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第3章
3-42 テディベアとおやすみのキス
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【前回のあらすじ】
鶴岡八幡宮の神事と祭りを観た後、バスケの〝シュート・チャレンジ〟イベントに向かったリユたち3人。そこで美那がリユに3Pシュート賞品のクマのぬいぐるみをおねだりする。受付で書かされた自己紹介文は、自分の順番で読まれることになっていて、なんと美那の紹介文は「ミナ、17歳、カイリーユ、ラブ」。美那とルーシーの2Pチャレンジは失敗に終わり、リユの番が来る。3P1本目は決まり、2本目を投げた!
綺麗にスピンが掛かって、黄色と青と赤が混じり合ったボールが飛んでいく。
〈おおっ、これもイイ感じで飛んでいくぞ! どうだっ?〉
しまった! ちょっとだけ長いかも?
予想通り、わずかに長く、ボールはリングの根元に当たる……。
〈ああっ、外したかぁ? いや? どうだ?〉
跳ねて、ボードに当たったボールは上方に飛ぶ。
そして、そのまま、リングの中に落ちていく。
〈おおぅ、入れやがったぜ、カイリーユくん!〉
「っしゃぁっ!」
俺は思わず雄叫びを上げる。
周りを囲む参加者から、「ウォーー」と歓声が上がる。
続いて、拍手の嵐だ。
美那とルーシーが浴衣の裾が乱れないように摺り足でやってくる。すっかり馴れたのか、結構速い。
「すごい、リユ、最高! まじで決めちゃったよ」
美那がハイタッチを求めてくる。パシッといい音を出して俺はそれに応える。
「リユ、やりました」
ルーシーともハイタッチ。
無線マイクを持ったDJが、ブースから立ち上がってゴール下に向かう。そして、俺たち3人を手招きする。
俺たちが行くまでの短い間、俺が決めたボールを拾って、結構上手いハンドリングを披露。会場が盛り上がる。
〈いやいや、カイリーユくん、決めたねぇ。気分はどう?〉
「え、いや、まあ、最高っすね」
マイクを向けられた俺は、緊張気味に答える。こういう目立つのに馴れてねえの、俺は。
〈これは、ミナちゃんの応援のおかげかな?〉
今度はマイクを美那に向ける。
って、DJ、俺はそれだけかよ。
「どうですかね。まあ、気持ちは通じたかと」と、美那が落ち着いて答える。
こいつは目立つことに馴れてっからな。
〈愛が通じた?〉
「あ、え、そっちじゃなくて、応援というか……」
急に歯切れが悪くなる美那。顔を赤らめて、俯いてるし。変なこと書くからだよ、お前!
だけど、浴衣の美那が頬を上気させていると、まじ可愛い……写真に撮りてぇー!
〈ま、いいや。それにしても、見事なシュートだった。入りそうで、入らなそうで、やっぱり入っちゃうっていう、盛り上がるシュートだったね! で、カイリーユくん、賞品は何がいいかなっ?〉
そう言って、DJが台の上に並べてある賞品を手のひらで指し示す。そして再び俺にマイクを向ける。
「クマのぬいぐるみでお願いします」と、俺は答える。
〈みんな、聞いたかい? カイリーユくんはクマのぬいぐるみを選んだよ! 実はこれ、本物のテディベア。いや、お目が高い。もしかして、彼女におねだりされちゃったのかな?〉
「おっしゃる通りで……」
〈ヒャー、青春、うらやましいねぇ! それにしても、それを決めちゃうんだから大したもんだ! おめでとう!!〉
スタッフが持ってきたグレーのふわふあのテディベアを、DJが「やったな!」と言いながら渡してくれる。
やっぱ50cmくらいあって、手元で見ると結構デカい。そしてデカいだけあって、そこそこ重さもある。
俺がそれを受け取ると、スタッフが「そこに並んでください」と言って、首に掛けてあった一眼レフカメラを構える。
DJは美那とルーシーの間に入る。俺は美那の左横の端っこ。
って、俺が主役じゃねえのかよ! ま、ふたりともメチャ可愛いし、仕方ねえか。
「やったぜ」と小さく言いながら、俺は美那にテディベアを渡す。
「ありがとう、リユ。やばカワイ。ねえ、ふたりで持と?」と、美那が耳元で囁く。
とはいえ、どうやってふたりで持つ?
