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第3章
3-52 まさかの……
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【前回のあらすじ】
美術館デートの日。待ち合わせに現れた私服の真由は、ティーンズ雑誌のモデルと見紛うほどの驚愕の可愛さで、リユは困ってしまう。そして真由の言動は有里子の予想通りデート感満載だ。素っ気なく振る舞おうとするリユだったが、それが何故か真由に好印象を与えてしまう。さらには元山先生設計の美術館の建物を夢中で見るリユに、真由は素敵だと言う。
木村さんとの練習でのゴールもそうだったけど、俺は何かに夢中になると、すぐ自分の置かれた状況を忘れてしまう。
マズイよな、この癖。
でも元山先生の建築は楽しかった。堪能できたことは満足。
「ねえ、海の方に行ってみない?」
「ああ、うん」
香田さんに促されるようにして、外に出る。
3時を過ぎて、やや日が傾いて、わずかながら暑さをしのぎやすくなった。
美術館を出て、道路を渡って、海に沿って少し歩くと、海岸の方に降りていくスロープがある。
海岸沿いは、ボードウォークという木製風の板が敷かれた散歩道になっている。
てか、ここデートコースって感じじゃ……。
家族連れもいるけど、圧倒的にカップルが多い感じ。
「なんか、デートみたいだね」
横を歩く香田さんがそう言って、俺を見上げる。
「ああ、うん」
「わたし、こうやって男の子とふたりでどこかに行くって、初めてなんだ」
「あ、そうなんだ」
まあ、なんとなくそういう感じはしていた。もちろん、たぶん何度もいろんな奴から誘われたりはしたんだろうけど。
「香田さんなら、何度も誘われてそうだけど」
「え? ああ、うん、そうだけど、そうしたい人はいなくて……」
「へえ」
「森本くんは? 女の子とどこか行ったりするの?」
「え?」
そろそろ美那のことは話した方がいいよな。
「女の子というか、山下美那とは、時々、出掛けたりするけど」
「え? 美那ちゃんと? そうなんだ……幼馴染だもんね?」
香田さんはちょっと衝撃を受けたみたいだ。
「うん。いや、実はついこの前までは、年に一、二回近所でお茶したりするくらいだったんだけど」
「だけど?」
「あ、うん。2ヶ月くらい前にバスケのチームに誘われてさ、結局チームに入ることになって、それで一緒に練習したり。バスケっていっても、5人制のじゃなくて、3x3っていう3人対3人でやるバスケで、学校外の活動なんだ」
「へぇ……」
明らかに香田さんは動揺しているっぽい。平静を装ってはいるけど。
「なんか、出場しようとしている大会の規定で、部活とかでバスケを経験してない初心者が必要だったみたいでさ」
「そういえば、森本くんって、バスケ、うまいもんね」
「いや、それほどでもないけどさ」
やっぱ、香田さん、俺に注目してくれてたのか……。もし、香田さんが誘ってくれたのが春休みだったりしたら、また違った展開になってたのかな? でもどうなんだろうな。やっぱ、俺にとって美那は絶対的存在だからな。
「球技大会の時とか、かっこいいなとか思って見てた。あ、ほら、わたしは運動が苦手だから」
「そうなんだ。それは光栄というか……」
そして、しばらく会話のないまま、ゆっくりと歩く。
潮風が頬を撫でる。香田さんのキレイに切り揃えた前髪が揺れる。
もしかして、今日のために美容院で切ってきたのか? そうとしか、考えられんな。そりゃ、デートのつもりなら、そうするか。なんかだんだんと罪悪感を感じてきた。でも俺も、美那に半ば強制的に髪を切らされたけど、今日のことを念頭に切ったわけだから、同じか。
「暑くない? 大丈夫?」
俺は沈黙に耐えかねて、口を開く。
「ああ、うん、大丈夫。ありがとう。あ、でもあそこのベンチでちょっと休む?」
少し先でボードウォークの一部分が広くなっていて、そこにベンチが6つほど配置されている。
「ああ、そうだね」
お互いにぎこちなさが戻ってしまった。最近は美那とよく一緒にいるって告白したようなものだから、当然か……。
ベンチに並んで座ってからも、沈黙が続く。
足元から波の打ち寄せる音が穏やかに聞こえてくる。
「あのさ、これは秘密にしてほしいんだけど」
香田さんが唐突に話し出す。
「ああ、うん。なに?」
ちらっと俺を見た香田さんが、小さく頷くような仕草を見せる。
「実はね、わたし、小説を書いてるの」
「え、あ、そうなんだ。でも、なんか、そういうの香田さんに合ってる気がする」
「暗いから?」
「え? 香田さんは暗くないよ。俺は陰キャと思われてると思うけど」
「どうかな? でもわたしは暗いの。高校に入って、だいぶマシにはなったけど」
香田さんは木村主将と同じ高校からの入学組だ。ただ、実山の中学から上がってきた生徒は高校入学組をあんまり区別せず、フレンドリーに受け入れる伝統がある。陰湿なイジメとかもほとんどないし、そこは実山の美点と言える。
「へぇ、そうなんだ。でも別に、暗いとか明るいとか、陰キャとか陽キャとかどうでもいいよね」
香田さんが俺を見て、ニコリとする。
「やっぱり森本くんて、そういうタイプだよね。だからもっと話してみたかったんだ」
「ああ、うん。香田さんからそう言ってもらえると嬉しい」
香田さんが揺れる眼差しで俺をじっと見る。俺は思わず視線を逸らしてしまう。
「それで小説の話なんだけど、小説投稿サイトって知ってるよね?」
「ああ、うん、まあ」と、俺は曖昧に答える。
「ある小説投稿サイトで、書いた小説を公開してるの、わたし」
「へえ、そうなんだ……なんて、サイトなの?」
「〝ヨミカキ+αで作家になる!〟っていうところ。知ってる?」
うわー、俺と同じじゃん……。
「ああ、うん、まあ、聞いたことはあるな。いや、見たこと、あると思う」
「あ、そうなんだ」
香田さんがちらりと俺を見る。なんか意味ありげだけど、意味はわからない。
「え、俺、読んでみたいな。香田さんの書いた小説。どんな小説なの?」
「あー、うーん、ベタだけど、タイムリープ系の高校生の恋愛小説かな?」
まあ確かに俺もそういうのはいくつかそのサイトで読んだことがある。
「へぇ。もしかして、タイトルとか教えてくれる?」
今度は俺が香田さんをチラ見する。なんか涼やかに微笑んでいる。
「ねえ、森本くんは、もし自分が小説を書いていて、そういうところに公開していたら、周りの人に言って、読んでもらうタイプ? それとも、誰にも言わず、こっそり書き続けるタイプ?」
「俺? そうだなぁ、こっそりタイプだな」
まんま、こっそりタイプだろ、俺は。
とはいえ、目の前でルーシーが熱心に読んでくれるのを見てたら嬉しくなったことは否定できない。
「だよね。わたし、周りの人に言い回って読んでもらう男の子って、俺は俺は、って暑苦しい感じで、ちょっと苦手なの。人それぞれだから別に否定するわけじゃないんだけど……。でも、よかった。森本くんがこっそりタイプで。そうだとは、思ってたけど。わたしもそうだから」
「そうだよね。香田さんはどうみても涼しげなタイプだもんな。あ、つまり暑苦しく読んでもらうタイプじゃないってこと」
「うん、わかるよ」
と、香田さんは言って、ちょっとだけ笑った。
「森本くんは、小説とか、書いたりしてないの?」
「俺? まあ、書くとしても、なんか、日記みたいな感じ? あえて言えば、私小説になるのかもしれないけど、小説と呼べるようなシロモノじゃないな。それに人様に読んでもらえるレベルじゃないし」
「ふぅーん」
相変わらず香田さんのふぅーんはすげえ破壊力だ。なんなんだろうな、これ。
「そのサイトね、ユーザー企画っていうのがあって、登録している人なら誰でも企画を立てて、いろいろな人の小説を集められるの」
「へぇ」
って、俺もいくつか参加したことあるけど。それで一度だけ感想をもらったこともある。
「わたしも、それね、一回だけやったことがあるんだ」
「へぇ、そうなんだ。どんな企画をしたの?」
「あ、うん」
なぜか、香田さんは企画の内容を話すのを躊躇っている。
ああ、そうか。企画名とか内容とか言っちゃうと、ペンネームとかバレちゃう可能性があるもんな。
「聞きたい?」
「え? まあ興味はあるけど、無理に言わなくても……」
「そうか……」
香田さんは残念そうに言って、木製風の板に視線を落とす。
え、なに、もしかして聞いてほしかった? 美那もそうだけど、この感じ、俺にはよくわからん!
「香田さんが嫌でなければ、聞いてみたいけど」
「ほんと?」
そうか。この話題を出したこと自体、話したい、ってことなんじゃん! そういうことか!!
「うん。ほんと。実は無茶、興味ある」
「じゃあ……あのね、企画名は『高校生が書いた高校生同士の恋愛』っていうの」
え? それ、なんか、俺がエントリーした企画に似てる……まあ、似たような企画はいくつかあったから、な。
「へぇ。でも自分で企画立てるとか、すごいね」
「まあ、ちょっと恐る恐る、ね。でも、自分の小説もいろんな人に読んでもらいたいし、ちょっと頑張ってみた」
「俺もたぶん、そのユーザー企画っていうの、覗いたことがあると思う」
「そうなんだ! じゃあ、もしかして、わたしの企画も見たかもね」
「あれって、なんか期限があるんでしょ? いつ頃やったの?」
「あ、うん。今年の5月ごろ」
「そうなんだ」
やば、俺もその頃だな、ユーザー企画にエントリーしたの。で、内容も同じような感じ。でもまさかな。
そうだ、あの企画者は確か男だったはず!
よっしゃっ、セーフ。
「でね、参加してくれた人と感想を言い合ったりして、ちょっと楽しかった。言い合うっていっても、感想欄にコメントをしたりするんだけど」
「へぇ、よかったじゃない。なんか、香田さんだっていろいろ活動してるじゃん」
「そうかな? 森本くんほどアクティブじゃないけど」
香田さんが嬉しそうな顔を俺に向ける。
やっぱ、香田さん、キレイだよな。美那ともナオさんとも有里子さんともまた違うキレイさ。それにこの可憐さ。
「それで、すごく素敵だなと思う作品があって……」
「そうなんだ。それってどんな作品だったの?」
考えてみると、なんか普通に話が盛り上がってるじゃん! さすが、小説関係の話題だ。
「カワサキZさんっていう作者なんだけど……」
え……。
美術館デートの日。待ち合わせに現れた私服の真由は、ティーンズ雑誌のモデルと見紛うほどの驚愕の可愛さで、リユは困ってしまう。そして真由の言動は有里子の予想通りデート感満載だ。素っ気なく振る舞おうとするリユだったが、それが何故か真由に好印象を与えてしまう。さらには元山先生設計の美術館の建物を夢中で見るリユに、真由は素敵だと言う。
木村さんとの練習でのゴールもそうだったけど、俺は何かに夢中になると、すぐ自分の置かれた状況を忘れてしまう。
マズイよな、この癖。
でも元山先生の建築は楽しかった。堪能できたことは満足。
「ねえ、海の方に行ってみない?」
「ああ、うん」
香田さんに促されるようにして、外に出る。
3時を過ぎて、やや日が傾いて、わずかながら暑さをしのぎやすくなった。
美術館を出て、道路を渡って、海に沿って少し歩くと、海岸の方に降りていくスロープがある。
海岸沿いは、ボードウォークという木製風の板が敷かれた散歩道になっている。
てか、ここデートコースって感じじゃ……。
家族連れもいるけど、圧倒的にカップルが多い感じ。
「なんか、デートみたいだね」
横を歩く香田さんがそう言って、俺を見上げる。
「ああ、うん」
「わたし、こうやって男の子とふたりでどこかに行くって、初めてなんだ」
「あ、そうなんだ」
まあ、なんとなくそういう感じはしていた。もちろん、たぶん何度もいろんな奴から誘われたりはしたんだろうけど。
「香田さんなら、何度も誘われてそうだけど」
「え? ああ、うん、そうだけど、そうしたい人はいなくて……」
「へえ」
「森本くんは? 女の子とどこか行ったりするの?」
「え?」
そろそろ美那のことは話した方がいいよな。
「女の子というか、山下美那とは、時々、出掛けたりするけど」
「え? 美那ちゃんと? そうなんだ……幼馴染だもんね?」
香田さんはちょっと衝撃を受けたみたいだ。
「うん。いや、実はついこの前までは、年に一、二回近所でお茶したりするくらいだったんだけど」
「だけど?」
「あ、うん。2ヶ月くらい前にバスケのチームに誘われてさ、結局チームに入ることになって、それで一緒に練習したり。バスケっていっても、5人制のじゃなくて、3x3っていう3人対3人でやるバスケで、学校外の活動なんだ」
