カイリーユと山下美那、Z(究極)の夏〜高2のふたりが駆け抜けたアツイ季節の記録〜

百一 里優

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第3章

3-47 恐怖の木村主将との練習(後編)

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【前編から続く】
 軽く準備運動をしているうちに、利用開始時刻の5時になった。
 開始時点での利用人数は12人。小中学生6人、俺たちを含むそれ以上の大人(?)6人のグループに分かれて、2つのゴールをそれぞれ使用することになった。
 まずは、最初の15分はウォームアップを兼ねて、6人で自由にシュート練習なんかをすることにして、そのあとは、20分ずつ交代でゴールを使うことになり、俺たちは2番目に使うことにした。
 美那が、木村さんに3x3用の黄色と青と赤で構成されたボールを渡す。
「なんか、新鮮だな。カラフルだし、小さい」
 そういう木村さんだけど、流石さすがと言うか、すぐにボールを手に馴染なじませたようだ。
 もうひと組は普通の茶色いバスケットボールだから、混じることもない。
 俺は、バスケ部勧誘対策――もちろん否定的意味――として、スペシャルな技を出さないように気を付けながら、基本的なレイアップシュートと2Pシュートを打つ。とはいえ、2Pはかなりの確率で入ってしまうわけだが。うぅ、木村さんの視線を感じる……。
 ウォームアップが終わると、コートの枠の外で、木村さんのレクチャーを受ける。ま、俺たちというより、俺だけだが。
 まずは美那がパッサー、木村さんがレシーバー、俺が木村さんをディフェンスするという役で、実際にボールを使って動いてみる。パッサーにマークが付いていることを想定している。そして、木村さんが仮想のゴールに向かって動くとか、俺のマークをずらしてパスを受けるとか、そういう動きをする。
 続いて、美那と木村さんが役割を交代。
 10分ほど、そういう動きを繰り返す。
「基本的な動きは〝感覚的に〟できているみたいだな」
 木村さんが感想を言う。
「確かに試合中はディフェンスとしてある程度は機能していました」と美那が付け足す。
「うん、そうだろうな。ただ、微妙なポジション取りとか腕の使い方とかができてない感じだな」
「と、おっしゃいますと……」と、俺はつい丁寧語で訊いてしまう。
「まあ、森本、そんなに固くなるな」
 いや、だって、普通に怖いし。
 でも、木村さん、よく見ると割と柔和にゅうわな目をしている。背が高くて、ガタイも良くて、声も太いし、一見いかつい顔だし、美那も腰が低いし、若干強引な勧誘もあったしで、怖いと思ってたけど、実は中身はそうでもないのかも。オツをしたうくらいだから、そういうことも十分にありうる。
「つまり……」
 木村さんが言うには、ボールマンに対して背中を向けてパスを阻止するという姿勢はできているけど、相手との距離や腕の使い方が良くないということで、具体的に木村さんに手本を見せてもらう。
 あとはボールマンとマークマンの両方を視界に入れるようにすること。これは俺もどこを見たらいいか、イマイチわかんなかったところだ。
「でも、あとは実践じっせん的な練習でつかんでいくしかないみたいなところはあるな。それと、俺が教えられるのはあくまでも5人制の技術ということも忘れないでくれ」
「はい」

