7 / 8
ルワンとミルフィ
しおりを挟む
数々の失態を犯したルワンは伯爵邸から追い出された、貧乏伯爵から支援などなく無一文で路頭に迷うこととなった。
僅かな金子を持っていたのは妻になったミルフィだけ、しかし下女の給与は高いわけもない。
意に反して寝取ったような形になり公爵家はクビをなり紹介状も貰えない。
我に返ったルワンは「お前に騙された!卑しい平民の癖に!」そう罵り頬を叩きつけ彼女の僅かな財産を奪おうとした。
たまらずミルフィは叫び逃げ惑ったところへ警邏中の憲兵隊に保護された。
婦女暴行と強奪未遂でルワンは御用となる、獄中に入れられたルワンは子供のように泣き叫んだ。
かつて王子のようだと見惚れた彼の正体はただのクズと知って、ミルフィは2重に辛い思いをした。
悪戯心でドレスなど着ていたばかりに身を滅ぼした彼女、行く当ては実家だけだ。
平民街の端に彼女の生家はあった。
公爵家をクビになった報告を受けて両親はひどく落胆する。
「過ぎたことは仕方ない、とりあえず資金を貯めなさい。離縁が成立するまでは置いてやろう」
「……はい父さん」
裕福ではない実家だ、戻ってすぐに働き口を探す。
どんな仕事だろうと選ぶ余裕はなかった、朝から夜中まであらゆる仕事をかけ持ちして働いた。
懺悔の言葉を綴った手紙を公爵邸へ送ったが、未開封状態で送り返された。
皿洗いのバイトをしながら荒れた手をそっと撫でて溜息を吐く。
同僚の女子に幸せが逃げると揶揄われた。
「幸せなんて生まれてこの方感じた事ないわ……」
ミルフィはただ無心に働き、職場と寝るだけの家を往復する日々を送った。
真面目な彼女の姿勢を父は認めて簡易裁判所へ離縁を訴えてくれた、そして白い結婚が認められ、婚姻から2年後ルワンとミルフィは離縁が成立した。
不本意な婚姻から解放されて、ほんの少し明るくなった彼女はとある雑貨店のバイトに従事することになった。
こまごました雑貨は見るだけでも楽しく、ミルフィは張り切って働いた。
ある日、兎のモチーフの人気雑貨が仕入れられた、可愛らしい小物を棚へ並べるミルフィ。
「なんて可愛いのかしら」
ウキウキと心躍らせ商品を丁寧に磨く、そこへ店主の息子が声をかけてきた。
「お疲れさま、いつも頑張ってくれてありがとう」
「いいえ、仕事ですから……」
軽く会釈して作業へ戻るミルフィ、だが息子は立ち去らない。
「あの何か御用でしたか?」
なにか粗相でもしただろうかと彼女は顔を曇らせる、楽しい職場を失いたくないと思った。
「いや、違うんだ……その……よければこの後、お茶でもと思って」
微かに頬を染めて雑貨店の息子が言う。
予期しなかった言葉にミルフィは驚く、ありがとうございますと微笑んで了承した。
小さな街での小さな恋がはじまった瞬間だった。
***
獄中で離縁が成立した知らせを聞いたルワンは「やっと自由になったか、忌々しい平民め」と悪態を吐く。
己自信も平民だということを頭から抜け落ちている。
いまだに伯爵令息だと信じて疑わない、とうにミクソールの名は貴族名鑑から削除されているのを知らないのだ。
「父上は一時だけ厳しくしてるだけだ。俺もちょっぴり悪い部分はあったからな、刑期が終えたらすぐにオリヴィエと再婚約してやろう、ブサイクな上に傷物だからな縁談など来ないさ、我慢して俺が貰ってやるよ!フハハハ!」
ルワンは自分勝手な未来予想図を描いて笑っていた、見回りしていた看守はついに気が触れたのかと肩を竦めた。
「おい番号F1120、お前だけ作業が遅れているぞ。飯抜きにされたいのか?」
罵声と鞭が容赦なくルワンを打ち付ける。
「ひぃ!わ、わかってますよ!勘弁してください!」
涙声で詫びノロノロと用途不明な部品を組み立てていく、模範囚とはほど遠いルワンは仮保釈が不可能だった。
ミルフィと離縁してから約5年後、漸く刑期を終え釈放されたルワンは僅かな金子を受け取って伯爵邸へ急いだ。
