カイリーユと山下美那、Z（究極）の夏〜高2のふたりが駆け抜けたアツイ季節の記録〜

百一里優

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第3章

3-28 ナオのハッスル

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【前回のあらすじ】
　テッドのディフェンスでゴールの見えないリユの放ったシュートは見事にバスケットのネットを揺らす。一層気合の入った美那はペギーの攻撃を完全に抑え込む。そしてペギーの無理なシュートがラインを割ったタイミングで、リユがアウトし、ナオがイン。リユは、同じくベンチに控えるルーシーから「敵ながら天晴あっぱれ」とウインクされる。

　だー、キツかった……。
　あー、ヤベー、ポカリが身体に滲しみるぅ！
　連続出場時間は２分30秒ちょっとか。もしかすると、今までで一番長いとか？
　でも、ま、最後までなんとか動けてたよな。呼吸が整うまでの時間も短くなってきた気がする。

　チェックボールで試合再開だ。
　得点は12対11で、Ｚがわずか１点のリード。残り時間は７分24秒だ。
　Ｚの攻撃は、美那がトップのセンタートライアングルというフォーメーション。左のハイポストエリアフリースローライン付近にオツ、それよりゴール寄りの右のミドルポストにナオが立つ。
　ＭＣモンスターズ・クッキーのチェックボール担当はペギーで、オツにはジャック、ナオにはテッドがマークに付く。お互い同じマークマンを想定しているみたいだ。

　ペギーからトスされたボールを、美那は速攻でハイポストのオツにワンハンド・パス。
　オツがレシーブすると同時に、ナオが動く。
　ナオは一瞬前に出る動きを見せた後で、クルッと回って、テッドを回り込むようにしてゴールに向かって走り込む。
　オツから、バックボード右端の方向に、高ーいループパス。
　ナオがまるでバレーボールのバックアタックのようにジャンプ！
　出た、オツとナオのコンビネーション！！
　追いついたテッドもディフェンスに飛ぶ。
　ナオが空中でボールを両手でキャッチ。
「すげー、高たけぇー！」と、ギャラリーから声が上がる。
　ゴールとナオの間にはテッドがいる。
「ナオ、行けぇっ！」
　俺は思わず叫んでいる。
　身長の高いテッドの必死に伸ばした左手がシュートコースを潰つぶす。
　空中で粘ったナオがシュートを打つ。
　けど、テッドの手を避さけたシュートは少し上に上がりすぎて、手前のリングに弾かれる。

　ボールはリングに近い側にいたテッドに取られてしまう。
「あー、くそっ、惜おしい！」と、俺。
「テッド！　ナイス、ブロック！」と、ルーシー。
　ルーシーとまた視線が合う。
　ルーシーがにこりとする。ものすごーくフレンドリーな笑顔。敵意はゼロ。
　むむ……？
　俺は意味がわからず、なぜか思わずサムアップで応える。
　まあ、確かにナオのアリウープ狙いのプレーもそれを防いだテッドのディフェンスも大たいしたもんだったよな。

　テッドからトップ付近にいるペギーにパスが通る。
　美那のディフェンスを嫌ったペギーは、すぐに左サイドのアーク外にいるジャックにパス。
　身長は同じくらいでも、オツより二回りくらい体格がいいジャックは、ポジション争いでは優位のようだ。
　でもそこからはオツがジャックの攻撃を許さない。
　ペギーがフォローに行って、ジャックからボールを受け取る。
　またまた美那対ペギーの対決だ。

　高速＆ワイドなフロントチェンジのペギーに対して、グッと腰を下げ、両腕を広げて必死にドライブを阻止そしする美那。
　ペギーのフロントチェンジの上手いところは、単に高速なだけじゃなくて、身体のバネを使って、微妙にタイミングをずらしてくるところ。当然ながら、守る方はとっても守りにくい。脚も長くて、レッグスルーも織おり交まぜてくる。なんだかんだ言っても、やっぱレッグスルーは脚長あしながの方が様さまになるというか、スムーズにできる感じだよな。

