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第3章

3-46 恐怖の木村主将との練習(前編)

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【前回のあらすじ】
 新しいドリブル技術をひとりサスケコートで練習したリユが木陰で休憩しながら物思いにふけっていると、杉浦さんが昼飯に誘ってくれた。夏休みあった出来事などをスマホの写真を見せながら夫妻に報告していると、偶然オツとナオの写真が表示され、好機と見たリユは、ふたりのプレゼンをして、夫妻への挨拶とサスケコートでのチーム練習というオツの〝お願い〟を思い切って夫妻に打診してみる。思いがけず快諾してもらえ、リユはすぐに美那に伝える。



――>すごいじゃん、リユ! 先輩も喜ぶよ。すぐに伝えてあげて。わたしはルーシーを送って、そのまま部活。じゃ、夕方ね🏀

 わっ、なんか、えらく素直でスッキリした感じのメッセージ……自分の気持ちは伝えたからね! って感じなのか? いや、それは深読みしすぎ?
 でも考えても仕方ねえ。とりあえず、オツに伝えよ。

<――サスケコートの家の杉浦さんにお願いしたら、花村さんたちの挨拶と、コートの使用がOK取れました! 行く際には前日までには連絡が欲しいとのことです。あと、今日の夕方、木村さんに教えてもらいます。

 家に帰ると、かーちゃんから「遅かったわね。お昼先に食べたわよ」と言われ、連絡するのを忘れていたことに気付いた。
「あ、ごめん。今日、杉浦さんでお昼ご馳走ちそうになっちゃった。悪い、連絡するの忘れてた」
「あら、そうなの。杉浦さんにも、あれね、そのうち、お礼に行かないとね」
 最近かーちゃんは機嫌のいいことが多く、今日みたいに連絡を忘れても、前ほどには文句を言ってこない。
「ああ、まあな。あと1ヶ月くらいで本番の大会があるから、俺たちとしては、そこでなんとか優勝して、まずはそれをお礼にしようと思ってる」
「へえ、優勝目指してるんだ。さすが、美那ちゃん」
「俺も頑張ってるんだけど……」
「わかってるわよ。確かにそれは杉浦さんも喜ぶだろうね」
 かーちゃんが笑顔で答える。
 まあ、テニス部を辞めて以来引きこもりがちだった俺もすっかり元気になったし、おまけに過去最高の試験結果だったし、かーちゃんを少しは安心させられたかも。
 と、オツからメッセージ。
――>リユ、ありがとう。助かるよ。ナオとスケジュール調整して、また連絡する。都合の悪い日があれば教えてくれ。木村にもよろしく伝えてくれ。
<――わかりました。とりあえず俺は17日(土)がバイクのスクールです。美那にはあとで聞いときます。
――>わかった。あ、それから24日(土)に次の練習試合ができるかもしれない。美那にも聞いておいてくれ。あと、ナオはお盆の11日~16日は実家に帰るから、その間はチーム練習はできない。
<――了解です。美那にも伝えときます。
――>ああ、頼む。
「美那ちゃんから?」
「え、あ、違う。チームのメンバーから」
「なんか、美那ちゃんの部活の先輩とその彼女なんだって?」
「知ってるんだ」
「わたしと美那ちゃんの間柄あいだがらだもの、そのくらい知ってるわよ」
 ま、香田さんのことも知ってたしな。ここのところしょっちゅう家に来てるし、俺が長野のバイトでいないときは泊まったりしてたしな……。
「一度、うちにもお呼びしたら? いろいろお世話になってるんでしょう?」
「いや、世話になってるってわけじゃないけど」
 そういやオツからは理系科目のアドバイスとかしてもらうし、いつも車で送ってもらってるし、ナオさんには微妙に美那のことでアドバイスもらってるかもだし、いつも優しくしてもらってるし。あ、理系科目といえば進路の話をまだかーちゃんにしてなかった。けど、とりあえず今はやめておこう。
「やっぱ、なってるかも……」
「そうでしょう?」
「まあな。あ、そうだ。今度、そのチームメンバーの花村さんとナオさんが杉浦さんのところで一緒に練習させてもらえることになったから、その時、うちにも寄ってもらっていい?」
「あ、そうなの。このところ仕事も詰まってないし、いいわよ。だったら、園子さんも呼んだらいいわ」
「そうだな。園子さんも喜ぶかもな。ふたりにもいてみないとわかんないけど、スケジュールが決まったら、教える」
「うん、そうして」
 かーちゃんはなんかやけにうれしそうな顔。まさか、美那が俺にマジ接吻キスしてきたこと、知ってるのか? いや、さすがにそれはねえだろう。まあ、嬉しそうなんだから、理由はいいか。俺には決断すべき重大な問題があるんだから、今はそれどころじゃない。

 シャワー浴びて、腹ごしらえに昼飯の残りを食って、部屋で一休ひとやすみだ。
 俺の家から体育館までは、バス路線さえなくて、歩いて30分ほどかかる。始めの頃の日曜日に美那と練習に行った、ちょっと遠い公園の近くだ。体育館に電話で問い合わせた時は、開始時間にバスケの利用枠が埋まることはほとんどないと言ってたけど、万が一ということもあるから、早めの4時前にはそのままバスケをできる格好で家を出た。バッグには、室内用のカイリーモデルの白いナイキとかボールとか着替えとかを入れてある。
 ランニングしていこうかとも思ったけど、木村さんからどのくらいシゴかれるかわからないし、考えなきゃいけないこともあるから、歩いていくことに。
 でも結局のところ、悩みが頭の中をぐるぐると回るばかりで、結論なんかでない。まあ、そんな、簡単なことじゃねえよな……。



 受付開始の15分前には到着して、窓口でいて、3人分のチケットを購入。受付開始時刻になっても、集まっているのは小・中学生を含めて7、8人といったところだ。俺みたく何人か分のチケットを買っている人もいるかもしれないから、トータル人数は分からないけど。
「おう、森本」
 聞き覚えのある太くて低い声に、俺は慌ててベンチから立ち上がる。
 利用開始5時の10分前になって木村主将がやってきた。
 うー、声を掛けられただけで、こえー
「チワッス。今日はよろしくお願いします!」
 俺は精一杯丁寧ていねいなお辞儀をする。
「おう。山下はまだか」
「はい、少し遅れるかもしれないということでした」
「今日は女子バスケ部は午後の練習だったな」
「はい、そうみたいです」
「花村さんから聞いたよ。日曜日にあった練習試合でも大活躍したんだって?」
「いや、そんなことはない、です」
 オツ、余計なこと、言わなくていいから!
「まあ、そう謙遜けんそんするな。花村さんがあれだけ言うんだから、そうなんだろう」
 てか、木村さん、花村さんのことを尊敬しすぎだし! オツだって、もう少ししたら間違いなくナオさんの尻に敷かれるから。
 とか言っているうちに、ぼちぼち人も増えてきた。
「すみません、遅くなって」
 おぉ、美那の声だっ! 心強い!!
 あ、昨日の今日だった……。
 声の方に顔を向けると、なんか昨日までの美那とちょっと違う?
 あっ、髪型。そうか、昨日は浴衣姿だったからと思ってたけど、そういや、髪を切ってから普通の格好で会うのは初めてか……なんていうか、ちょっと前よりも女子らしい感じ? よく分からんけど、可愛く見える……それとも、昨日のキスの影響か?
「木村さん、お忙しいところ、すみません。よろしくお願いします」
 美那も俺と同様、丁重ていちょうに頭を下げる。
「まあ、気にするな。花村さんからの頼みだし、女子バスケ部のレベルアップにもつながるだろうしな」
 女子バスケ部は、顧問こもんの相川先生がバスケの素人なので、男子バスケ部キャプテンの木村さんがアドバイザー的に、時折ときおり女子バスケ部の面倒をみたりしているらしい。それで、バスケ部総主将そうしゅしょうと呼ばれているとのこと。
「はい、頑張ります!」と、美那が歯切れよく答える。
 美那も木村さんを前にすると、ほんと普通の高2って感じだよな。その美那がオツを従えてるんだから、やっぱ美那ってカッコいい。
「よかったね、例の花村先輩の件」
 美那が顔を寄せて、俺の耳にささやくように言う。ちょっとドキッとするし!
「ああ、うん」
「花村さんの件?」
 木村さんの耳は〝花村〟という言葉に対して特別な感度を持っているらしい。
「はい。リユ、あ、森本くんが使っている練習場所は個人宅なので、わたしたちふたりだけで使う約束だったんですけど、花村先輩たちとチーム練習する時間がなかなか取れないので、彼がその家の方にお願いしてくれて、OKが取れて」
「そうなのか。それはよかったな。あー、俺も久しぶりに花村さんとプレーしたくなってきた。なんか、お前たちがうらやましいよ」
 【後編に続く】
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