辻馬車を乗り継ぎ懐かしき我が家へ……。
しかし見知った伯爵邸は見る影もなかった。
「な、なんだこれは!?なぜ我が家が農地になっている!」
腹が立って足元に生える葉野菜を踏みつけようとしたが、また器物損壊などで御用になるのは嫌だと止まる。
仕方なく今度はロックベル公爵邸へ向かうことにした、どちらにせよオリヴィエならば事情を知っているだろうと考えた。
「どうせ行く予定だったのだ、婚約を申し込んでそのまま世話になろう」
再び辻馬車に乗り込み公爵邸の近くまで乗りつけ走った。
見覚え有る門構えにホッとするルワン、だが門兵が違っていた。
「うぬ、さすがに7年経っているからな……くそ俺の顔を知らないと説明が面倒だな」
居住まいを正し門兵へ声をかけた。
さっそく不審者を見る目で睨まれる、少し怯むがルワンは声高に名乗った。
「俺はミクソール伯爵家3男ルワンだ、息女オリヴィエ嬢に会いに来た。執事長に伝えてここを開け」
偉そうな平民が来たとコソコソと話し合う門兵たち、渋々と1人が屋敷へ向かって行く。
待たされて苛立ったルワンだが先触れしてないので我慢した。
数分後執事長が現れた、あの時捕縛を命じた偉そうな男だった。嫌な予感がルワンを襲う。
「何用だ、御用聞きなら裏へ回れ」
「な!俺は貴族子息だぞ!馬鹿にするな!ミクソール家を侮るなど一介の使用人風情が!」
だがやはり執事長は相手にしなかった、そして残酷な真実を告げた。
「はてミクソール?大分前にとり潰しになった家だが……まさか騙りの下賤ではないだろうな?」
詐欺師扱いされたルワンは激高する。
「巫山戯るな!我がミクソールが潰されたなど……あ……ま、まさか?」
「何者かしらんが伯爵邸は農地になっているはずだ、その様子では心当たりがあるようだな」
執事長は小馬鹿にした嘲笑を浮かべてルワンを見る。
知っていてワザと対応していたのだ、ルワンは恥をかかされ顔を真っ赤に染める。
再び文句を言おうとした時、庭先から笑い声が聞こえてきた。
僅かな金子を持っていたのは妻になったミルフィだけ、しかし下女の給与は高いわけもない。
意に反して寝取ったような形になり公爵家はクビをなり紹介状も貰えない。
我に返ったルワンは「お前に騙された!卑しい平民の癖に!」そう罵り頬を叩きつけ彼女の僅かな財産を奪おうとした。
たまらずミルフィは叫び逃げ惑ったところへ警邏中の憲兵隊に保護された。
婦女暴行と強奪未遂でルワンは御用となる、獄中に入れられたルワンは子供のように泣き叫んだ。
かつて王子のようだと見惚れた彼の正体はただのクズと知って、ミルフィは2重に辛い思いをした。
悪戯心でドレスなど着ていたばかりに身を滅ぼした彼女、行く当ては実家だけだ。
平民街の端に彼女の生家はあった。
公爵家をクビになった報告を受けて両親はひどく落胆する。
「過ぎたことは仕方ない、とりあえず資金を貯めなさい。離縁が成立するまでは置いてやろう」
「……はい父さん」
裕福ではない実家だ、戻ってすぐに働き口を探す。
どんな仕事だろうと選ぶ余裕はなかった、朝から夜中まであらゆる仕事をかけ持ちして働いた。
懺悔の言葉を綴った手紙を公爵邸へ送ったが、未開封状態で送り返された。
皿洗いのバイトをしながら荒れた手をそっと撫でて溜息を吐く。
同僚の女子に幸せが逃げると揶揄われた。
「幸せなんて生まれてこの方感じた事ないわ……」
ミルフィはただ無心に働き、職場と寝るだけの家を往復する日々を送った。
真面目な彼女の姿勢を父は認めて簡易裁判所へ離縁を訴えてくれた、そして白い結婚が認められ、婚姻から2年後ルワンとミルフィは離縁が成立した。
不本意な婚姻から解放されて、ほんの少し明るくなった彼女はとある雑貨店のバイトに従事することになった。
こまごました雑貨は見るだけでも楽しく、ミルフィは張り切って働いた。