　それにしても、美那も気合十分だけど、ペギーもすげー気合入ってるじゃん。ドリブルのスピードが上がってる気がするんですけど……。
　少し離れた横に座るルーシーも「ワーォ」とか呟つぶやいてるし。
　横だけじゃなくて、前後にフェイントを掛けられた美那は、バランスを崩して、尻もちをついてしまう。
　まずい。
　転んだ美那を尻目しりめにペギーがドリブルで真まっ直すぐゴールに向かう。
　完全フリーかと思いきや、なんと右サイドにいたナオが、低い姿勢からテッドを躱かわして、ディフェンスに突っ込む。
　美那を振り切って少々気を抜いていたらしいペギーが、一瞬たじろぐ。
　技術ではナオはペギーには歯が立たないはずだけど、高さでは優位性がある。ペギーもそれは十分承知のはず。２Pシュートに行かなかったことを後悔しているかもな。
　ペギーは、ナオから離れる左方向にドリブルのコースを微調整する。
　ステップを踏んで、ペギーが飛ぶ。
　ちょっと遅れてナオも飛ぶ。加速力のあるジャンプで、ペギーの高さに並んでいく。
　ナオの動きを読んでいたらしいペギーは、ボールを左から右に持ち替える。
　腕を上げたナオの脇の横を通すつもりだ！
　だけど、空中戦でのナオは強い。
　なんと、身体を捻ひねって、ペギーの放ったシュートを左手で撃うち落とした！
「オオー」
　ナオの気迫きはく溢あふれるプレーにギャラリーが湧わく。
「12番のお姉さーん、ナイスファイト！」と、中バス女子の声も聞こえる。

　ここからは、両チーム共、ボールが手につかない感じで、なかなかシュートにいけずに、パスカットやスティールやハンブルと、ボールの奪い合いになっていく。しかも、プレーが切れないから、体力的にもきつそうだ。

　１分以上の連続プレーが続いて、残り時間６分02秒で、ようやくペギーがシュートに行ったところを、美那がディフェンスでアウト・オブ・バウンズにしてプレーが切れた。
　出始めから飛ばしていたナオは結構キツそう。
　ナオが俺を見る。
　俺は立ち上がる。
　ナオが美那と言葉を交わし、ハイタッチして、こっちにゆっくり走ってくる。
　横のルーシーも立ち上がっている。
　たぶん一番キツそうなのはジャックで、ちょっと足を引ひき摺ずり気味に歩いて戻ってくる。
　もしかすると、ジャックはもうプレーできないかもしれねえな。

「やば、きつ」と、ナオ。
「すげーハッスルプレーの連続でした」
「あ、り、がと」
　切れ切れの呼吸でナオが答える。
　そして、俺の肩を叩いて、コートの外に出る。
　いや、ナオさん、マジで飛ばしてたもんな。
　横を見ると、ルーシーは軽くジャンプを繰り返して、ジャックの戻りを待っている。
　俺はゆっくりとコートに戻る。

「Leave it to you...あとはまかせた……」
「Leave it up to me!まかせといて！」
　という会話が聞こえ、振り向くと、ジャックとルーシーが軽くハイタッチしている。

　美那が俺のところに来る。
「ジャックは、ダメ、っぽいから、たぶん、ルーシーは、交代、なし。って、ことは、リユ、も、ね。大丈夫？」
　そう言っている美那の呼吸も、ナオほどじゃないけど荒い。
「まあ、やるっきゃない、ってことだろ」
　美那がじっと俺を見つめる。
　わずかに微笑む。
「だね。がんばろ」
「おお」
　美那が突き出したグーに、俺はグーで応こたえる。

　得点は（Ｚ）12対11（ＭＣ）のまま。
　残り時間はまだまだあるぜの６分ちょっと。
　さー、行くゼーー！

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