10 / 24
学園祭にむけて
しおりを挟む
休日、さっそく二人は本屋へでかけた。
庶民用と侮っていたエリアナは本棚に並ぶ書物の多さに驚いた。通路いっぱいに並ぶ棚が全て恋物語だった。
「これ全部恋物語なの!?」
「ねぇ凄いでしょ、シリーズ化された大作もあるし迷うわよね」
美しい表装と絵にうっとりする二人、どれを選んで良いか散々迷い今月のおススメというポップを頼って数冊購入した。
早く読みたいというエリアナにラウラがせっかくだからカフェに行こうと誘う。
「ここの焼きプリンが絶品なのよ~!」
「まぁそうなの?それじゃそれを頂こうかしら」
付いてきた従者と護衛たちの分もオーダーして二人は口に蕩ける甘味に頬を紅潮させる。
「おいしーい!いつ食べても堪らない味だわ」
「ほんとね、この味を知らなかったなんてもったいなかったわ」
幸せなひと時を過ごした二人は別れを名残惜しんで「また学園で」と手を振った。
屋敷に戻ったエリアナはさっそく本を開いて物語に夢中になる。
あり得ない設定であるからこそ人を魅了するのだとエリアナは思った。
それから数日間、食事もそこそこに部屋に籠るエリアナの様子に両親は訝しむ。
「エリアナ一体なにに夢中になっているの?」
「きゃっ!?お母様!いつのまに」
ずっとノックしてましたよとお小言を貰う。
「ごめんなさい、小説が面白くてつい」
「まぁそんなに?……あらあら恋物語だなんて珍しいこと」
母リーナはついに乙女心が芽生えたかと喜び、読み終えたらしい本を一冊手に取った。
「あらま、王子と平民が結婚!?庶民ならではの夢ねぇ」
「そうですね、その非現実的なところが面白いんですよ。ただ公爵令嬢が悪役でつらいです」
エリアナは苦笑いして本の感想を述べた。
「ふふ、貴族が極悪人で悪役なのね、平民の視点はそういう展開が好きなのね」
母が少し黒い笑みを浮かべた。
「お母様夢物語ですから!現実ではないですから!」
「そうね、平民の小娘に令嬢が嫉妬なんてありえないもの~反対ならあるでしょうけど」
「そうですね」と相槌を打ちかつて平民達に意地悪された過去を思い出して苦い顔をするアイリスである。
夜更かしはしないようにと注意して母は去って行った。
「ふぅ、もう寝る時間なのね。ううー続きが気になるわ。あら、これ続編があるのね買わなくちゃ!」
浮きたつ心に無理矢理蓋をしてアイリスは灯りを消した。
***
秋の学園祭に向けて戯曲クラブと演劇部は活動が忙しくなっていた。
まだ初夏だというのに熱の入れようが凄いとエリアナは閉口する。
「なに言ってんの、演劇は稽古が必要で日数が足りないくらいよ、戯曲だって手直しが必要になるのよ!」
「そ、そうなの、知らなくてごめんなさい」
恋物語の戯曲は結局先輩たちの合作が選ばれた。
エリアナたち後輩は裏方に周り、舞台衣装や小道具などの制作に取り掛かる。
舞台の要である大道具は男子達の担当である。
「舞台って大変な作業なのね……」
遠くから発声練習の声が響いてくる、それを聞きながら衣装を仮縫いするアイリス。
それがやがて歌声にかわるとラウラが鼻声で参加しだした。
アイリスもつい誘われて小さく歌いだした、気が付けば全曲を歌っていて喉が渇きを訴えた。
お茶を淹れましょうかと従者と一緒に茶器を並べる。
「ね、ねえアイリスあなた一人で歌ってみて?」
「え、どうして?皆で歌ったほうが楽しいのに」
それでも歌ってと強請られて、アイリスは仕方なくお茶を淹れながら歌う。
たっぷりの紅茶に輪切りオレンジと氷を落としてアイリスは注ぎ分けた。
みんなに配ろうと身体を反転させてギョッっとするアイリス。
「ど、どうかなさったの?」
戯曲クラブの面々と演劇部の一部の人たちがアイリスを凝視していた。
「そんなにひどい歌声でしたか……ごめんなさい。もう歌いませ・・」
「もー違うわよ!あなた天使だったのね!心が洗われたわ!」
ラウラが涙声でアイリスを抱きしめてきた。
わけがわからないアイリスはただ目を白黒させて「苦しいから止めてー!」と悲鳴をあげた。
庶民用と侮っていたエリアナは本棚に並ぶ書物の多さに驚いた。通路いっぱいに並ぶ棚が全て恋物語だった。
「これ全部恋物語なの!?」
「ねぇ凄いでしょ、シリーズ化された大作もあるし迷うわよね」
美しい表装と絵にうっとりする二人、どれを選んで良いか散々迷い今月のおススメというポップを頼って数冊購入した。
早く読みたいというエリアナにラウラがせっかくだからカフェに行こうと誘う。
「ここの焼きプリンが絶品なのよ~!」
「まぁそうなの?それじゃそれを頂こうかしら」
付いてきた従者と護衛たちの分もオーダーして二人は口に蕩ける甘味に頬を紅潮させる。
「おいしーい!いつ食べても堪らない味だわ」
「ほんとね、この味を知らなかったなんてもったいなかったわ」
幸せなひと時を過ごした二人は別れを名残惜しんで「また学園で」と手を振った。
屋敷に戻ったエリアナはさっそく本を開いて物語に夢中になる。
あり得ない設定であるからこそ人を魅了するのだとエリアナは思った。
それから数日間、食事もそこそこに部屋に籠るエリアナの様子に両親は訝しむ。
「エリアナ一体なにに夢中になっているの?」
「きゃっ!?お母様!いつのまに」
ずっとノックしてましたよとお小言を貰う。
「ごめんなさい、小説が面白くてつい」
「まぁそんなに?……あらあら恋物語だなんて珍しいこと」
母リーナはついに乙女心が芽生えたかと喜び、読み終えたらしい本を一冊手に取った。
「あらま、王子と平民が結婚!?庶民ならではの夢ねぇ」
「そうですね、その非現実的なところが面白いんですよ。ただ公爵令嬢が悪役でつらいです」
エリアナは苦笑いして本の感想を述べた。
「ふふ、貴族が極悪人で悪役なのね、平民の視点はそういう展開が好きなのね」
母が少し黒い笑みを浮かべた。
「お母様夢物語ですから!現実ではないですから!」
「そうね、平民の小娘に令嬢が嫉妬なんてありえないもの~反対ならあるでしょうけど」
「そうですね」と相槌を打ちかつて平民達に意地悪された過去を思い出して苦い顔をするアイリスである。
夜更かしはしないようにと注意して母は去って行った。