「木村くん!」
 入口辺りから男性の声。
 木村さんが振り返る。
「あ、野口さん、ルミさん!」
 木村さんが走り寄っていく。とりあえず、俺たちも付いていく。
「どうも、ご無沙汰ぶさたしてます」
「まさか、部活、辞めたとか?」
「いや、まさか。ちょっと、花村さんに頼まれて、こいつらの指導を」
 木村さんが後ろに控える俺たちを指差す。
 野口さんはたぶん30代半ばくらいの男性——蒼山さんとか、松本で一緒にバスケをした中野さんと同じくらい——で、奥さんらしき人も一緒。
「だよな。それにしてもまた一段とデカくなったな。今、何センチ?」
「185です」
「うわー! 実山みのりやま、今年も結構、強いじゃん!」
「はい、おかげさまで。今日は誰かと待ち合わせですか?」
「いや、ちょっと時間が空いたから、プレーしようと思ってさ」
「じゃあ、こいつらの指導が終わったら、久しぶりにやりましょうよ」
「いやいや、現役バリバリの高3の相手にはならないよ」
「まあ、そうおっしゃらずに。遊びましょうよ」
「ま、そのくらいなら」
「じゃ、あとで」
 野口さんたちは、今ゴールを使っている人たちに声をかけて、そこに混じっていく。
「いや、実は、俺、中学の時は時々ここに来ててさ、その時の知り合い」と、木村さんが教えてくれる。
「へぇ、そうなんですか。あちらはご夫婦ですか?」と、美那。
「そう。ふたりとも中学からバスケをやっていて、同じ高校のバスケ部に入って、それで付き合い始めて、大学の時、いわゆる〝できちゃった婚〟したらしい。だから息子さんはもう中学生」
「うわぁ、学生結婚かぁ」と、美那がプレーを始めた野口夫妻を見ながら、つぶやくように言う。
「そういや、大人グループは今のところ全部で8人か。ってことは、3x3的なゲームができるな」
「そうですね。人数的にはちょうどピッタリですね」
「よし、じゃあ、あとで話を持ちかけてみよう。その方が森本の練習になるだろ」
 ゴールを使えるようになるまでの時間はステップの練習。美那に続いて、同じことをやってみる。
「うん。ステップも悪くないな。テニスと似てるのか?」
「まあ、そうですかね」
 もうひとつのグループのタイマーが鳴って、ゴール利用の交代だ。
 木村さんが、野口夫妻ともうひとつのグループに、ゲームをする交渉をしてくれる。話がまとまったようだ。
 ゴールを利用する20分は、木村さんと美那がパッサーとレシーバーを交代しながら、より実践的な俺のディフェンス練習となる。実際にゴールを前にすると、なんかふたりともさっきとは目の色が違うし……。
 特に木村さんがレシバー役の時は、体格差もあるし、守るのが難しい。身体からだを上手く使われて、パスを通されてしまう。
「身体の使い方が、まだよくわからないんですけど」
「そうだな。もう少し、腕を上手く使え。相手との距離、動き出しの瞬間の把握、駆け引き、動きやパスコースのカット。使い方によってはファウルを取られるが、その辺りのバランスはれるしかないな」
 そう言って木村さんが具体的な腕の使い方を何通りか教えてくれる。
 確かに美那も、マジになった時は、腕を使って微妙に押してきたりするもんな。練習試合の相手もそうだったし。
 で、それが終わると、一息ついてから、他のグループと一緒に3on3的なゲームをやることに。
 ショットクロック用のタイマーとかないし、即席のルールを作る。
 3x3をやっているのは俺と美那だけ。なので、攻守交代は一度プレーを止めてチェックボールですることにして、ボールは3x3用を使わせてもらえることになった。得点は5人制と同じで内側が2ポイントで、アークの外が3P。時間は10分の前・後半の全20分。試合時間は、スマホのタイマーを使って、控えになっている人が交代ではかることにした。ファウルとかも自己申告とか、あらゆることがゆるい。
 チームは、俺と美那に野口さん夫妻の組と、木村さんともうひとつのグループの3人の組に分かれた。3人グループの人たちは、30代から40代くらいで、昔部活でやっていて、今は趣味で週1くらいで楽しむというレベルらしい。松本の中野さんよりは、もうちょっとやってる感じかな。
 そして、俺の練習が主目的なので、残りの時間はゴールを他の人たちに優先的に使ってもらうことにして、俺と木村さんは特別にフルタイム出場させてもらうことに。そしてディフェンス時は、俺は基本的に木村さんのマークに付く。逆もまたしかり。俺のマークは木村さん。自分の動きを肌で感じてくれということだ。

 さすがに木村さんの壁は厚い。特に俺が攻撃側でオフボールの時には、絶妙にパスと動きのコースが殺されている! そして、わざとファウルをしてきて、自分で手を上げて、申告する。ま、この程度だとファウルになる、ということをゲームの中で教えてくれているわけだ。
 で、最後に俺は、ちょっと対抗心を燃やしてしまって、ついうっかり、練習を始めたドリブルのテクを出してしまった。実はそれを練習していたら、ボールが手のひらに吸い付くような感じがちょっとつかめたんだよな。
 その感覚で行ったら、木村さんのディフェンスを完全に出し抜いて、ゴールまで決めてしまった。
 そこで、試合終了。
 しまったぁ……。
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