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学園祭にむけて

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休日、さっそく二人は本屋へでかけた。
庶民用と侮っていたエリアナは本棚に並ぶ書物の多さに驚いた。通路いっぱいに並ぶ棚が全て恋物語だった。

「これ全部恋物語なの!?」
「ねぇ凄いでしょ、シリーズ化された大作もあるし迷うわよね」

美しい表装と絵にうっとりする二人、どれを選んで良いか散々迷い今月のおススメというポップを頼って数冊購入した。
早く読みたいというエリアナにラウラがせっかくだからカフェに行こうと誘う。



「ここの焼きプリンが絶品なのよ~!」
「まぁそうなの?それじゃそれを頂こうかしら」

付いてきた従者と護衛たちの分もオーダーして二人は口に蕩ける甘味に頬を紅潮させる。
「おいしーい!いつ食べても堪らない味だわ」
「ほんとね、この味を知らなかったなんてもったいなかったわ」

幸せなひと時を過ごした二人は別れを名残惜しんで「また学園で」と手を振った。


屋敷に戻ったエリアナはさっそく本を開いて物語に夢中になる。
あり得ない設定であるからこそ人を魅了するのだとエリアナは思った。

それから数日間、食事もそこそこに部屋に籠るエリアナの様子に両親は訝しむ。


「エリアナ一体なにに夢中になっているの?」
「きゃっ!?お母様!いつのまに」

ずっとノックしてましたよとお小言を貰う。
「ごめんなさい、小説が面白くてつい」
「まぁそんなに?……あらあら恋物語だなんて珍しいこと」

母リーナはついに乙女心が芽生えたかと喜び、読み終えたらしい本を一冊手に取った。
「あらま、王子と平民が結婚!?庶民ならではの夢ねぇ」
「そうですね、その非現実的なところが面白いんですよ。ただ公爵令嬢が悪役でつらいです」

エリアナは苦笑いして本の感想を述べた。
「ふふ、貴族が極悪人で悪役なのね、平民の視点はそういう展開が好きなのね」
母が少し黒い笑みを浮かべた。

「お母様夢物語ですから!現実ではないですから!」
「そうね、平民の小娘に令嬢が嫉妬なんてありえないもの~反対ならあるでしょうけど」

「そうですね」と相槌を打ちかつて平民達に意地悪された過去を思い出して苦い顔をするアイリスである。
夜更かしはしないようにと注意して母は去って行った。

「ふぅ、もう寝る時間なのね。ううー続きが気になるわ。あら、これ続編があるのね買わなくちゃ!」
浮きたつ心に無理矢理蓋をしてアイリスは灯りを消した。


***

秋の学園祭に向けて戯曲クラブと演劇部は活動が忙しくなっていた。
まだ初夏だというのに熱の入れようが凄いとエリアナは閉口する。

「なに言ってんの、演劇は稽古が必要で日数が足りないくらいよ、戯曲だって手直しが必要になるのよ!」
「そ、そうなの、知らなくてごめんなさい」

恋物語の戯曲は結局先輩たちの合作が選ばれた。
エリアナたち後輩は裏方に周り、舞台衣装や小道具などの制作に取り掛かる。
舞台の要である大道具は男子達の担当である。

「舞台って大変な作業なのね……」
遠くから発声練習の声が響いてくる、それを聞きながら衣装を仮縫いするアイリス。
それがやがて歌声にかわるとラウラが鼻声で参加しだした。

アイリスもつい誘われて小さく歌いだした、気が付けば全曲を歌っていて喉が渇きを訴えた。
お茶を淹れましょうかと従者と一緒に茶器を並べる。

「ね、ねえアイリスあなた一人で歌ってみて?」
「え、どうして?皆で歌ったほうが楽しいのに」
それでも歌ってと強請られて、アイリスは仕方なくお茶を淹れながら歌う。

たっぷりの紅茶に輪切りオレンジと氷を落としてアイリスは注ぎ分けた。
みんなに配ろうと身体を反転させてギョッっとするアイリス。

「ど、どうかなさったの?」

戯曲クラブの面々と演劇部の一部の人たちがアイリスを凝視していた。
「そんなにひどい歌声でしたか……ごめんなさい。もう歌いませ・・」
「もー違うわよ!あなた天使だったのね!心が洗われたわ!」

ラウラが涙声でアイリスを抱きしめてきた。
わけがわからないアイリスはただ目を白黒させて「苦しいから止めてー!」と悲鳴をあげた。

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