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とある下町にショーンとサビネという男女が慎ましく暮らしていた、裕福とは程遠いがそれでも幸せであると思っている。知り合って五年、結婚を意識してくるのは自然と言えた。しかし、恋仲のままが楽だという男は一向に求婚をしてこない。
同棲して三年目の春、同世代の友人知人は幸せな報せを持ってくることが増えた。雑貨店で働くサビネはこのままで良いのだろうかと不安を募らせる、今年で二十三歳となる彼女は適齢期ではあるが後数年も経てば嫁き遅れなどと陰口を叩かれるかもしれないとビクビクしていた。
私達もそろそろと考える、だが彼は遠回しに結婚を仄めかしても聞こえない振りをする。
しつこく聞けばショーンはきっと怒りだすとわかっている彼女は強く言えない。
「サビネ、貴女はいつ結婚するの?」
「え……」
なんてことはない職場での同僚同士の会話だったが彼女にはズシンと重い話題である。”そのうちね”と適当に返事をして作業をする振りをしてやり過ごすのだ。人目のない倉庫に入り「はぁ~」と虚しい溜息を吐く。
「面倒だからと向き合わないのも限界だわ……ケジメをつけなければ」
夕飯の買い物もせずに帰宅したサビネは一大決心をして彼に告げた。
「このままズルズルと暮らすだけなら私たち終わりにしよう」
いつになく硬い表情の恋人に瞠目するショーン、しかし、緊張して身構えている彼女に彼はアッサリと別れを受け入れた。
「そうだな、俺は結婚願望はないから縛り付けるのはよそう。いいよ別れよう」
「……今月中に部屋を出て行くわ、いままでありがとう」
涙をこらえてサビネは言った、声が震えないようにと手の内側に爪を立てて耐えている。
「うん、そうか」
いつも言葉少ない彼だが最後だというのに素っ気ない、この五年間はなんだったのだろうと急激に心が冷えて行く。
ショーンは彼女の方を見向きもせずに小説に夢中で、いつもの彼のままそこにいた。
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