「ふぅ、もう寝る時間なのね。ううー続きが気になるわ。あら、これ続編があるのね買わなくちゃ!」
浮きたつ心に無理矢理蓋をしてアイリスは灯りを消した。
***
秋の学園祭に向けて戯曲クラブと演劇部は活動が忙しくなっていた。
まだ初夏だというのに熱の入れようが凄いとエリアナは閉口する。
「なに言ってんの、演劇は稽古が必要で日数が足りないくらいよ、戯曲だって手直しが必要になるのよ!」
「そ、そうなの、知らなくてごめんなさい」
恋物語の戯曲は結局先輩たちの合作が選ばれた。
エリアナたち後輩は裏方に周り、舞台衣装や小道具などの制作に取り掛かる。
舞台の要である大道具は男子達の担当である。
「舞台って大変な作業なのね……」
遠くから発声練習の声が響いてくる、それを聞きながら衣装を仮縫いするアイリス。
それがやがて歌声にかわるとラウラが鼻声で参加しだした。
アイリスもつい誘われて小さく歌いだした、気が付けば全曲を歌っていて喉が渇きを訴えた。
お茶を淹れましょうかと従者と一緒に茶器を並べる。
「ね、ねえアイリスあなた一人で歌ってみて?」
「え、どうして?皆で歌ったほうが楽しいのに」
それでも歌ってと強請られて、アイリスは仕方なくお茶を淹れながら歌う。
たっぷりの紅茶に輪切りオレンジと氷を落としてアイリスは注ぎ分けた。
みんなに配ろうと身体を反転させてギョッっとするアイリス。
「ど、どうかなさったの?」
戯曲クラブの面々と演劇部の一部の人たちがアイリスを凝視していた。
「そんなにひどい歌声でしたか……ごめんなさい。もう歌いませ・・」
「もー違うわよ!あなた天使だったのね!心が洗われたわ!」
ラウラが涙声でアイリスを抱きしめてきた。
わけがわからないアイリスはただ目を白黒させて「苦しいから止めてー!」と悲鳴をあげた。
24
お気に入りに追加
149
あなたにおすすめの小説
【完結】唯一の味方だと思っていた婚約者に裏切られました
紫崎 藍華
恋愛
両親に愛されないサンドラは婚約者ができたことで救われた。
ところが妹のリザが婚約者を譲るよう言ってきたのだ。
困ったサンドラは両親に相談するが、両親はリザの味方だった。
頼れる人は婚約者しかいない。
しかし婚約者は意外な提案をしてきた。
【完結】私は関係ないので関わらないでください
紫崎 藍華
恋愛
リンウッドはエルシーとの婚約を破棄し、マーニーとの未来に向かって一歩を踏み出そうと決意した。
それが破滅への第一歩だとは夢にも思わない。
非のない相手へ婚約破棄した結果、周囲がどう思うのか、全く考えていなかった。
【完結】殿下の本命は誰なのですか?
紫崎 藍華
恋愛
ローランド王子からリリアンを婚約者にすると告げられ婚約破棄されたクレア。
王命により決められた婚約なので勝手に破棄されたことを報告しなければならないのだが、そのときリリアンが倒れてしまった。
予想外の事態に正式な婚約破棄の手続きは後回しにされ、クレアは曖昧な立場のままローランド王子に振り回されることになる。
【完結】裏切ったあなたを許さない
紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。
そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。
それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。
そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。
妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした
水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」
子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。
彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。
彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。
こんなこと、許されることではない。
そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。
完全に、シルビアの味方なのだ。
しかも……。
「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」
私はお父様から追放を宣言された。
必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。
「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」
お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。
その目は、娘を見る目ではなかった。
「惨めね、お姉さま……」
シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。
そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。
途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。
一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。
【完結】浮気現場を目撃してしまい、婚約者の態度が冷たかった理由を理解しました
紫崎 藍華
恋愛
ネヴィルから幸せにすると誓われタバサは婚約を了承した。
だがそれは過去の話。
今は当時の情熱的な態度が嘘のように冷めた関係になっていた。
ある日、タバサはネヴィルの自宅を訪ね、浮気現場を目撃してしまう。
タバサは冷たい態度を取られている理由を理解した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる