猫憑きの巫女

音爽(ネソウ)

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猫耳と尻尾

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HRが終えると同時にヒマリは帰宅する、教室を出て行く彼女に誰かが「バイバイ」と声をかけたが「さよなら」と振り向きもせずに速足で帰路を急ぐ。
「今日はどのくらい依頼が来たかな?」
昇降口を出るやいなや彼女は走りだした、その足はとても軽やかで速くしなやかである。そう、まるで猫のように……。
すれ違う生徒達がその速さに目を白黒させて、あっと言う間に小さくなるその背を眺めて呟く。
「今の子、三角耳と尻尾が生えてなかった?」
「え、まさかぁ……あぁそういう玩具あったよね、脳波に反応して動くやつ」
きっとコスプレをする変わり者なのだろうと彼らは流して談笑した。

「ほっほっ!ほっほっ!さすが猫神様の御利益です、ぜんぜん疲れませんねぇ」
祖母のシマには火急の用事でもない限り能力を使うなと言われているが、ヒマリにとっては神社で手伝いをすることか”火急”なのだと嘯くのである。使えるものは生かさなければ勿体ないという考えなのだ。
いよいよ正面門という所に来たところで要らぬ邪魔が入る。
「また彼方ですか、いい加減怒りますよ?」
彼女の前に大の字に立塞がる男子生徒にウンザリして肩を竦める、教室内では分が悪いと思ったらしいその人物はニタリと嗤っている。

「その俊足を生かせる陸上部へこいと言っている、素直にこれにサインしろ!」
突き出された紙切れは”入部届”であった、しつこさと強引さに辟易したヒマリは構ってられないと言い、1mほど離れてからダッシュした。そして、大きく飛び跳ね男子生徒の頭上を捻りをつけて飛び越えて走り去る。
「な、なんてヤツだ!……嘘だろ、俺の身長より遥か上を飛んだぞ!?」
中学生にしては大柄であった男子生徒は180センチ近くある、それを軽く飛び越えた彼女を見て「絶対に入部させる」と鼻息荒く言った。
「猫コスプレはいただけないがな……アフォ丸出しじゃないか」

***

「ただいまバァちゃん!依頼は来てますか?」
「おや、随分と早いこと……」
猫化した孫娘の姿を見てヤレヤレと頭を振って「しょうのない子」だと溜息を吐いた。人様の前では控えろと言っても孫は止めそうもないと呆れる。なんの為の封紐かわからないと彼女のポニーテールを一瞥する。
すばやく巫女衣装を着た彼女は気合を入れるように両頬をパチンと叩いた。

社務所奥の隔離部屋へふたり連れだって移動する、ヒマリはすでにザワザワした気配を感じ取ったのかイカ耳になり尻尾の毛は警戒に逆立っている。
「とても良くないものが来てるんだね、どれかなぁ……」
「恐らく古い櫛だと思うわよ、清め塩が塗された麻布でぐるぐる巻きにされて届いたのだけど」
受け取りを拒否したいほど禍々しさを感じたのだと祖母は眉根を寄せて言った。バァちゃんが嫌悪するほどの逸品と聞いたヒマリは怖さを上回る好奇心でワクワクしていた。

格子囲いの錠を外すと黒檀の机に数点の依頼品が鎮座していた、その中に錆び色の塊を見たヒマリはこれに違いないと見定め興奮する。
「ではでは、祓い清めましょう!猫神様お護りくださいませ!」張り切る孫に祖母の窘める声が制止させる。
「これ、塩盛と香焚きが先ですよ。祓ったものが余所にうつったら困るでしょ」
「あ、ごめんなさい」

少しばかり浮ついていたヒマリの表情が緊張の面持ちに変化する。
香が充満して囲い周辺が白濁していった、ただの小部屋がたちまち儼乎げんこたる空間へと変貌していく。
「畏まつてまうさげます、かむの子が祷りを捧げたひ。祓清めたく言の葉を献上せり、彼の縁かのえにしより断ちたまふこれ浄化せしめん、かむの恩寵を賜りて穢れしものに宥恕ゆうじょを請ふ」

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