというかその……困りました」
王子の言葉を聞いたフィオナは顔を恥じらいで赤く染めて表情を歪めた。それを見た侍女は「んん!」と咳払いして王子を諫める。
「いや、これは失言したな!とにかくそんな女などに私は騙されやしないと言いたい!」
「ふふ、わかりましたわリカル。」
「うん!私の身も心もフィオだけのものさ」
大丈夫信じてくれと言う王子、占い師の言葉を思い出していたフィオナだが、不安を見せまいと気丈に振る舞うのだ。
そして、入園式が始まる――。
一つ年上の王子は在校生代表で歓迎祝辞を述べた、その雄姿をフィオはうっとり眺めている。激励の言葉に応えるべく新入生代表の生徒名が呼ばれた。
”宣誓代表ベルント・アルゴリオ”と――。
「え、アルゴリオ……猊下の御子息が入園されたの?」
ざわつく会場に教師が「静粛に!」と怒鳴った。フィオナは気が付いていなかったが貴賓席の列に司教の顔が並んでいたのだ。息子の晴れ舞台とあり猊下の顔には誇らしげな笑みが浮かんでいる。
「てっきり聖教会の方々は専門教師に習うものと思ってましたわ」
閉会後に上位貴族生徒用のカフェに寄った王子とフィオナは式典の感想を語り合っていた。苺のロールケーキを頬張る王子は”うんうん”と頷きながら苺の塊を堪能し飲み込むと彼は口元を拭って答える。
「猊下の子息殿は急遽入園を決めたそうだよ、宣誓者もとうぜん急に変更になった。決まっていたオスタ伯爵令息が気の毒さ。とても勤勉な男子で試験トップだったんだから」
「そうですね、代表に選ばれるのは誉ですもの」
フィオは苺のモンブランをフォークの先で弄びながら「酷いわ」と呟く。この学園では代表に選ばれた生徒は自動的に生徒会への役員推薦となる、よほどの事が無い限り入会は決定だ。
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