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第4章
4-9 ヤナギの混乱と動揺
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【前回のあらすじ】
美那が風呂に入っている間に帰ってきた母親の加奈江はお酒も入って上機嫌で、リユと美那が結ばれたことを素直に喜んでくれる。翌日、真由とリユとの写真の問題で柳本に会いに向かったふたり。電車の中で美那はリユに、柳本の本命が女子バスケ部2年の折原咲歩らしいと打ち明ける。
※愛読者のみなさま、更新が遅くなりましたこと、お詫びいたします。
待ち合わせ場所のコンコースで5分ほど待つと、地下鉄側のエスカレーターから柳本が上がってきた。
「柳本!」
俺が声を掛けると、気づいた柳本が驚いた顔で俺たちを見ながら、寄ってくる。
「よお。ところで、なんで山下もいるんだ?」
「ああ、ちょっとな」
「ちょっとって……お前、昨日からほとんどなんも説明してないじゃん」
「まあ、とりあえずどっか店に入ろうぜ」
「お前の奢りなら、スタバでもいいけど?」
「バイト代も入ったし、いいぜ」
「マジ? あ、それでお前、そんなに灼けてるんだ」
「まあな」
美那がショッピングビルのウィングよりも京急百貨店内のスタバの方が座りやすいはずというので、6階に上がる。
美那の読み通り、すぐに4人席をゲットできた。さすがスタバ・マイスター! 柳本のやつは美那と同じようなフラペチーノの一番でかいサイズを頼みやがった。普通に飯が食える値段だし! 俺はアイスカフェラテのグランデ。
俺と美那が並んで座って、俺の向かいに柳本が座る。
「で、なんなんだよ、あれ。ちゃんと説明しろよ。いつからなんだよ? 山下も見たんだろ? あの衝撃写真」
「あ、うん」
「もしかして、山下は知ってたのか?」
美那の薄い反応に柳本は戸惑っているみたいだ。
「うん、まあ、なんとなく? あ、でも、ヤナギの誤解だと思うよ」
「いや、誤解も何も、あんな決定的な証拠ないじゃん。だよな、森本?」
「いや、違うんだよ」
「いや、違わねえだろ」
柳本がちょっと怒ったように言う。
「だから、それが違うんだって。お前は漫画描いているだろ? そして俺もこっそり小説を書いていた」
「それがどうしたんだよ」
「これは絶対に誰にも言わないでほしいんだけど……」
「え、まだなにかあるのかよ」
「約束してくれるか?」
「モノによるけど」
柳本の顔に好奇の表情が浮かぶ。
「香田さんの秘密」
「え、マジ?」
完全に柳本が食いついてきた。
「わかった、約束する。で、なんだよ?」
「実は香田さんも小説を書いてるんだ」
「マジかよ⁈ いや、でもまあ、なんとなくわからないでもないな。確かにそういう雰囲気はある。え、それがきっかけで?」
「いや、だから違うんだって。俺と香田さんは付き合ってねえから」
「でも、お前、あれ、昨日の写真だぜ。あれで付き合ってないって……いや、別に犯罪を犯してるわけじゃねえから、そりゃ俺がとやかく言うようなことじゃねえかもしれねえけど、言わずにはいられねえだろ、実山の男子としては!」
「お前さ、漫画を描いてて、自分では体験したことなくて、上手く描けないことってない?」
「え? そりゃまあ、あるけど……それが?」
「香田さんも小説を書いてて、そういうことになったらしいんだよ。デートをしたことがなくて。ほら、お前の時と同じで、たまに図書室で会うことがあって、なんとなくお互いに小説を書いていることを打ち明けてさ。で、デートシーンを書きたいけど、上手く書けないから、創作仲間としてシミュレーションの相手をお願いされたんだよ。まあ、俺的には香田さんとのデート気分を味わえて、おまけに恋人つなぎもできて、役得だったけど」