で、美那がお尻の方を抱きかかえて、俺が頭の方を支える。
これって、カメラの方から見たら、まるで赤ちゃんを抱えてるみたいに見えねえか? ま、いっか。
「はい、撮りまーす」
俺たちのポーズが落ち着いたところで、フラッシュに3回照らされる。
撮影が終わると、DJが俺のところに来て、「盛り上げてくれて、サンキュ」と言い、笑顔で俺の肩を軽く叩くと、ゆっくりとブースの方に戻っていく。
〈それでは、会場のみなさーん、カイリーユくんと美那ちゃんとルーシーさんに今一度、盛大な拍手をお願いしまぁぁぁすっ!〉
再びDJがマイクを通して叫ぶと、オォォッー! と野郎どもの盛り上がりに、ピィピィという甲高い指笛の音、そして楽しげな拍手。ミナちゃーんとかルーシーとかいう声が聞こえるから、ほとんどふたりの可愛さに対する喝采だな。
「楽しかったねぇ!」
会場を離れて、ゆっくりと3人で歩きながら、美那が嬉しそうに、俺の向こう側にいるルーシーに話しかける。
「はい。めちゃ、コウフンしました!」
ルーシーが未だ興奮冷めやらずといった感じで答える。
なんか知らんけど、「リユはヒーローなんだから真ん中で」というルーシーの提案で、美那とルーシーに挟まれて、しかもふたりから手を繋がれて、今、歩いている。人通りはほとんどないけど、外から見たら、正に〝両手に花〟ってやつだろう。
ただ、ルーシーは握手するみたいに普通に繋いでるからまあいいとして、美那のヤツ、指と指を絡めてきやがる。
お前、それ、〝恋人つなぎ〟って知ってるよな! 知らねえはずない。
どういうつもりだよ。まあ、心地良くはあるが……。
でも、なんか、美那の温かくて優しい気持ちが伝わってくる。だからまあ、このままでいっか。
行きと同じ江ノ電の由比ヶ浜駅に戻る。そこから、時間は少し多めにかかるけど歩きの少ないルートで帰宅。ルーシーは、またまた美那の家にお泊まりだ。浴衣の着替えもあるんだろうけど、すっかり意気投合しちゃったみたいだよな。
美那の家の前で、預かっていたプレゼントの箸をルーシーに渡す。俺が持って帰ってきたテディ・ベアくんは美那に。もちろん剥き出しではなく、イベントのスタッフさんが元の箱と手提げ袋に入れてくれた。
「じゃね」と、美那。
「ああ」
「おやすみなさい、リユ」とルーシー。
「グッドナイト、ルーシー」
なぜか英語で言う俺……。
ふたりは何やら楽しそうに話しながら、玄関に歩いていく。
俺はいつもの習慣で、美那が玄関に入るまで、門扉の前で見送る。
すると、美那がクマさんの入った手提げ袋をルーシーに渡して、急ぎ足で戻ってきた。
「え、どうかした?」
俺がちょっと驚いていると、美那は門扉の外まで出てきて、俺の手首を掴むと、車がすれ違えるくらいの幅の道路の反対側まで連れていく。
「明日の木村主将との練習は、区立体育館に5時前に行けばいいんだよね?」
なんか、知らんけど、ちょっと思いつめたような表情。もしかして、行けなくなったとか?
「明日は午後部活だっけ?」
「あ、うん」
「じゃあ、無理しなくてもいいぞ。正直木村さんといきなりふたりはキツイと思ったけど、なんとかなるし」
「別にそれは大丈夫。ちょっと遅れるかもしれないけど」
「うん」
「あのさ、今日はありがとう。ルーシーも超喜んでくれたし、わたしもすごく楽しかった」
「あ、うん、俺も」
ふたりともスゲー可愛かったし。って、今、この目の前にいる美那は、街灯の薄明るい光の下で、微妙な陰影ができて、可愛いと言うより、綺麗って言った方がぴったりくるけど……しかも、大人っぽいキレイ。
「それと、イベントのシュート、2本とも決めたリユ、すごく素敵だった。試合の時の方がカッコいいけど、今日のはまた別の意味でカッコよかった」
「2本目はヤバかったけどな」
「でも、かえって盛り上がったじゃん」
「まあな」
なぜか美那がジッと見つめてくる。
「ねえ、おやすみのキス、していい?」
「え?」
俺が戸惑い驚いている瞬間に、美那は抱きついてくる。
キュッと抱き締められる。
そして、唇のすぐ横にチュとされる。
離れると、美那はちょっと恥ずかしげに微笑む。
「ね、リユもして?」
「え、俺も?」
「嫌?」
「別に嫌じゃないけど……」
もしかして、ルーシーに感化されて、アメリカナイズされちゃった?
「じゃあ」と美那は言うと、少し近づいて促すように左の横顔を向ける。
「うん」
俺はぎこちなく顔を近づける。
そしたら、美那は、さっと正面に向き直って、唇を合わせてきやがった!
最初の時は事故かとも思ったけど、これは、違う。確実に違う。
あ、やば、蕩けそう。不思議な甘い味。
2秒か、3秒か、5秒か、10秒か、1分か、5分か……時間の経過がまったく分からない。身動きができないというより、もうそこには、美那のくちびると俺のくちびるしか存在していない。
美那は目を伏せて、そっと離れる。
「ありがとう。うれしかった。おやすみ、リユ」
ちらっと目を上げた美那が早口に言う。なぜか不安そうな色の瞳。
「ああ、おやすみ……」
くるっと背を向けて小走りに離れていく浴衣の美那の後ろ姿を、俺は呆然と見送る。
美那はルーシーが開けてくれた玄関の扉に、飛び込むように入っていく。
残されたルーシーが「グ・ナイ、リユ!」と陽気に声を上げる。そして大きく右手を上げて、浴衣の袖をはためかせながら、手を降った。
鶴岡八幡宮の神事と祭りを観た後、バスケの〝シュート・チャレンジ〟イベントに向かったリユたち3人。そこで美那がリユに3Pシュート賞品のクマのぬいぐるみをおねだりする。受付で書かされた自己紹介文は、自分の順番で読まれることになっていて、なんと美那の紹介文は「ミナ、17歳、カイリーユ、ラブ」。美那とルーシーの2Pチャレンジは失敗に終わり、リユの番が来る。3P1本目は決まり、2本目を投げた!
綺麗にスピンが掛かって、黄色と青と赤が混じり合ったボールが飛んでいく。
〈おおっ、これもイイ感じで飛んでいくぞ! どうだっ?〉
しまった! ちょっとだけ長いかも?
予想通り、わずかに長く、ボールはリングの根元に当たる……。
〈ああっ、外したかぁ? いや? どうだ?〉
跳ねて、ボードに当たったボールは上方に飛ぶ。
そして、そのまま、リングの中に落ちていく。
〈おおぅ、入れやがったぜ、カイリーユくん!〉
「っしゃぁっ!」
俺は思わず雄叫びを上げる。
周りを囲む参加者から、「ウォーー」と歓声が上がる。
続いて、拍手の嵐だ。
美那とルーシーが浴衣の裾が乱れないように摺り足でやってくる。すっかり馴れたのか、結構速い。
「すごい、リユ、最高! まじで決めちゃったよ」
美那がハイタッチを求めてくる。パシッといい音を出して俺はそれに応える。
「リユ、やりました」
ルーシーともハイタッチ。
無線マイクを持ったDJが、ブースから立ち上がってゴール下に向かう。そして、俺たち3人を手招きする。
俺たちが行くまでの短い間、俺が決めたボールを拾って、結構上手いハンドリングを披露。会場が盛り上がる。
〈いやいや、カイリーユくん、決めたねぇ。気分はどう?〉
「え、いや、まあ、最高っすね」
マイクを向けられた俺は、緊張気味に答える。こういう目立つのに馴れてねえの、俺は。
〈これは、ミナちゃんの応援のおかげかな?〉
今度はマイクを美那に向ける。
って、DJ、俺はそれだけかよ。
「どうですかね。まあ、気持ちは通じたかと」と、美那が落ち着いて答える。
こいつは目立つことに馴れてっからな。
〈愛が通じた?〉
「あ、え、そっちじゃなくて、応援というか……」
急に歯切れが悪くなる美那。顔を赤らめて、俯いてるし。変なこと書くからだよ、お前!
だけど、浴衣の美那が頬を上気させていると、まじ可愛い……写真に撮りてぇー!
〈ま、いいや。それにしても、見事なシュートだった。入りそうで、入らなそうで、やっぱり入っちゃうっていう、盛り上がるシュートだったね! で、カイリーユくん、賞品は何がいいかなっ?〉
そう言って、DJが台の上に並べてある賞品を手のひらで指し示す。そして再び俺にマイクを向ける。
「クマのぬいぐるみでお願いします」と、俺は答える。
〈みんな、聞いたかい? カイリーユくんはクマのぬいぐるみを選んだよ! 実はこれ、本物のテディベア。いや、お目が高い。もしかして、彼女におねだりされちゃったのかな?〉
「おっしゃる通りで……」
〈ヒャー、青春、うらやましいねぇ! それにしても、それを決めちゃうんだから大したもんだ! おめでとう!!〉
スタッフが持ってきたグレーのふわふあのテディベアを、DJが「やったな!」と言いながら渡してくれる。
やっぱ50cmくらいあって、手元で見ると結構デカい。そしてデカいだけあって、そこそこ重さもある。
俺がそれを受け取ると、スタッフが「そこに並んでください」と言って、首に掛けてあった一眼レフカメラを構える。
DJは美那とルーシーの間に入る。俺は美那の左横の端っこ。
って、俺が主役じゃねえのかよ! ま、ふたりともメチャ可愛いし、仕方ねえか。
「やったぜ」と小さく言いながら、俺は美那にテディベアを渡す。
「ありがとう、リユ。やばカワイ。ねえ、ふたりで持と?」と、美那が耳元で囁く。
とはいえ、どうやってふたりで持つ?
で、美那がお尻の方を抱きかかえて、俺が頭の方を支える。
これって、カメラの方から見たら、まるで赤ちゃんを抱えてるみたいに見えねえか? ま、いっか。
「はい、撮りまーす」
俺たちのポーズが落ち着いたところで、フラッシュに3回照らされる。
撮影が終わると、DJが俺のところに来て、「盛り上げてくれて、サンキュ」と言い、笑顔で俺の肩を軽く叩くと、ゆっくりとブースの方に戻っていく。
〈それでは、会場のみなさーん、カイリーユくんと美那ちゃんとルーシーさんに今一度、盛大な拍手をお願いしまぁぁぁすっ!〉
再びDJがマイクを通して叫ぶと、オォォッー! と野郎どもの盛り上がりに、ピィピィという甲高い指笛の音、そして楽しげな拍手。ミナちゃーんとかルーシーとかいう声が聞こえるから、ほとんどふたりの可愛さに対する喝采だな。
「楽しかったねぇ!」
会場を離れて、ゆっくりと3人で歩きながら、美那が嬉しそうに、俺の向こう側にいるルーシーに話しかける。
「はい。めちゃ、コウフンしました!」
ルーシーが未だ興奮冷めやらずといった感じで答える。
なんか知らんけど、「リユはヒーローなんだから真ん中で」というルーシーの提案で、美那とルーシーに挟まれて、しかもふたりから手を繋がれて、今、歩いている。人通りはほとんどないけど、外から見たら、正に〝両手に花〟ってやつだろう。
ただ、ルーシーは握手するみたいに普通に繋いでるからまあいいとして、美那のヤツ、指と指を絡めてきやがる。
お前、それ、〝恋人つなぎ〟って知ってるよな! 知らねえはずない。
どういうつもりだよ。まあ、心地良くはあるが……。
でも、なんか、美那の温かくて優しい気持ちが伝わってくる。だからまあ、このままでいっか。
行きと同じ江ノ電の由比ヶ浜駅に戻る。そこから、時間は少し多めにかかるけど歩きの少ないルートで帰宅。ルーシーは、またまた美那の家にお泊まりだ。浴衣の着替えもあるんだろうけど、すっかり意気投合しちゃったみたいだよな。
