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第3章
3-48 木村主将の提案
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【前回のあらすじ】
リユが恐れていた木村主将との練習が始まった。見た目などからビビっていたリユだが、思いの外、木村が柔和な目をしていることに気付く。ディフェンスに関しては、基本的なことは判っていると評価された上で、位置取りや腕の使い方などを教えてもらう。木村の昔馴染みである野口夫妻が来て、他のグループと一緒に3on3をやりながら、木村とのマンツーで実践的な指導を受けたリユは、最後の最後についうっかり意地を見せて、覚えたばかりのアメリカン・テクを披露してしまう。
試合は32対18で俺と美那のチームが勝ち! 野口さん夫妻もなかなか動きが良かったし、順当と言えば順当な結果だ。しおかぜ公園のMCとの試合ともまたひと味違う、純粋に遊びのゲームって感じ。俺と木村さんを除いては、だが。
「え、リユ、今のなに? なんかドリブル上手くなってない?」
美那が顔を輝かせて駆け寄ってきた。
「あ、今朝、アメリカの動画で見てちょっと練習したヤツ。お前と練習しようと思って」
美那は喜びを押し隠したような笑顔を見せる。これまであんまり見たことのない表情だ。
しまった。昨日のキスの件、またもやすっかり忘却して、普通に振舞ってるじゃん、俺。え、でも変に意識するより、その方がいいのか?
「ありがとう。助かる。自分でそういうリズムのドリブルが出来るようになれば、もちろん攻撃力も上がるし、ディフェンスの時も役立つもんね」
「ああ、うん」
やっぱ、美那、なんか可愛い……カワイイ。
と思っていたら、後ろから木村さんに肩を掴まれた。
「おい、今のドリブル、もう一回やってみろ」
「え、いや、ちょっと、たまたま上手くいっただけで……」
「なんだ、やってみろよ」
と、ややドスの効いた声で言う木村さんの目つき、ちょっと怖い。
「え、ああ、はい」
仕方なく、俺はもう一度、今朝練習した技を披露する。
「ほう……」と、木村さんが低音の響く声を出す。やや、表情が緩む。
「いや、ちょっと試しに練習してみただけで……」
「ちょっと練習しただけで、それか?」
しまった、逆効果だったっ!
「いや、まあ、ドリブルは頑張って練習してきたので……」
「まだ2ヶ月くらいだよな?」
「え、ああ、はい……」
しまった、これも逆効果か!
「まあ、花村さんの期待する気持ちもわかるな。試合は9月の半ばだっけ?」
木村さんが美那に訊く。
「はい。もうあと1ヶ月しかないので」
「俺は、今日を含めて2回くらいしか、こうしてお前たちと練習できないと思う。男子はウィンターカップの県予選出場権を得てるし、推薦の学力テストもあるしな」
「はい」と、美那が真剣な顔で答える。
「山下、3x3チームのことは部や学校には秘密にしておかないとダメなのか?」
「あ、いえ、問題ないです。別に悪いことをしていたわけではないですし、単に部活以外で活動しているのは知られない方がいいかな、と思っていただけなので。ですけど、もうこういう状況ですし」
「そうか」
木村さんは美那の言葉に頷くと、今度は俺を見る。
「……リユ、俺もそう呼んでいいか?」
うぇ?
「ああ、はい、それは全然、構いませんが……」
「いやさ、山下も花村さんもそう呼んでるし、なんかそう呼びたくなった」
「ああ、はい」
「で、だな。これは提案なんだが、そうだな昼休みとかでもいい、学校でも俺と練習してみないか?」
「え⁈ 学校で?」
俺は思わず美那を見る。
「もうバレちゃっているし、わたしは別にいいけど?」
美那は涼しい顔で言う。
そうか、学校でも普通の関係でいたいとか言ってたし、それに、あれか、俺と付き合ってると思われてもイイってことか⁈ てか、俺と堂々と付き合いたいってことか⁈ いや、それはちょっと思考が行き過ぎだろ。
「あー、それはちょっと考えさせてもらえませんか?」
「なんでだ?」
「いや、俺がいきなり木村さんほどの人とバスケの練習を始めたら……」
「なんだ、周りの目が気になるか?」
「それは、まあ、ちょっと……」
「よし、じゃあ、それは練習のあとに話そう」
野口さんに呼ばれた木村さんは、そう言い残して、行ってしまった。
「やっぱ、学校ではイヤ?」
美那がボールを突きながら、訊いてくる。
「なんていうか、ちょっと状況を想像できない。昼休みに俺が木村主将とバスケの練習とか」
「まあ、間違いなく注目を集めるよね。あ、もし、わたしとの関係が気になるのなら……木村さんとふたりだけでやればいいし」
あぁ、それもあったか! やっぱ、どう考えても、ムチャ気にしてるよな。当たり前か。だとすると、やっぱりそういうことだよな。まあ、普通そうか。俺がおかしいんだよな。だけど美那との関係はどうしてもバイアスがかかっちゃうというか。
「いや、お前との関係が気になるわけじゃ……」
いや、まったく違う意味で気になりまくってるけど。
美那を見ると、複雑な表情。
いずれにせよ、今は、美那にとっても、俺にとっても、タイトロープを渡っているような状況だからな。
木村さんもとんでもない提案をしてくれたよ。
でも実際のところ、正直、もっと上手くなれるのなら、もっと練習したいし、しかも床コートで練習できるのは試合に向けてデカイよな。相手が木村さんだと、美那を相手にするより、技術面でもフィジカル面でももっと手強いし。そしてなにより、プレーしながらディフェンスの技も学べるしな。
「ちょっと前向きに考えてみるよ」
俺は、硬い表情の美那の目を見て、言う。
「うん」
美那の瞳がわずかに柔らかく微笑む。
木村さんは、残りの30分をみんなでどう使うかという話だったらしい。
「向こうのグループが先に15分使って、俺たちが最後の15分を使わせてもらえることになった。その代わり、利用後のモップ掛けは俺たちがする。あと、野口さんが俺たちの練習を手伝ってくれるそうだ」
「それは助かりますね。やっぱり実際に人がいてくれた方が」と美那。
「ああ」と、木村さんが満足げに頷く。
それまでは、パスの練習。
俺のパスがまだまだということを木村さんは当然のように見破っていた。
そうなんだよな、バスケのパスはテニスにはない筋肉の動き。腕立てとかはしてたし、今もしてるけど、パスの練習はひとりではできないし、美那ともそれほど時間が取れるわけじゃないから、まだまだ十分じゃないみたいだ。
最後は、ゴールを使って、より実戦に近くなるよう野口さん夫妻にも手伝ってもらいながら、木村さんを相手にオフボール・ディフェンスの練習をした。
利用時間の終了5分前に練習を終わらせ、3人でハーフコートのモップ掛けをする。
全部終わると、木村さんに対する緊張と馴れない動きとで、俺は結構へとへとになっていた。
そのことは、美那はもちろん、木村さんにもバレバレ。
「このあと、トレーニングルームで筋トレもしようと思っていたが、どうする?」
「正直、ちょっとキツイっす」
「みたいだな。じゃ、今日は止めとくか。怪我をさせるわけにもいかないからな。それより、今後のことについて、飯でも食いながら話そうか」
って、そっちの方がキツいかも……でも腹も減ったしな。
「はい。お願いします」
やば、この言い方だと、学校での練習を受け入れたみたいじゃん。でも、やっぱ、やった方がいいよな。
シャワーで軽く汗を流してから、体育館を後にする。
木村さんの家は俺たちの家とは逆の方向らしいけど、体育館の周りは食うところがないし、自転車で来ているということで、俺たち家の最寄り駅の近くで食うことになった。
来る時は明るかったから気付かなかったけど、帰り道は、それなり街灯はあるもののかなり暗く、人通りもないじゃん……。
これ、もし、美那とふたりだけで帰るとなったら、かなり微妙な雰囲気になったに違いない。木村さん、ありがとうございますっ!
木村さんの希望で駅近くの大型スーパーの中にあるサイゼに。
とりあえず、定番のピザやドリア、スパゲッティを頼む。
「お疲れさん」
木村さんは今までに見せたことのない笑顔だ。
「今日はありがとうございました」
俺と美那がほぼ同時に言って、頭を下げる。
「お前たちは、ほんと息が合ってるな。花村さんもそこだけは真似できないって言ってた。『リユは色々と学べそうで学べないことが多い』とかボヤいてもいたけどな」
思わず美那と顔を見合わせる。けど、なんか、お互いに変な照れがあって、すぐに目を逸らす。
「わたしも、コイツとバスケを始めて、そこにちょっと驚いたんですよ。実山のチームでもこのくらいできれば、と思ったんですけど、やっぱり幼稚園からの付き合いだけのことはあるのかな、とか」
お、なんか、久しぶりの〝コイツ呼び〟の気がする。
「まあ、そういうのはあるんだろうな。それにしても、リユのプレーには驚かされた。この間、学校の体育館でお前たちが1on1をやってるのを見て、ある程度は分かっていたが、あれから10日くらいだろ?」
「たぶん、この間の練習試合で少し上達したのではないかと……」
俺はメチャ謙遜して言う。
「花村さんからは少し聞いたけど、どんな相手だったんだ?」
美那が要領良く3チームの特徴を説明する。
「ほう。そのレベルのチーム相手にそれなりの活躍をしたとはな」
「それなり、なんてもんじゃないですよ。シュート数ではわたしよりも決めてますから」
「そうなのか?」
やば、木村さんの目が光ったぁー。
「いや、あれですよ。女子は2倍のポイントっていうルールだったから、女子へのディフェンスが厳しかったからで、その分、俺のマークは弱かったんで」
俺は慌てて否定する。
「いや、それでも……なるほどな」
え、なにが、なるほど?
「で、どうだ? 学校での練習」
「え、ああ……」
「バスケ部の連中には俺から説明しておく。花村さんの頼みと言えば、誰も文句はないだろ。女子の方はどうする? 俺から言うか?」
花村さんが美那を見る。ちょっとマジな目。
「そうですねぇ、その方がいいかな? いずれわたしからも3x3を練習に取り入れる提案をしてみようとは思っていたんですけど」
「ああ、それな。花村さんも山下に勧めたって言ってた。で、俺にも考えてみろ、と。正直に言うと、3x3にはあんまり興味がなかったんだ。ただ、花村さんも楽しそうに話すし、お前たちのプレーを見て、多少は興味が湧いていた。で、今日のために、ちょっと3x3の動画もチェックしてみた。そして、今日は最後、リユに見事にヤられたからな」
木村さんが俺を見て、ニヤリとする。
しまったぁ。やっぱ、マズかったよな、あれ。あの瞬間、ほぼ意識飛んでたもんな、俺。
「で、花村さんはお前たちの練習に付き合うのは俺のためにもなると言ってたけど、半信半疑だった。だけど、完全に考えが変わった」
「俺も、木村さんにはもっと教えてもらいたいと思ってます。そのくらいしないと、いざという時、花村さんの穴を埋めるなんて無理です。この間の練習試合で俺たちがシュートを決められたのも、花村さんのディフェンスがあったからで」
「うん。じゃあ、決まりな?」
「ああ、はい。お願いします」
もうこうなったら腹を括るしかない。
「山下もいいな?」
「はい。よろしくお願いします」
「じゃ、バスケ部メンバーへの説明については、また改めて話そう」
「はい」
美那が力強く頷く。
そういや、花村さんと言えば、なんかなかったっけ? あ、そうだ。次の練習試合とかの話!