ある日、兎のモチーフの人気雑貨が仕入れられた、可愛らしい小物を棚へ並べるミルフィ。
「なんて可愛いのかしら」
ウキウキと心躍らせ商品を丁寧に磨く、そこへ店主の息子が声をかけてきた。
「お疲れさま、いつも頑張ってくれてありがとう」
「いいえ、仕事ですから……」
軽く会釈して作業へ戻るミルフィ、だが息子は立ち去らない。
「あの何か御用でしたか?」
なにか粗相でもしただろうかと彼女は顔を曇らせる、楽しい職場を失いたくないと思った。
「いや、違うんだ……その……よければこの後、お茶でもと思って」
微かに頬を染めて雑貨店の息子が言う。
予期しなかった言葉にミルフィは驚く、ありがとうございますと微笑んで了承した。
小さな街での小さな恋がはじまった瞬間だった。
***
獄中で離縁が成立した知らせを聞いたルワンは「やっと自由になったか、忌々しい平民め」と悪態を吐く。
己自信も平民だということを頭から抜け落ちている。
いまだに伯爵令息だと信じて疑わない、とうにミクソールの名は貴族名鑑から削除されているのを知らないのだ。
「父上は一時だけ厳しくしてるだけだ。俺もちょっぴり悪い部分はあったからな、刑期が終えたらすぐにオリヴィエと再婚約してやろう、ブサイクな上に傷物だからな縁談など来ないさ、我慢して俺が貰ってやるよ!フハハハ!」
ルワンは自分勝手な未来予想図を描いて笑っていた、見回りしていた看守はついに気が触れたのかと肩を竦めた。
「おい番号F1120、お前だけ作業が遅れているぞ。飯抜きにされたいのか?」
罵声と鞭が容赦なくルワンを打ち付ける。
「ひぃ!わ、わかってますよ!勘弁してください!」
涙声で詫びノロノロと用途不明な部品を組み立てていく、模範囚とはほど遠いルワンは仮保釈が不可能だった。
ミルフィと離縁してから約5年後、漸く刑期を終え釈放されたルワンは僅かな金子を受け取って伯爵邸へ急いだ。
辻馬車を乗り継ぎ懐かしき我が家へ……。
しかし見知った伯爵邸は見る影もなかった。
「な、なんだこれは!?なぜ我が家が農地になっている!」
腹が立って足元に生える葉野菜を踏みつけようとしたが、また器物損壊などで御用になるのは嫌だと止まる。
仕方なく今度はロックベル公爵邸へ向かうことにした、どちらにせよオリヴィエならば事情を知っているだろうと考えた。
「どうせ行く予定だったのだ、婚約を申し込んでそのまま世話になろう」
再び辻馬車に乗り込み公爵邸の近くまで乗りつけ走った。
見覚え有る門構えにホッとするルワン、だが門兵が違っていた。
「うぬ、さすがに7年経っているからな……くそ俺の顔を知らないと説明が面倒だな」
居住まいを正し門兵へ声をかけた。
さっそく不審者を見る目で睨まれる、少し怯むがルワンは声高に名乗った。
「俺はミクソール伯爵家3男ルワンだ、息女オリヴィエ嬢に会いに来た。執事長に伝えてここを開け」
偉そうな平民が来たとコソコソと話し合う門兵たち、渋々と1人が屋敷へ向かって行く。
待たされて苛立ったルワンだが先触れしてないので我慢した。
数分後執事長が現れた、あの時捕縛を命じた偉そうな男だった。嫌な予感がルワンを襲う。
「何用だ、御用聞きなら裏へ回れ」
「な!俺は貴族子息だぞ!馬鹿にするな!ミクソール家を侮るなど一介の使用人風情が!」
だがやはり執事長は相手にしなかった、そして残酷な真実を告げた。
「はてミクソール?大分前にとり潰しになった家だが……まさか騙りの下賤ではないだろうな?」
詐欺師扱いされたルワンは激高する。
「巫山戯るな!我がミクソールが潰されたなど……あ……ま、まさか?」
「何者かしらんが伯爵邸は農地になっているはずだ、その様子では心当たりがあるようだな」
執事長は小馬鹿にした嘲笑を浮かべてルワンを見る。
知っていてワザと対応していたのだ、ルワンは恥をかかされ顔を真っ赤に染める。
再び文句を言おうとした時、庭先から笑い声が聞こえてきた。