「えー、香田さんとデート気分とか、そんな都合のいい話あるかよ? でもまあ、同じクリエーターとして香田さんの気持ちはわからないでもないけどな」
「だろ? この件は香田さんにも伝えて、香田さんも誤解されるようなことを広めてもらいたくないって言ってたし、写真の件はお前で止めておいてくれるよな?」
「ああ、まあ、それは……。だけど、そういう気もないのに、そんなこと、頼むか? お前、期末も驚きの成績だったし、香田さんも実はお前と付き合ってもいいとか、思ってたんじゃね? いや、そんなこと思いたくねえけど」
「残念ながら、それはないみたいだった。まあ、小説仲間として、信頼はしてくれてるみたいだけど」
「まあ、そうか。そう考えるのが妥当な線だよな。香田さんがお前と、っていうのはな。まだ、山下だったら、わからないでもないけど」
「え、そうなの?」
美那が鋭く反応する。
「あ、いや、どっちかっていうと、って意味だけど」
柳本は美那を怒らせたと勘違いしたのか、慌てて発言を曖昧にする。
「いや、ほら、ついこのあいだ、もうひとつのスタバで見かけて、少なくとも後ろ姿では完全にカップルだったからな。幼馴染、すげえな」
「ふぅーん?」
美那は納得がいかないような声で答える。
「いや、不快な気持ちにさせたなら、悪かった。ごめん」
「え、不快とか、さすがにそれはヒドくね?」と、俺が突っ込む。
「あ、いや、ごめん。正直に言うと、おまえら、結構お似合いだなとか……なんていうか、今までおまえら学校でもあんま話してなかったし、そんな風に考えてもみなかったけど、今こうして並んでても、割といい感じっていうか……」
柳本が恐る恐るという感じで俺から美那に視線を移す。
たぶん美那は満面の笑みのはずだ。
「さすが、ヤナギも漫画を描いてるだけのことはあるじゃん。なかなかの観察眼だね!」
「え?」
機嫌の良さげな美那の声に柳本は戸惑っている。それにしてもこいつ、お似合いとはいいながら俺たちが付き合ってないことを確信してるよな……。
「この間、最近3x3をやってるって言ったじゃない?」
「ああ、うん。それ、どこでやってんの? 学校じゃねえよな」
「うん。学校の外だけど、チーム4人のうち3人はうちの関係者」
「それはつまり卒業した先輩とか?」
「当たり!」
「へぇ、すげえな。それって俺も知ってる世代?」
「知ってるんじゃないかな?」
「え、誰だよ。教えろよ。気になるじゃん」
ほんと、柳本って、こういう人が知らないような情報が好物だよな……。ま、香田さんの件はあれで納得してくれたみたいだからいいけど。
「知ってどうするのよ?」
「いや別にどうもしないけど、そこまで言っておいて教えないとかありかよ」
「聞かない方が身のためかもよ?」
「え、なんだよ、それ。うちの部の出身でそんなヤバイひと、いるの?」
「まあ、ある意味、ヤバイかな」
「誰だよ」
「花村先輩」
美那がそう言ったとたん、柳本がフリーズした。確かに俺もテニス部の時、3つ上の先輩とか、めちゃ怖かったもんな。おまけにオツはバスケ部の伝説的存在らしいし。
「……マジか。じゃあ、結構本格的なチームなんだ?」
「どうなんだろ。まあ最近はかなり強くはなってきたけど。こいつもだいぶ上手くなってきたし」
美那が俺の方は見ずに肘で小突く。
「え? こいつって、森本?」
「うん。ごめん、この間はちょっと嘘ついた。バスケ部とかには知られないように活動してきたから」
「え、ああ、うん」
柳本が子犬のような目で俺を見る。
「森本、マジ?」
「ああ」
「この間会った時、なんかこいつちょっと変わったな、とか思ったけど、そういうことかよ」
「そうか? まあ、テニス部を辞めてからの引きこもりモードからは脱したけどな」
と、謙遜はしてみたものの、この2ヶ月でえらい変わりようだよな。バイクにバスケにバイトに進路に香田さんに、そしてなんと言っても美那との……。
「いつからだよ?」
「前期の終わり頃に学校の体育がバスケだった日が、確か始めて2日目くらいだったかな」
「あ、それでちょっと上手くなってたんだ。まあ元からそこそこ上手かったけど……」
「あん時は、こいつから、シュートとかドリブルとかの基礎をちょっとだけだけど教えてもらった後だったからな」
今度は俺が美那を肘で小突く。
「そうだったのか! それにしても、なんだよ。そのなんか、ふたりの妙に親しげな感じ。ちょっと幼馴染ってのとは違わね? なんてか、カップル、っていうより、夫婦みたいな? まさか、おまえら、マジで付き合ってねえよな?」
「そのまさか?」
美那がさらっと答える。
「え、ウソだろ?」
「いや、マジ」と俺。
「え、ちょっと待て。頭が混乱してきた。えーと、森本と香田さんのデートは単に香田さんの小説用のシミュレーションで、山下が学外で3x3のチームをやっていて、そのメンバーのひとりがあの花村先輩で、もうひとりが森本? で、山下と森本が付き合ってる?」
「うん。まあ、だいたいそんな感じ」と美那。
「最後のが一番ショックだわ……」
「え、ヤナギ、わたしのこと好きだったとか?」
「いや、そういうんじゃないけど、彼女作るの森本に先を越されたのと、しかも相手が山下とか……あ、ごめん。山下をイケてる女子とは思ってるけど、いろんな意味で高すぎて俺の対象じゃないというか……」
「へえ。じゃあ、ヤナギはどうなのよ? 好きな子とかいるんでしょ?」
「え、俺? 俺のことはいいじゃん」
「咲歩が、ヤナギももう少しバスケを頑張ってたらなぁ、とか言ってたよ」
「え、折原が? あ、だからって別にどうということはないけど」
柳本、完全に動揺してる。まあ密かに想っていた相手を突然言い当てられたようなものだから、そうなるよな。
「隠さなくてもいいって。わたしは応援するけど?」
「え、ほんと? てか、そういうんじゃねえし」
柳本が焦りまくっている隙に美那からアイコンタクト。
木村さんの件だよな。
「バスケを頑張るといえば、花村さんの指令で、学校が始まったら昼休みに木村さんと練習することになってるんだけど、お前も付き合ってくれない? やっぱ3対3で練習した方がいいみたいから」
「木村さんて、まさかキャプテンのこと? じゃねえよな?」
柳本が困ったような顔で俺を見る。
「その木村さん。とりあえずまだ木村さんと美那と俺の3人しか決まってないから。もしかしたら木村さんが誰か連れてきてくれるかもしれねえけど」
「ちょっと待てよ。花村さんとか木村キャプテンとかハードル高すぎるし」
「花村さんは来ないけど」
「いやそれはわかってるけど、キャプテンとガチとか……」
「え、いいじゃん。お願い、手伝ってよ。実は出場する大会が来月の半ばで、リユのディフェンス強化が課題なの。お願い!」
「いや、山下から頼まれても、無理は無理だろ」
「マジで頼むよ、柳本」
「いや、それはな……」
「わかった、ヤナギ。無理言ってごめん。ほかの人に当たってみる」
美那がスッと引く。
「ああ、うん。そうしてくれる?」
そうは言いながらも、柳本の心は微妙に動いてる感じを美那は見抜いたのかも。たぶん折原の「ヤナギ、もう少しバスケ頑張ってれば」発言が効いているのだろう。
そこで俺は閃いた。いや、折原のことはよく知らないから成り立つかどうかわかんないけど。
「あ、美那、俺、いいこと思いついたんだけど」
「え、なに、リユ?」
「折原って、戦術担当もしてるんだよな?」
「うん」
「あれ、なんだっけ、スカウティングだっけ? ほかのチームを偵察するやつ」
「あ、うん」
「大会で折原にそういうの手伝ってもらえたりしないの?」
「あー、それありかも。まあ咲歩の予定が空いていればだけど。頼めばやってくれそう」
俯いていた柳本が、俺たちの話に顔を上げて、口を開く。
「さっきの話、ちょっと考えさせてくれないか?」
美那が風呂に入っている間に帰ってきた母親の加奈江はお酒も入って上機嫌で、リユと美那が結ばれたことを素直に喜んでくれる。翌日、真由とリユとの写真の問題で柳本に会いに向かったふたり。電車の中で美那はリユに、柳本の本命が女子バスケ部2年の折原咲歩らしいと打ち明ける。
※愛読者のみなさま、更新が遅くなりましたこと、お詫びいたします。
待ち合わせ場所のコンコースで5分ほど待つと、地下鉄側のエスカレーターから柳本が上がってきた。
「柳本!」
俺が声を掛けると、気づいた柳本が驚いた顔で俺たちを見ながら、寄ってくる。
「よお。ところで、なんで山下もいるんだ?」
「ああ、ちょっとな」
「ちょっとって……お前、昨日からほとんどなんも説明してないじゃん」
「まあ、とりあえずどっか店に入ろうぜ」
「お前の奢りなら、スタバでもいいけど?」
「バイト代も入ったし、いいぜ」
「マジ? あ、それでお前、そんなに灼けてるんだ」
「まあな」
美那がショッピングビルのウィングよりも京急百貨店内のスタバの方が座りやすいはずというので、6階に上がる。
美那の読み通り、すぐに4人席をゲットできた。さすがスタバ・マイスター! 柳本のやつは美那と同じようなフラペチーノの一番でかいサイズを頼みやがった。普通に飯が食える値段だし! 俺はアイスカフェラテのグランデ。
俺と美那が並んで座って、俺の向かいに柳本が座る。
「で、なんなんだよ、あれ。ちゃんと説明しろよ。いつからなんだよ? 山下も見たんだろ? あの衝撃写真」
「あ、うん」
「もしかして、山下は知ってたのか?」
美那の薄い反応に柳本は戸惑っているみたいだ。
「うん、まあ、なんとなく? あ、でも、ヤナギの誤解だと思うよ」
「いや、誤解も何も、あんな決定的な証拠ないじゃん。だよな、森本?」
「いや、違うんだよ」
「いや、違わねえだろ」
柳本がちょっと怒ったように言う。
「だから、それが違うんだって。お前は漫画描いているだろ? そして俺もこっそり小説を書いていた」
「それがどうしたんだよ」
「これは絶対に誰にも言わないでほしいんだけど……」
「え、まだなにかあるのかよ」
「約束してくれるか?」
「モノによるけど」
柳本の顔に好奇の表情が浮かぶ。
「香田さんの秘密」
「え、マジ?」
完全に柳本が食いついてきた。
「わかった、約束する。で、なんだよ?」
「実は香田さんも小説を書いてるんだ」
「マジかよ⁈ いや、でもまあ、なんとなくわからないでもないな。確かにそういう雰囲気はある。え、それがきっかけで?」
「いや、だから違うんだって。俺と香田さんは付き合ってねえから」
「でも、お前、あれ、昨日の写真だぜ。あれで付き合ってないって……いや、別に犯罪を犯してるわけじゃねえから、そりゃ俺がとやかく言うようなことじゃねえかもしれねえけど、言わずにはいられねえだろ、実山の男子としては!」
「お前さ、漫画を描いてて、自分では体験したことなくて、上手く描けないことってない?」
「え? そりゃまあ、あるけど……それが?」
「香田さんも小説を書いてて、そういうことになったらしいんだよ。デートをしたことがなくて。ほら、お前の時と同じで、たまに図書室で会うことがあって、なんとなくお互いに小説を書いていることを打ち明けてさ。で、デートシーンを書きたいけど、上手く書けないから、創作仲間としてシミュレーションの相手をお願いされたんだよ。まあ、俺的には香田さんとのデート気分を味わえて、おまけに恋人つなぎもできて、役得だったけど」
「えー、香田さんとデート気分とか、そんな都合のいい話あるかよ? でもまあ、同じクリエーターとして香田さんの気持ちはわからないでもないけどな」
「だろ? この件は香田さんにも伝えて、香田さんも誤解されるようなことを広めてもらいたくないって言ってたし、写真の件はお前で止めておいてくれるよな?」
「ああ、まあ、それは……。だけど、そういう気もないのに、そんなこと、頼むか? お前、期末も驚きの成績だったし、香田さんも実はお前と付き合ってもいいとか、思ってたんじゃね? いや、そんなこと思いたくねえけど」
「残念ながら、それはないみたいだった。まあ、小説仲間として、信頼はしてくれてるみたいだけど」
「まあ、そうか。そう考えるのが妥当な線だよな。香田さんがお前と、っていうのはな。まだ、山下だったら、わからないでもないけど」
「え、そうなの?」
美那が鋭く反応する。
「あ、いや、どっちかっていうと、って意味だけど」
柳本は美那を怒らせたと勘違いしたのか、慌てて発言を曖昧にする。
「いや、ほら、ついこのあいだ、もうひとつのスタバで見かけて、少なくとも後ろ姿では完全にカップルだったからな。幼馴染、すげえな」
「ふぅーん?」
美那は納得がいかないような声で答える。
「いや、不快な気持ちにさせたなら、悪かった。ごめん」
「え、不快とか、さすがにそれはヒドくね?」と、俺が突っ込む。
「あ、いや、ごめん。正直に言うと、おまえら、結構お似合いだなとか……なんていうか、今までおまえら学校でもあんま話してなかったし、そんな風に考えてもみなかったけど、今こうして並んでても、割といい感じっていうか……」
柳本が恐る恐るという感じで俺から美那に視線を移す。
たぶん美那は満面の笑みのはずだ。
「さすが、ヤナギも漫画を描いてるだけのことはあるじゃん。なかなかの観察眼だね!」
「え?」
機嫌の良さげな美那の声に柳本は戸惑っている。それにしてもこいつ、お似合いとはいいながら俺たちが付き合ってないことを確信してるよな……。
「この間、最近3x3をやってるって言ったじゃない?」
「ああ、うん。それ、どこでやってんの? 学校じゃねえよな」
「うん。学校の外だけど、チーム4人のうち3人はうちの関係者」
「それはつまり卒業した先輩とか?」
「当たり!」
「へぇ、すげえな。それって俺も知ってる世代?」
「知ってるんじゃないかな?」
「え、誰だよ。教えろよ。気になるじゃん」
ほんと、柳本って、こういう人が知らないような情報が好物だよな……。ま、香田さんの件はあれで納得してくれたみたいだからいいけど。
「知ってどうするのよ?」
「いや別にどうもしないけど、そこまで言っておいて教えないとかありかよ」
「聞かない方が身のためかもよ?」
「え、なんだよ、それ。うちの部の出身でそんなヤバイひと、いるの?」
「まあ、ある意味、ヤバイかな」
「誰だよ」
「花村先輩」
美那がそう言ったとたん、柳本がフリーズした。確かに俺もテニス部の時、3つ上の先輩とか、めちゃ怖かったもんな。おまけにオツはバスケ部の伝説的存在らしいし。
「……マジか。じゃあ、結構本格的なチームなんだ?」
「どうなんだろ。まあ最近はかなり強くはなってきたけど。こいつもだいぶ上手くなってきたし」
美那が俺の方は見ずに肘で小突く。
「え? こいつって、森本?」
「うん。ごめん、この間はちょっと嘘ついた。バスケ部とかには知られないように活動してきたから」
「え、ああ、うん」
柳本が子犬のような目で俺を見る。
「森本、マジ?」
「ああ」
「この間会った時、なんかこいつちょっと変わったな、とか思ったけど、そういうことかよ」
「そうか? まあ、テニス部を辞めてからの引きこもりモードからは脱したけどな」
と、謙遜はしてみたものの、この2ヶ月でえらい変わりようだよな。バイクにバスケにバイトに進路に香田さんに、そしてなんと言っても美那との……。
「いつからだよ?」
「前期の終わり頃に学校の体育がバスケだった日が、確か始めて2日目くらいだったかな」
「あ、それでちょっと上手くなってたんだ。まあ元からそこそこ上手かったけど……」
「あん時は、こいつから、シュートとかドリブルとかの基礎をちょっとだけだけど教えてもらった後だったからな」
今度は俺が美那を肘で小突く。
「そうだったのか! それにしても、なんだよ。そのなんか、ふたりの妙に親しげな感じ。ちょっと幼馴染ってのとは違わね? なんてか、カップル、っていうより、夫婦みたいな? まさか、おまえら、マジで付き合ってねえよな?」
「そのまさか?」
美那がさらっと答える。
「え、ウソだろ?」
「いや、マジ」と俺。
「え、ちょっと待て。頭が混乱してきた。えーと、森本と香田さんのデートは単に香田さんの小説用のシミュレーションで、山下が学外で3x3のチームをやっていて、そのメンバーのひとりがあの花村先輩で、もうひとりが森本? で、山下と森本が付き合ってる?」
「うん。まあ、だいたいそんな感じ」と美那。
「最後のが一番ショックだわ……」
「え、ヤナギ、わたしのこと好きだったとか?」
「いや、そういうんじゃないけど、彼女作るの森本に先を越されたのと、しかも相手が山下とか……あ、ごめん。山下をイケてる女子とは思ってるけど、いろんな意味で高すぎて俺の対象じゃないというか……」
「へえ。じゃあ、ヤナギはどうなのよ? 好きな子とかいるんでしょ?」
「え、俺? 俺のことはいいじゃん」
「咲歩が、ヤナギももう少しバスケを頑張ってたらなぁ、とか言ってたよ」
「え、折原が? あ、だからって別にどうということはないけど」
柳本、完全に動揺してる。まあ密かに想っていた相手を突然言い当てられたようなものだから、そうなるよな。
「隠さなくてもいいって。わたしは応援するけど?」
「え、ほんと? てか、そういうんじゃねえし」
柳本が焦りまくっている隙に美那からアイコンタクト。
木村さんの件だよな。
「バスケを頑張るといえば、花村さんの指令で、学校が始まったら昼休みに木村さんと練習することになってるんだけど、お前も付き合ってくれない? やっぱ3対3で練習した方がいいみたいから」
「木村さんて、まさかキャプテンのこと? じゃねえよな?」
柳本が困ったような顔で俺を見る。
「その木村さん。とりあえずまだ木村さんと美那と俺の3人しか決まってないから。もしかしたら木村さんが誰か連れてきてくれるかもしれねえけど」
「ちょっと待てよ。花村さんとか木村キャプテンとかハードル高すぎるし」
「花村さんは来ないけど」
「いやそれはわかってるけど、キャプテンとガチとか……」
「え、いいじゃん。お願い、手伝ってよ。実は出場する大会が来月の半ばで、リユのディフェンス強化が課題なの。お願い!」
「いや、山下から頼まれても、無理は無理だろ」
「マジで頼むよ、柳本」
「いや、それはな……」
「わかった、ヤナギ。無理言ってごめん。ほかの人に当たってみる」
美那がスッと引く。
「ああ、うん。そうしてくれる?」
そうは言いながらも、柳本の心は微妙に動いてる感じを美那は見抜いたのかも。たぶん折原の「ヤナギ、もう少しバスケ頑張ってれば」発言が効いているのだろう。
そこで俺は閃いた。いや、折原のことはよく知らないから成り立つかどうかわかんないけど。
「あ、美那、俺、いいこと思いついたんだけど」
「え、なに、リユ?」
「折原って、戦術担当もしてるんだよな?」
「うん」
「あれ、なんだっけ、スカウティングだっけ? ほかのチームを偵察するやつ」
「あ、うん」
「大会で折原にそういうの手伝ってもらえたりしないの?」
「あー、それありかも。まあ咲歩の予定が空いていればだけど。頼めばやってくれそう」
俯いていた柳本が、俺たちの話に顔を上げて、口を開く。
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