美那の家の前で、預かっていたプレゼントの箸をルーシーに渡す。俺が持って帰ってきたテディ・ベアくんは美那に。もちろん剥き出しではなく、イベントのスタッフさんが元の箱と手提げ袋に入れてくれた。
「じゃね」と、美那。
「ああ」
「おやすみなさい、リユ」とルーシー。
「グッドナイト、ルーシー」
なぜか英語で言う俺……。
ふたりは何やら楽しそうに話しながら、玄関に歩いていく。
俺はいつもの習慣で、美那が玄関に入るまで、門扉の前で見送る。
すると、美那がクマさんの入った手提げ袋をルーシーに渡して、急ぎ足で戻ってきた。
「え、どうかした?」
俺がちょっと驚いていると、美那は門扉の外まで出てきて、俺の手首を掴むと、車がすれ違えるくらいの幅の道路の反対側まで連れていく。
「明日の木村主将との練習は、区立体育館に5時前に行けばいいんだよね?」
なんか、知らんけど、ちょっと思いつめたような表情。もしかして、行けなくなったとか?
「明日は午後部活だっけ?」
「あ、うん」
「じゃあ、無理しなくてもいいぞ。正直木村さんといきなりふたりはキツイと思ったけど、なんとかなるし」
「別にそれは大丈夫。ちょっと遅れるかもしれないけど」
「うん」
「あのさ、今日はありがとう。ルーシーも超喜んでくれたし、わたしもすごく楽しかった」
「あ、うん、俺も」
ふたりともスゲー可愛かったし。って、今、この目の前にいる美那は、街灯の薄明るい光の下で、微妙な陰影ができて、可愛いと言うより、綺麗って言った方がぴったりくるけど……しかも、大人っぽいキレイ。
「それと、イベントのシュート、2本とも決めたリユ、すごく素敵だった。試合の時の方がカッコいいけど、今日のはまた別の意味でカッコよかった」
「2本目はヤバかったけどな」
「でも、かえって盛り上がったじゃん」
「まあな」
なぜか美那がジッと見つめてくる。
「ねえ、おやすみのキス、していい?」
「え?」
俺が戸惑い驚いている瞬間に、美那は抱きついてくる。
キュッと抱き締められる。
そして、唇のすぐ横にチュとされる。
離れると、美那はちょっと恥ずかしげに微笑む。
「ね、リユもして?」
「え、俺も?」
「嫌?」
「別に嫌じゃないけど……」
もしかして、ルーシーに感化されて、アメリカナイズされちゃった?
「じゃあ」と美那は言うと、少し近づいて促すように左の横顔を向ける。
「うん」
俺はぎこちなく顔を近づける。
そしたら、美那は、さっと正面に向き直って、唇を合わせてきやがった!
最初の時は事故かとも思ったけど、これは、違う。確実に違う。
あ、やば、蕩けそう。不思議な甘い味。
2秒か、3秒か、5秒か、10秒か、1分か、5分か……時間の経過がまったく分からない。身動きができないというより、もうそこには、美那のくちびると俺のくちびるしか存在していない。
美那は目を伏せて、そっと離れる。
「ありがとう。うれしかった。おやすみ、リユ」
ちらっと目を上げた美那が早口に言う。なぜか不安そうな色の瞳。
「ああ、おやすみ……」
くるっと背を向けて小走りに離れていく浴衣の美那の後ろ姿を、俺は呆然と見送る。
美那はルーシーが開けてくれた玄関の扉に、飛び込むように入っていく。
残されたルーシーが「グ・ナイ、リユ!」と陽気に声を上げる。そして大きく右手を上げて、浴衣の袖をはためかせながら、手を降った。
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