80
お気に入りに追加
178
あなたにおすすめの小説
妹しか興味がない両親と欲しがりな妹は、我が家が没落することを知らないようです
香木あかり
恋愛
伯爵令嬢のサラは、妹ティナにしか興味がない両親と欲しがりな妹に嫌気がさしていた。
ある日、ティナがサラの婚約者を奪おうとしていることを知り、我慢の限界に達する。
ようやくこの家を出られると思っていましたのに……。またティナに奪われるのかしら?
……なんてね、奪われるのも計画通りなんですけれど。
財産も婚約者も全てティナに差し上げます。
もうすぐこの家は没落するのだから。
※複数サイトで掲載中です
全部、支払っていただきますわ
あくの
恋愛
第三王子エルネストに婚約破棄を宣言された伯爵令嬢リタ。王家から衆人環視の中での婚約破棄宣言や一方的な断罪に対して相応の慰謝料が払われた。
一息ついたリタは第三王子と共に自分を断罪した男爵令嬢ロミーにも慰謝料を請求する…
※設定ゆるふわです。雰囲気です。
拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。
香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー
私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。
治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。
隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。
※複数サイトにて掲載中です
悪役令嬢の私が転校生をイジメたといわれて断罪されそうです
白雨あめ
恋愛
「君との婚約を破棄する! この学園から去れ!」
国の第一王子であるシルヴァの婚約者である伯爵令嬢アリン。彼女は転校生をイジメたという理由から、突然王子に婚約破棄を告げられてしまう。
目の前が真っ暗になり、立ち尽くす彼女の傍に歩み寄ってきたのは王子の側近、公爵令息クリスだった。
※2話完結。
婚約破棄ですか? では、この家から出て行ってください
八代奏多
恋愛
伯爵令嬢で次期伯爵になることが決まっているイルシア・グレイヴは、自らが主催したパーティーで婚約破棄を告げられてしまった。
元、婚約者の子爵令息アドルフハークスはイルシアの行動を責め、しまいには家から出て行けと言うが……。
出ていくのは、貴方の方ですわよ?
※カクヨム様でも公開しております。
【完結】唯一の味方だと思っていた婚約者に裏切られました
紫崎 藍華
恋愛
両親に愛されないサンドラは婚約者ができたことで救われた。
ところが妹のリザが婚約者を譲るよう言ってきたのだ。
困ったサンドラは両親に相談するが、両親はリザの味方だった。
頼れる人は婚約者しかいない。
しかし婚約者は意外な提案をしてきた。
婚約破棄された眠り姫の復讐 〜眠っている間に元婚約者の国外追放が決まりました〜
香木あかり
恋愛
「君より守りたい人が出来たんだ……すまないレイチェル。でも大丈夫!君は魔法も使えるし、一人でも生きているよ。だから婚約は白紙にしよう!」
どうして?私より守りたい人って誰よ!……大丈夫って何??
幼い頃から決められていた婚約者にずっと尽くしてきたレイチェルは、婚約破棄のショックで眠りから覚めなくなってしまった。三年の時を経て眠りから覚めると、元婚約者の国外追放が決定していたり、我が家の商売(薬草屋)が大繁盛していたりと良いことばかり。
眠っている間に全てがうまくいったレイチェルだったが、実は全てレイチェルの復讐だった。
※複数サイトで掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる