上 下
108 / 141
第3章

3-31決着、Z-Four vs Monster's Cookie

しおりを挟む
【前回のあらすじ】
 ペギーに対するディフェンスのスタイルを変えた美那。ボール奪取まであと一歩に迫る。MCモンスターズ・クッキーは巧みなパス回しから、ゴール近くのテッドにパス。テッドがオツのディフェンスを弾き飛ばすようにダンクを決める。バランスを崩したオツは着地の際に脚をってしまい、ナオとの交代を余儀無よぎなくされる。



 残り時間は5分11秒で、16対16の同点。
 ふくらはぎをったオツはどのくらいで回復できるか。
 俺たちZの勝利はそこに大きく左右される。

 MCがゴールを決めて、俺たちZに攻撃権が移ったところで、オツの負傷によるゲームのストップ。ショットクロックは2秒ほど消費しているけど、俺たちの攻撃でのチェックボールで再開する。
 今やっている練習試合では、俺たちが出場する大会の特別ルールに合わせて、5分を切ってから最初にプレーが止まった時点で、自動的にタイムアウトが取られる。
 ただ互いにあと5点でKO勝利となる。最短なら女子の2Pシュートに1Pシュートのたった2本で勝負が決してしまう状況だ。5分過ぎの特別タイムアウトになる前に決まってしまう可能性はさほど高くないように思えるけど、3x3は展開が早いから、思いのほか、あっけなく決まってしまう可能性も否定できない。
 この試合にどうしても勝ちたいオツは、自分が出ていない間にゲームが終わってしまうことを恐れている。だから、美那にわざとボールを出して、チーム・タイムアウトを取ることをお願いしたのだ。
 え、でもちょっと待てよ。チェックボールで再開ってことは、今の時点でタイムアウトって取れるんじゃねえの? 確か、そんなルールだったような気がしないでもないけど、オツや美那がそう判断しないってことは違うんだろうな。

 ところが、俺たち3人がコートに戻ったタイミングで、なんとペギーが審判に向けて両腕でT字を作っている。これって、タイムアウトの要求だよな?
 で、審判もそれを受けて、タイムアウトを宣言……。
「え?」と、美那が呟くように言う。
「いや、俺も今コートに入って気付いたんだけど、チェックボールのタイミングだからありなのかなぁー、なんて」
「そうか……ちょっとわたし、先輩が怪我してテンパってたかも。5人制だとタイムアウト申告は選手じゃなくてコーチとかだし」
「いいじゃない! ラッキーじゃない」と、駆け出しながらナオが言う。
「うん」と、美那がぎこちない笑顔を見せる。
 ま、なんだかんだ言って、やっぱオツはZ—Fourの精神的な大黒柱なんだよな。美那的には、まだオツがチームを辞めるかもしれないって状況のままだから、なおさら動揺したんだろうな。
 オツはオツで、脚をってるし、早くゲームに戻りたいし、やっぱり5人制だし、そこまで頭が回ってなかったんだろう。

 オツは控え選手のスペースで、必死に自分で左のふくらはぎを伸ばしている。
 俺はすぐに足元に行って、オツの足裏を押して、回復を手伝う。
「どうっすか?」
「押されている間はいいが、戻されるとまだダメだ。イツツッ」
 チーム・タイムアウトは30秒なので、あっという間に過ぎてしまう。
「連続してタイムアウトは取れないのかな?」とナオ。
「どうなんだろ。ちょっと経験がないからわからない」と美那が答える。
「じゃ、審判に訊いてくる」
 ナオは美那の返事を待たずに、審判の元に駆け出す。
「リユ、先輩をお願い」と言って、美那があとを追う。

 ちょっと向こうのオフィシャル席のところで、審判と美那たちが協議している。
 スクリプツのメンバーがタブレットを審判に渡す。
 MCの取ったタイムアウトが30秒になる前に、ペギーたちがコートに戻ろうとする。
 状況を不思議に思ったらしいルーシーが俺のところに来た。
「リユ、どうかしましたか?」
「あー、えーと、俺たちも続けて、タイムアウトを取れるかどうかを審判に質問してます」
「オー、アイ、シーわかりました。ちょっと待っててください」
 ルーシーはペギーのところに行って、事情を説明しているらしい。
 ペギーとルーシーが審判たちのところに合流する。
「ちょっとは時間を稼げますね」と、俺。
「ああ、助かる……」と、オツがうめくように言う。
 オツは脂汗を流している。マジで攣った時って、真剣まじに痛てえもんな。
「どうですか? 少しは良くなりました?」
 俺は手を離してみる。
「そうだな、じっとしてれば大丈夫そうだが……ウッ、やっぱり動かすとまた来るな……」
 俺はまた筋を伸ばしてやる。
 ちらっと美那たちを見ると、審判にお辞儀をしている。
 で、こっちを見る美那とナオの顔は……笑顔だ!
「なんか、うまくいったみたいですよ」
「おお、そうか。なんとか、このまま試合に戻りたいな」
 すぐに美那とナオが戻ってくる。
「OKだって! 審判さんたちも初めてのケースらしくて、ルールブックで確認したら、それを否定する記載はないし、ペギーたちもそれでいいと言ってくれて、あと30秒だけですけど治療できます!!」と、美那。
「航太さん、どう?」
「リユのお陰で、かなり良くなった。ただ、動かすとまだ戻ってくる」
「立ち上がって、アキレスけん伸ばしをしてみます?」と、俺は提案してみる。
「そうだな」
 オツの脚に負担が掛からないように、俺とナオでゆっくりと立ち上がらせる。
 休憩用の折りたたみ椅子の背もたれに手を当てて、オツは自分でアキレス腱を伸ばす。
「よし。ここまで出来るようになれば、なんとかなりそうだ」
 ようやっとオツが笑顔で俺たちを見る。

 結局、ナオは交代していないことになり、オツがまたコートに立つ。
 16対16の残り5分11秒。
 ショットクロック10秒で俺たちZの攻撃だ。
 俺がチェックボールを任される。対するはルーシー。
 美那が右ウイングで、ペギーがマーク。左ウイングのオツにはテッド。
 オツはギリギリまで左ふくらはぎを伸ばしている。

 ルーシーはトスをすると同時に間合いを詰めてくる。
 くっそ、動きづれえ。
 ボールを奪われないよう、右側に身体をひねって、ルーシーから遠いところでドリブルを開始。
 さて、どう行くか。
 美那と目が合う。
 ドリブルで美那の方に動き出すと同時に、美那も走ってくる。
 すれ違うようにして、美那にトス。
 ここでMC側はディフェンスをスイッチせざるを得ない。
 トップ方向に動いてきたオツに美那が速いパス。
 俺は美那のディフェンスに回ったルーシーにスクリーンをかける。
 美那が右に戻るように動く。
 ペギーがそれに反応した瞬間。
 ルーシーとペギーの間にできた隙間に、俺は突っ込む。
 慌ててペギーが俺のディフェンスに戻ってくる。
 絶妙なタイミングでオツからのバウンスパス!
 後ろにペギーが迫っているのを感じながら、それをしっかりキャッチ。
 右手でのシュートは厳しそうだ。
 ペギーの圧力を押し返しながら、俺はステップを踏んで、ボールを守るように身体を左にひねりながら、ジャンプ!
 左手でのレイアップシュートだっ。
 ボールを放そうとした瞬間、微妙にペギーに押される。
 一瞬こらえて、手首を微調整。
 カラフルなボールが飛んでいく。

 そのままペギーと絡み合うようにベースラインの外に出る。
「おっっしゃぁっーー!」
 叫んだのはオツ。
 振り返ると、ボールがまっすぐ下に落ちている。
 うし。決まった。
「グッ、ショット」と、ペギーが目を合わせずに、つぶやくように言う。
 そして、すぐにボールを拾いに戻る。

(Z)17対16(MC)。
 残り時間、5分06秒。

 ボールを拾ったペギーに、俺のディフェンスは追いつかず。
 トップ付近ですばやく動き回るルーシーへのパスを通されてしまう。
 そしてルーシーは、今日最高のドリブルで美那を翻弄ほんろう
 ペギーのドリブルには順応じゅんのうし始めた美那だが、ルーシーはまた違うパターン。
 美那は完全にバランスを崩され、ルーシーは2Pを選択。
 きれいに描いたがそのままバスケットにつながってしまう……。

「クッキィーーーーーッ!」
 クッキーモンスターの雄叫びが響く。

(Z)17対20(MC)。
 先に20点を取られた……でも、こっちだって美那の2P一本でKO勝ちだかんな!
 残り時間、4分59秒。
 5分は切ったけど、まだプレーは切れない。

 俺がボールを拾いに戻る。
 ペギーがディフェンスに来る。
 やや動きが鈍くなっているペギーの隙をついて、左ウイング付近のオツにパス。
 オツの動きもまだ完全ではないみたいだけど、テッドもかなり疲労している。
 俺は瞬発力を発揮して、トップにダッシュ。
 ペギーがやや遅れている。

 オツから気合の入ったパスが届く。
 ペギーが必死の形相ぎょうそうで、俺に向かってくる。
 俺は十分に引きつけてから、1回だけのドリブルでふわっと横にずれる。
 サスケコートでひとりで練習する時みたいに、スッと2Pシュートを放つ。
 回転して色の混じったボールがリングに吸い込まれる。