「へぇ……」
明らかに香田さんは動揺しているっぽい。平静を装ってはいるけど。
「なんか、出場しようとしている大会の規定で、部活とかでバスケを経験してない初心者が必要だったみたいでさ」
「そういえば、森本くんって、バスケ、うまいもんね」
「いや、それほどでもないけどさ」
やっぱ、香田さん、俺に注目してくれてたのか……。もし、香田さんが誘ってくれたのが春休みだったりしたら、また違った展開になってたのかな? でもどうなんだろうな。やっぱ、俺にとって美那は絶対的存在だからな。
「球技大会の時とか、かっこいいなとか思って見てた。あ、ほら、わたしは運動が苦手だから」
「そうなんだ。それは光栄というか……」
そして、しばらく会話のないまま、ゆっくりと歩く。
潮風が頬を撫でる。香田さんのキレイに切り揃えた前髪が揺れる。
もしかして、今日のために美容院で切ってきたのか? そうとしか、考えられんな。そりゃ、デートのつもりなら、そうするか。なんかだんだんと罪悪感を感じてきた。でも俺も、美那に半ば強制的に髪を切らされたけど、今日のことを念頭に切ったわけだから、同じか。
「暑くない? 大丈夫?」
俺は沈黙に耐えかねて、口を開く。
「ああ、うん、大丈夫。ありがとう。あ、でもあそこのベンチでちょっと休む?」
少し先でボードウォークの一部分が広くなっていて、そこにベンチが6つほど配置されている。
「ああ、そうだね」
お互いにぎこちなさが戻ってしまった。最近は美那とよく一緒にいるって告白したようなものだから、当然か……。
ベンチに並んで座ってからも、沈黙が続く。
足元から波の打ち寄せる音が穏やかに聞こえてくる。
「あのさ、これは秘密にしてほしいんだけど」
香田さんが唐突に話し出す。
「ああ、うん。なに?」
ちらっと俺を見た香田さんが、小さく頷くような仕草を見せる。
「実はね、わたし、小説を書いてるの」
「え、あ、そうなんだ。でも、なんか、そういうの香田さんに合ってる気がする」
「暗いから?」
「え? 香田さんは暗くないよ。俺は陰キャと思われてると思うけど」
「どうかな? でもわたしは暗いの。高校に入って、だいぶマシにはなったけど」
香田さんは木村主将と同じ高校からの入学組だ。ただ、実山の中学から上がってきた生徒は高校入学組をあんまり区別せず、フレンドリーに受け入れる伝統がある。陰湿なイジメとかもほとんどないし、そこは実山の美点と言える。
「へぇ、そうなんだ。でも別に、暗いとか明るいとか、陰キャとか陽キャとかどうでもいいよね」
香田さんが俺を見て、ニコリとする。
「やっぱり森本くんて、そういうタイプだよね。だからもっと話してみたかったんだ」
「ああ、うん。香田さんからそう言ってもらえると嬉しい」
香田さんが揺れる眼差しで俺をじっと見る。俺は思わず視線を逸らしてしまう。
「それで小説の話なんだけど、小説投稿サイトって知ってるよね?」
「ああ、うん、まあ」と、俺は曖昧に答える。
「ある小説投稿サイトで、書いた小説を公開してるの、わたし」
「へえ、そうなんだ……なんて、サイトなの?」
「〝ヨミカキ+αで作家になる!〟っていうところ。知ってる?」
うわー、俺と同じじゃん……。
「ああ、うん、まあ、聞いたことはあるな。いや、見たこと、あると思う」
「あ、そうなんだ」
香田さんがちらりと俺を見る。なんか意味ありげだけど、意味はわからない。
「え、俺、読んでみたいな。香田さんの書いた小説。どんな小説なの?」
「あー、うーん、ベタだけど、タイムリープ系の高校生の恋愛小説かな?」
まあ確かに俺もそういうのはいくつかそのサイトで読んだことがある。
「へぇ。もしかして、タイトルとか教えてくれる?」
今度は俺が香田さんをチラ見する。なんか涼やかに微笑んでいる。
「ねえ、森本くんは、もし自分が小説を書いていて、そういうところに公開していたら、周りの人に言って、読んでもらうタイプ? それとも、誰にも言わず、こっそり書き続けるタイプ?」
