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捏造された友情(それぞれの母視点)

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心身ともにボロボロになった愛娘の寝顔をみつめながら看護する。
「どうしてこんな事に」
大切な娘エリアナを傷つけたルーファ親子に静かな怒りが私の中に燻ぶる。

私とルーファの母ポリーとの出会いは学園だった、引っ込み思案な私に話しかけてくれた彼女に救われた。
それがきっかけになりクラスの子達とも打ち解けた。
社交的なポリーはどこにいても中心にいた、気配りができる彼女は誰からも好かれていた。
私の憧れで大切な友人だった。

「いつも仲良くしてくれてありがとう、誕生日のプレゼントよ」
「まぁ!リーナありがとう、大事にするわ!」

花が咲いたような笑顔でポリーは受け取ってくれた、彼女は送った髪飾りを毎日つけて登園していた。
私も嬉しくてポリーといつも一緒に行動した、いつしか親友と呼び合う仲になる。
伯爵令嬢の私リーナと準男爵令嬢のポリーは、身分差を超えた親友として学友の注目を集めた。



「リーナ卒業しても友人でいてね!」
「もちろんよポリー!私達は親友じゃない!」
卒業後、私は公爵家へ嫁ぎ、ポリーは子爵家へ嫁入りした。

結婚後も交流は続き、夫同士も友人になった、私達は幸せだと家族ぐるみの付き合いを当たり前にしていた。
やがてお互いに子をもうけてエリアナとルーファの婚約を結んだ。
素晴らしい縁だと私は信じて疑わなかった。

彼女の息子ルーファが愛人を作るまでは……。

学園へ通いだすとエリアナの笑顔が目に見えて減っていった、心が病めば体も蝕まれて行く。
ある日、茶会から帰ったエリアナが悲愴な表情で私に訴えた。
「ルーファが成績が悪いのも浮気するのも私が悪いと責められたわ!彼と結婚なんて嫌よ!」

親友のポリーの暴言が娘を傷つけた、衝撃だった。
私はすぐにポリーに問いただして「このままでは婚姻は難しい」そう伝える。
でもポリーはちょっとした行き違いでエリアナが誤解しただけだと突っぱねた。

娘を泣かせたというのに謝罪の言葉もなかった。
扇の奥でせせら笑うのがわかった、ポリーは親友のフリをしていただけだとわかってしまった。
決別の言葉を綴った手紙を送り、婚約解消を申し出た。

だがのらりくらりと躱してきて話にならない、夫ともに憤慨し法に訴える決意を固めた。

そんな矢先、エリアナがルーファたちに嫌がらせを受けているのを知る。
抗議しても謝罪するのは彼女の夫だけだった。

それだというのにルーファの生活態度は乱れていく、相も変わらず愛人を増やしては自慢しているようだ。

心身を病み痩せ細った娘を休学させることにした。
学園から距離を置くとエリアナは徐々に回復した、これで良かったのだと私達は安堵する。

しかしその油断が事件を起こした。
無断で屋敷へ押し入り病床の娘を責め立て、あげく暴行を働いたルーファ達。平民の愛人たちは処罰されたが主犯のルーファは謹慎になっただけだった。
案の定、反省も謝罪もされなかった。慰謝料すら払いがない。いままでのポリーの夫の謝罪文は上辺だけだったと思い知る。


いよいよ業腹が爆発した夫が子爵家を提訴した、なにがなんでも婚約破棄をすると動き出した。
ポリーを信じすぎていた自分が許せなくて、エリアナを抱きしめて泣き叫んだ。
許してなんて言えない、ただ謝り泣くことしかできなかった。不甲斐ない母だと責めて欲しかった。

けれど優しいエリアナは一緒に泣いてくれた、あぁ私はどうしたら良い?

***

<ポリー視点>

深窓の令嬢リーナは大人しい娘だった、美しい彼女はクラスの男子の憧れだった。
羨望の眼差しを集めているくせに、いつもオドオドして項垂れている。

私はそんな彼女を疎ましく思い、そして憧れた。
ある日、独りぼっちの彼女へ声をかけた、ランチに誘った私に恥ずかし気に返事をして微笑む。
美しい所作で洗練された彼女の動向に驚く、おなじ貴族なのに私は平民のようだった。
事実、準男爵は平民に毛が生えた程度の身分だ。

悔しくて彼女の動作を真似て私にだって出来るのだと示した。
難しかったが頑張った、そのうち私達は身分差を超えた親友として注目浴びる。
鼻が高かった、彼女と仲良くなった自分は貴族なんだと矜持が満たされ浮足立つ。

やがて卒業を迎えた私達、彼女と疎遠になるのは嫌だった。
もとから身分が違い過ぎる、距離を置かれたら自分の存在価値が変わる気がしてしがみ付いた。
「私達は親友よね、ずっと一緒にいてね」そう強く言った。

リーナがちょっと驚いた顔をしたけど「もちろんよ、ずっと仲良くして」と笑った。
私の懇願を快く受けた彼女に嬉しい気持ちと苛立ちの心が育った。

それから間もなく私は子爵家のスコットに見初められ嫁いだ。
在学中から打診があったが悩み抜いての結婚だった、彼の家はあまり裕福じゃなかったので親が渋ったのだ。
それでも身分が少しあがった私は伯爵令嬢のリーナに近づけて有頂天になっていた。

大出世じゃないかと私は嬉しくて小躍りした。
だが、その幸福感は脆くも崩れる。それはリーナが公爵夫人におさまったからだ。
ほぼ同時期に私達は結婚した、再び身分が開いた私達。悔しくて怒り狂った、公爵と子爵では雲泥の差だと感じた。
平民からみればどちらも立派な貴族、でも身分差は歴然だ。

腹立たしくもリーナが「お互いの子を婚約者に」そう言ってきた。
リーナの子はエリアナという女子だけだ、爵位を継ぐ男子はいない。
ならば公爵家をごっそり奪えば良いと私は考えた。息子ルーファを継がせ乗っ取ろうと企てる。

私は黒い感情を隠してエリアナに接してきた、優しい声をかけ良い義母の皮を被る。
だけど成長していくエリアナはリーナの生き写しのよう、隠した黒い感情がある日爆発した。

「あなた婚約者でしょ!勉強のサポートをするのは当たり前じゃなくて?」
気が付けばそう怒鳴りつけていた、難癖だとは自覚してたが止まらなかった。

エリアナは反論して去って行った。

ああ、やってしまった。取り繕ってきた「偽物の友情」が壊れた瞬間だ。
壊れたのなら徹底的に壊してやろう。

話し合いに訪れたリーナ、扇の陰で厭らしい笑みを浮かべると、彼女は絶望の貌をした。
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