「あの、木村さん、ちょっと美那にチームの連絡事項を伝えてもいいですか?」
「おう。話もまとまったし、いいぞ」
「なに? 連絡事項って?」
俺はオツからのメッセージを美那に見せる。
「次の練習試合が24日に入るかもしれない、ってことと、ナオさんがお盆時期に実家に帰るからチーム練習はできない、ってことね?」
「ああ、そう」
美那が自分のスマホのカレンダーを開く。
「リユは、今度の土曜日と次の土曜日がダメなんだっけ?」
うぉー、今度の土曜日とか、さらりと言ってきやがったっ。とはいえ、美那は俺が香田さんとデート(かもしれない)とは知らないからな。
「ああ、うん、そう」
「わかった。じゃ、わたしの方でスケジュール調整しとくね」
「うん、頼んだ」
ちらりと美那の横顔を盗み見ると、なんか微妙に表情が硬いような気がするか、気のせいだよな。
リユが恐れていた木村主将との練習が始まった。見た目などからビビっていたリユだが、思いの外、木村が柔和な目をしていることに気付く。ディフェンスに関しては、基本的なことは判っていると評価された上で、位置取りや腕の使い方などを教えてもらう。木村の昔馴染みである野口夫妻が来て、他のグループと一緒に3on3をやりながら、木村とのマンツーで実践的な指導を受けたリユは、最後の最後についうっかり意地を見せて、覚えたばかりのアメリカン・テクを披露してしまう。
試合は32対18で俺と美那のチームが勝ち! 野口さん夫妻もなかなか動きが良かったし、順当と言えば順当な結果だ。しおかぜ公園のMCとの試合ともまたひと味違う、純粋に遊びのゲームって感じ。俺と木村さんを除いては、だが。
「え、リユ、今のなに? なんかドリブル上手くなってない?」
美那が顔を輝かせて駆け寄ってきた。
「あ、今朝、アメリカの動画で見てちょっと練習したヤツ。お前と練習しようと思って」
美那は喜びを押し隠したような笑顔を見せる。これまであんまり見たことのない表情だ。
しまった。昨日のキスの件、またもやすっかり忘却して、普通に振舞ってるじゃん、俺。え、でも変に意識するより、その方がいいのか?
「ありがとう。助かる。自分でそういうリズムのドリブルが出来るようになれば、もちろん攻撃力も上がるし、ディフェンスの時も役立つもんね」
「ああ、うん」
やっぱ、美那、なんか可愛い……カワイイ。
と思っていたら、後ろから木村さんに肩を掴まれた。
「おい、今のドリブル、もう一回やってみろ」
「え、いや、ちょっと、たまたま上手くいっただけで……」
「なんだ、やってみろよ」
と、ややドスの効いた声で言う木村さんの目つき、ちょっと怖い。
「え、ああ、はい」
仕方なく、俺はもう一度、今朝練習した技を披露する。
「ほう……」と、木村さんが低音の響く声を出す。やや、表情が緩む。
「いや、ちょっと試しに練習してみただけで……」
「ちょっと練習しただけで、それか?」
しまった、逆効果だったっ!
「いや、まあ、ドリブルは頑張って練習してきたので……」
「まだ2ヶ月くらいだよな?」
「え、ああ、はい……」
しまった、これも逆効果か!
「まあ、花村さんの期待する気持ちもわかるな。試合は9月の半ばだっけ?」
木村さんが美那に訊く。
「はい。もうあと1ヶ月しかないので」
「俺は、今日を含めて2回くらいしか、こうしてお前たちと練習できないと思う。男子はウィンターカップの県予選出場権を得てるし、推薦の学力テストもあるしな」
「はい」と、美那が真剣な顔で答える。
「山下、3x3チームのことは部や学校には秘密にしておかないとダメなのか?」
「あ、いえ、問題ないです。別に悪いことをしていたわけではないですし、単に部活以外で活動しているのは知られない方がいいかな、と思っていただけなので。ですけど、もうこういう状況ですし」
「そうか」
木村さんは美那の言葉に頷くと、今度は俺を見る。
「……リユ、俺もそう呼んでいいか?」
うぇ?
「ああ、はい、それは全然、構いませんが……」
「いやさ、山下も花村さんもそう呼んでるし、なんかそう呼びたくなった」
「ああ、はい」
「で、だな。これは提案なんだが、そうだな昼休みとかでもいい、学校でも俺と練習してみないか?」
「え⁈ 学校で?」
俺は思わず美那を見る。
「もうバレちゃっているし、わたしは別にいいけど?」
美那は涼しい顔で言う。
そうか、学校でも普通の関係でいたいとか言ってたし、それに、あれか、俺と付き合ってると思われてもイイってことか⁈ てか、俺と堂々と付き合いたいってことか⁈ いや、それはちょっと思考が行き過ぎだろ。
「あー、それはちょっと考えさせてもらえませんか?」
「なんでだ?」
「いや、俺がいきなり木村さんほどの人とバスケの練習を始めたら……」
「なんだ、周りの目が気になるか?」
「それは、まあ、ちょっと……」
「よし、じゃあ、それは練習のあとに話そう」
野口さんに呼ばれた木村さんは、そう言い残して、行ってしまった。
「やっぱ、学校ではイヤ?」
美那がボールを突きながら、訊いてくる。
「なんていうか、ちょっと状況を想像できない。昼休みに俺が木村主将とバスケの練習とか」
「まあ、間違いなく注目を集めるよね。あ、もし、わたしとの関係が気になるのなら……木村さんとふたりだけでやればいいし」
あぁ、それもあったか! やっぱ、どう考えても、ムチャ気にしてるよな。当たり前か。だとすると、やっぱりそういうことだよな。まあ、普通そうか。俺がおかしいんだよな。だけど美那との関係はどうしてもバイアスがかかっちゃうというか。
「いや、お前との関係が気になるわけじゃ……」
いや、まったく違う意味で気になりまくってるけど。
美那を見ると、複雑な表情。
いずれにせよ、今は、美那にとっても、俺にとっても、タイトロープを渡っているような状況だからな。
木村さんもとんでもない提案をしてくれたよ。
でも実際のところ、正直、もっと上手くなれるのなら、もっと練習したいし、しかも床コートで練習できるのは試合に向けてデカイよな。相手が木村さんだと、美那を相手にするより、技術面でもフィジカル面でももっと手強いし。そしてなにより、プレーしながらディフェンスの技も学べるしな。
「ちょっと前向きに考えてみるよ」
俺は、硬い表情の美那の目を見て、言う。
「うん」
美那の瞳がわずかに柔らかく微笑む。
木村さんは、残りの30分をみんなでどう使うかという話だったらしい。
「向こうのグループが先に15分使って、俺たちが最後の15分を使わせてもらえることになった。その代わり、利用後のモップ掛けは俺たちがする。あと、野口さんが俺たちの練習を手伝ってくれるそうだ」
「それは助かりますね。やっぱり実際に人がいてくれた方が」と美那。
「ああ」と、木村さんが満足げに頷く。
それまでは、パスの練習。
俺のパスがまだまだということを木村さんは当然のように見破っていた。
そうなんだよな、バスケのパスはテニスにはない筋肉の動き。腕立てとかはしてたし、今もしてるけど、パスの練習はひとりではできないし、美那ともそれほど時間が取れるわけじゃないから、まだまだ十分じゃないみたいだ。
最後は、ゴールを使って、より実戦に近くなるよう野口さん夫妻にも手伝ってもらいながら、木村さんを相手にオフボール・ディフェンスの練習をした。
利用時間の終了5分前に練習を終わらせ、3人でハーフコートのモップ掛けをする。
全部終わると、木村さんに対する緊張と馴れない動きとで、俺は結構へとへとになっていた。
そのことは、美那はもちろん、木村さんにもバレバレ。
「このあと、トレーニングルームで筋トレもしようと思っていたが、どうする?」
「正直、ちょっとキツイっす」
「みたいだな。じゃ、今日は止めとくか。怪我をさせるわけにもいかないからな。それより、今後のことについて、飯でも食いながら話そうか」
って、そっちの方がキツいかも……でも腹も減ったしな。
「はい。お願いします」
やば、この言い方だと、学校での練習を受け入れたみたいじゃん。でも、やっぱ、やった方がいいよな。
シャワーで軽く汗を流してから、体育館を後にする。
木村さんの家は俺たちの家とは逆の方向らしいけど、体育館の周りは食うところがないし、自転車で来ているということで、俺たち家の最寄り駅の近くで食うことになった。
来る時は明るかったから気付かなかったけど、帰り道は、それなり街灯はあるもののかなり暗く、人通りもないじゃん……。
これ、もし、美那とふたりだけで帰るとなったら、かなり微妙な雰囲気になったに違いない。木村さん、ありがとうございますっ!
木村さんの希望で駅近くの大型スーパーの中にあるサイゼに。
とりあえず、定番のピザやドリア、スパゲッティを頼む。
「お疲れさん」
木村さんは今までに見せたことのない笑顔だ。
「今日はありがとうございました」
俺と美那がほぼ同時に言って、頭を下げる。
「お前たちは、ほんと息が合ってるな。花村さんもそこだけは真似できないって言ってた。『リユは色々と学べそうで学べないことが多い』とかボヤいてもいたけどな」
思わず美那と顔を見合わせる。けど、なんか、お互いに変な照れがあって、すぐに目を逸らす。
「わたしも、コイツとバスケを始めて、そこにちょっと驚いたんですよ。実山のチームでもこのくらいできれば、と思ったんですけど、やっぱり幼稚園からの付き合いだけのことはあるのかな、とか」
お、なんか、久しぶりの〝コイツ呼び〟の気がする。
「まあ、そういうのはあるんだろうな。それにしても、リユのプレーには驚かされた。この間、学校の体育館でお前たちが1on1をやってるのを見て、ある程度は分かっていたが、あれから10日くらいだろ?」
「たぶん、この間の練習試合で少し上達したのではないかと……」
俺はメチャ謙遜して言う。
「花村さんからは少し聞いたけど、どんな相手だったんだ?」
美那が要領良く3チームの特徴を説明する。
「ほう。そのレベルのチーム相手にそれなりの活躍をしたとはな」
「それなり、なんてもんじゃないですよ。シュート数ではわたしよりも決めてますから」
「そうなのか?」
やば、木村さんの目が光ったぁー。
「いや、あれですよ。女子は2倍のポイントっていうルールだったから、女子へのディフェンスが厳しかったからで、その分、俺のマークは弱かったんで」
俺は慌てて否定する。
「いや、それでも……なるほどな」
え、なにが、なるほど?
「で、どうだ? 学校での練習」
「え、ああ……」
「バスケ部の連中には俺から説明しておく。花村さんの頼みと言えば、誰も文句はないだろ。女子の方はどうする? 俺から言うか?」
花村さんが美那を見る。ちょっとマジな目。
「そうですねぇ、その方がいいかな? いずれわたしからも3x3を練習に取り入れる提案をしてみようとは思っていたんですけど」
「ああ、それな。花村さんも山下に勧めたって言ってた。で、俺にも考えてみろ、と。正直に言うと、3x3にはあんまり興味がなかったんだ。ただ、花村さんも楽しそうに話すし、お前たちのプレーを見て、多少は興味が湧いていた。で、今日のために、ちょっと3x3の動画もチェックしてみた。そして、今日は最後、リユに見事にヤられたからな」
木村さんが俺を見て、ニヤリとする。
しまったぁ。やっぱ、マズかったよな、あれ。あの瞬間、ほぼ意識飛んでたもんな、俺。
「で、花村さんはお前たちの練習に付き合うのは俺のためにもなると言ってたけど、半信半疑だった。だけど、完全に考えが変わった」
「俺も、木村さんにはもっと教えてもらいたいと思ってます。そのくらいしないと、いざという時、花村さんの穴を埋めるなんて無理です。この間の練習試合で俺たちがシュートを決められたのも、花村さんのディフェンスがあったからで」
「うん。じゃあ、決まりな?」
「ああ、はい。お願いします」
もうこうなったら腹を括るしかない。
「山下もいいな?」
「はい。よろしくお願いします」
「じゃ、バスケ部メンバーへの説明については、また改めて話そう」
「はい」
美那が力強く頷く。
そういや、花村さんと言えば、なんかなかったっけ? あ、そうだ。次の練習試合とかの話!
「あの、木村さん、ちょっと美那にチームの連絡事項を伝えてもいいですか?」
「おう。話もまとまったし、いいぞ」
「なに? 連絡事項って?」
俺はオツからのメッセージを美那に見せる。
「次の練習試合が24日に入るかもしれない、ってことと、ナオさんがお盆時期に実家に帰るからチーム練習はできない、ってことね?」
「ああ、そう」
美那が自分のスマホのカレンダーを開く。
「リユは、今度の土曜日と次の土曜日がダメなんだっけ?」
うぉー、今度の土曜日とか、さらりと言ってきやがったっ。とはいえ、美那は俺が香田さんとデート(かもしれない)とは知らないからな。
「ああ、うん、そう」
「わかった。じゃ、わたしの方でスケジュール調整しとくね」
「うん、頼んだ」
ちらりと美那の横顔を盗み見ると、なんか微妙に表情が硬いような気がするか、気のせいだよな。
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☆星 :532
レビュー :212
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再度アップしましたが、カクヨムを撤退しました。
ブックマーク:332
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カクヨムではありがとうございました。
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