「俺? そうだなぁ、こっそりタイプだな」
まんま、こっそりタイプだろ、俺は。
とはいえ、目の前でルーシーが熱心に読んでくれるのを見てたら嬉しくなったことは否定できない。
「だよね。わたし、周りの人に言い回って読んでもらう男の子って、俺は俺は、って暑苦しい感じで、ちょっと苦手なの。人それぞれだから別に否定するわけじゃないんだけど……。でも、よかった。森本くんがこっそりタイプで。そうだとは、思ってたけど。わたしもそうだから」
「そうだよね。香田さんはどうみても涼しげなタイプだもんな。あ、つまり暑苦しく読んでもらうタイプじゃないってこと」
「うん、わかるよ」
と、香田さんは言って、ちょっとだけ笑った。
「森本くんは、小説とか、書いたりしてないの?」
「俺? まあ、書くとしても、なんか、日記みたいな感じ? あえて言えば、私小説になるのかもしれないけど、小説と呼べるようなシロモノじゃないな。それに人様に読んでもらえるレベルじゃないし」
「ふぅーん」
相変わらず香田さんのふぅーんはすげえ破壊力だ。なんなんだろうな、これ。
「そのサイトね、ユーザー企画っていうのがあって、登録している人なら誰でも企画を立てて、いろいろな人の小説を集められるの」
「へぇ」
って、俺もいくつか参加したことあるけど。それで一度だけ感想をもらったこともある。
「わたしも、それね、一回だけやったことがあるんだ」
「へぇ、そうなんだ。どんな企画をしたの?」
「あ、うん」
なぜか、香田さんは企画の内容を話すのを躊躇っている。
ああ、そうか。企画名とか内容とか言っちゃうと、ペンネームとかバレちゃう可能性があるもんな。
「聞きたい?」
「え? まあ興味はあるけど、無理に言わなくても……」
「そうか……」
香田さんは残念そうに言って、木製風の板に視線を落とす。
え、なに、もしかして聞いてほしかった? 美那もそうだけど、この感じ、俺にはよくわからん!
「香田さんが嫌でなければ、聞いてみたいけど」
「ほんと?」
そうか。この話題を出したこと自体、話したい、ってことなんじゃん! そういうことか!!
「うん。ほんと。実は無茶、興味ある」
「じゃあ……あのね、企画名は『高校生が書いた高校生同士の恋愛』っていうの」
え? それ、なんか、俺がエントリーした企画に似てる……まあ、似たような企画はいくつかあったから、な。
「へぇ。でも自分で企画立てるとか、すごいね」
「まあ、ちょっと恐る恐る、ね。でも、自分の小説もいろんな人に読んでもらいたいし、ちょっと頑張ってみた」
「俺もたぶん、そのユーザー企画っていうの、覗いたことがあると思う」
「そうなんだ! じゃあ、もしかして、わたしの企画も見たかもね」
「あれって、なんか期限があるんでしょ? いつ頃やったの?」
「あ、うん。今年の5月ごろ」
「そうなんだ」
やば、俺もその頃だな、ユーザー企画にエントリーしたの。で、内容も同じような感じ。でもまさかな。
そうだ、あの企画者は確か男だったはず!
よっしゃっ、セーフ。
「でね、参加してくれた人と感想を言い合ったりして、ちょっと楽しかった。言い合うっていっても、感想欄にコメントをしたりするんだけど」
「へぇ、よかったじゃない。なんか、香田さんだっていろいろ活動してるじゃん」
「そうかな? 森本くんほどアクティブじゃないけど」
香田さんが嬉しそうな顔を俺に向ける。
やっぱ、香田さん、キレイだよな。美那ともナオさんとも有里子さんともまた違うキレイさ。それにこの可憐さ。
「それで、すごく素敵だなと思う作品があって……」
「そうなんだ。それってどんな作品だったの?」
考えてみると、なんか普通に話が盛り上がってるじゃん! さすが、小説関係の話題だ。
「カワサキZさんっていう作者なんだけど……」
え……。
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