「ぅっしゃあぁぁ!」
 またもや俺は思わず叫んでしまう。

(Z)19対20(MC)。
 残り4分53秒。
 MCが若干有利なスコアだけど、ほぼ差はない。こっちだって美那の1Pでいいんだ。

 ルーシーがゴール後のボールを拾いに走り、美那がそれを追う。
 タイムアウト2回分が効いたのか、ルーシーのスピードが完全に戻っている。
 ルーシーからテッド、そして俺のマークするペギーへとボールを回されてしまう。
 どっちにしろ、MCに1本決められたら、ジ・エンドだ。
 ここは行かせるわけにはいかない。

 美那がしていたように距離を詰めて、ドリブルの自由度を減らす。
 先手を取って、ディフェンスの俺からスティールに行くフェイントを掛けてみる。
 意表を突かれたらしいペギーのドリブルが乱れる。
 ボールに手が届く!
 タップしたボールは右ウイングにいる美那とルーシーの方に転がる。
 美那の動き出しが一瞬早かったっぽいけど、スピードはルーシーがまさる。
 先にボールにタッチしたのはルーシーだけど、美那も手を出す。
 ボールは再びルーズに。
 今度は俺とペギーで取り合い。
 俺ががっちりボールを確保。
 だけど、ここはまだアークの中だ。
 すぐ近くのアーク外にいる美那に一度パス。
 これでZの攻撃権が確定。
 すぐさま美那からリターンパスが来る。
 ただ内側を守るペギーがいる。
 それに俺が1Pを入れてもまだ同点だ。
 どうする?
 美那が動く。
 左サイドにいるオツの方に走り出した美那にバウンスパス。
 美那は身体を上手く使って、ルーシーのディフェンスを避けて、ボールをキャッチ。
 すぐさまオツに短いパス。
 その間に俺はスペースの空いた右ウイングに走る。ペギーがマークに来る。
 パスが来たら、2Pを決めてやる!

 美那とオツがすれ違う。
 どっちがボールを持っているのか、俺の位置からはわからない。
 テッドからも見えていないはずだ。
 美那だ!
 ボールを受け取った美那がドライブに入る。
 テッドがディフェンスに回る。
 オツがほぼフリー。
 すると美那は、なんとノールックで後ろにバウンスパス。
 オツがそれをキャッチ。
 ルーシーが、オツのディフェンスに付いた。
 かなりのミスマッチ対決。
 オツがドライブで行けば、ルーシーが有利だろう。
 2Pで行けば、少なくとも体格的にはオツが有利。

 オツはルーシーに目をくれない。
 ゴールを見ている。
 まったく躊躇ちゅうちょせず、オツは2Pの態勢に入る。
 柔らかいフォームでオツがシュートを放つ。
 ルーシーもディフェンスに飛ぶけど、まったく届かない。
 ボールは美しい放物線を描いて、リングに向かって飛んでいく。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

天下

かい
青春
小学校から野球を始めた牧野坂道 少年野球はU-12日本代表 中学時代U-15日本代表 高校からもいくつもの推薦の話があったが… 全国制覇を目指す天才と努力を兼ね備えた1人の野球好きが高校野球の扉を開ける

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

LAYBACK CAT !

旭ガ丘ひつじ
青春
ねこはバスケでまるくなる! この物語は、3x3バスケを舞台に、ねこと踊る少年少女たちの青春舞踏会ですの! 元ねこバスケ日本代表選手に、ねこバスケしよう、と誘われるも無関心。 そっぽを向く高校生の少年、犬飼創。 彼はそのある日、春という名前の猫ちゃんを賭けた先輩とのタイマンを経て、ねこバスケと向かい合うことを決めた。 そして、ねこに招かれた友達といっしょにU18県大会への出場を決意する。 この小説は熱血スポーツ小説でも、本格バスケ小説でもございません。 ねこバスケを全力で楽しむ青春娯楽小説ですわ。 また、ねこに対して最大限の配慮を心得ており苦痛を与えるようなことはございません。 てか、男性か女性かという偏りでしか選べないHOTランキング用ジャンル選択いらなくない? だって、どちらにもおススメですから! 午後5時更新予定(=^ェ^=) 3x3バスケについて! http://3x3.japanbasketball.jp/what-is https://3x3exe.com/premier/whats3x3/ 普通のバスケだけど分かりやすいの https://www.alvark-tokyo.jp/basketball_rule/

鎌倉讃歌

星空
ライト文芸
彼の遺した形見のバイクで、鎌倉へツーリングに出かけた夏月(なつき)。 彼のことを吹っ切るつもりが、ふたりの軌跡をたどれば思い出に翻弄されるばかり。海岸に佇む夏月に、バイクに興味を示した結人(ゆいと)が声をかける。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

想像缶詰  よじじゅくご味

杠葉帆蒼
青春
四字熟語から想像した物語を詰め込みます。 主に青春や恋愛要素が強め。主人公は高校生が多い。 更新はゆっくりですがよかったら楽しんでください! この四字熟語を使ってほしい等ありましたらコメントまで。

処理中です...