上 下
104 / 141
第3章

3-27 敵ながらアッパレ?

しおりを挟む
【前回のあらすじ】
 リユのフリースローのタイミングでルーシーがジャックと交代。フリースローがなんとか決まり、10対10の同点に戻す。次のMCモンスターズ・クッキーの攻撃はオツが数的不利をしのぎ、ジャックのシュートミスを誘う。ボールを奪ったZ―Fourは、オツがダンクを決める。MCはペギーの「ビッグバード!」という掛け声からのコンビネーションから、テッドのダンクで強烈な返礼。一方でZも、オツからのパスを受けたリユが、テッドの高いディフェンスを交わすため、身体が落下する中でシュートを放つ。



 ボールがテッドのディフェンスを抜けたところまでしか、俺には見えない。
 シュートを放つ瞬間は、ボードの一部が見えていたから、方向はだいたい合っているはずだ。
 なんか、辺りが妙に静まり返っている。
 遠くのコートでやっているバレーボールの音は聞こえるのに。

 かろうじてナイキのカイリーモデルは無事に着地したものの、後ろによろめいて、尻もちをつく。相当無理な姿勢だったから、仕方ない。
 テッドが後ろを振り向いて、「No Wayマジか……」とつぶやいているのを見上げる。
 いや、ノー・ウェイ、ってどういう意味よ? 道がない⁇ 方法がない?
 バスケットのネットの揺れる音がした。
 あの角度だと、横から当たったってことはないよな?

「……リユ」
 ため息のような美那の声が聞こえる。
 タン、タン、タンと、ボールがコートの床に弾む音が収束しゅうそくしていく。
「うぉぉぉぉーーー!」
 オツの獣のような叫び声が耳に届く。
 それから、うわぁぁぁーーーー!! というコートを包み込むような歓声。大きな拍手も起こる。といっても、たぶん十数人分のだけど。
「……入った?」
 俺の呟きに、テッドが俺を見る。
 テッドが爽やかな笑顔を浮かべ、俺に右手を差し出す。
 俺の腕を引っ張って立つのを助けてくれたテッドが、「Good Shot!!」と言って、俺の肩をポンポンと2度軽く叩く。まあ、ナイス・シュートと同じ意味だろう。
「お兄さーーーん!」
 中バス女子の声だ。
 美那が駆け寄ってくる。
「すごいよ、カイリーユ! 愛してる!!」
 ハイタッチとちょっと照れたような可愛い笑顔を残して、美那は、トップに戻るペギーのディフェンスに走っていく。

 間違いない。
 得点を表示するモニターは「Z-Four 12 — 11 Monster's Cookie」になってる!
 やべ、入ったのかよ、あれ。
 ま、サスケコートで一人練習をするとき、遊び半分で、ああいうプレーもイメージしてやっておいたからな。いま入ったのは、たぶんほとんど奇跡だけど。

 テッドがボールを拾う。
 スペースのある左ウイングにドリブルで戻る。俺はそれを追う。
 トップのペギーは美那がマーク。
 右ウイングのジャックは、オツががっちり守っている。

 ペギーがカットインの動きを見せるけど、美那がそれを許さない。
 テッドも俺をドリブルで抜こうとするけど、俺だって1on1では簡単には負けない。オフボールのディフェンスは……やっぱ木村主将に教えてもらうしかねえかぁ。オツの提案に、ほぼ合意しちゃったしな。

 ルーシーが抜けた今、MCの攻撃はどうしてもペギーが中心になる。
 美那が気合の入ったディフェンスでペギーの動きを封じると、MCは攻め手に欠ける。
 MCは、なんとかテッドからペギーにパスを繋ぐけど、これまでにないくらいの集中力で美那はペギーの突破を許さない。
 ペギーはショットクロックぎりぎりで、無理矢理な2Pシュートを打つ。
 これも美那のDの圧力を受けているから、まともなシュートにはならない。
 ボールはバックボードにも当たらず、アウト・オブ・バウンズになる。

 ナオがもう立ち上がって、交代を要求している感じ。
 俺は、トップの方にゆっくりとした駆け足で戻る。
「リユくん、めちゃカッコよかった。わたしも、頑張る!」
「うっす!」
 俺はナオの背中を見送り、ゆっくりと椅子に腰を落とす。
 ふと、少し向こうに座るルーシーに目を向けると、こっちを見ている。
 視線が合うと、にこりとする。
 俺は小さくうなずいて、それにこたえる。
「テキナガラ、アッパレデス!」
 ルーシーはそう言うと、俺にウインクしやがる。
 意味わかんねー!
 それにしても、敵ながら天晴なんて、よく知ってるな。
 これって、敵に塩を送る、ってヤツ? ちょっと違うか……でも敵にでもめられるとちょっとうれしい、みたいな……。

 残り時間、7分24秒。
 得点は12対11で、Z—Fourの1点リードだ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

俺の家には学校一の美少女がいる!

ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。 今年、入学したばかりの4月。 両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。 そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。 その美少女は学校一のモテる女の子。 この先、どうなってしまうのか!?

セレンディピティ

藤澤 怜
青春
魅力的な人達との出会いは少年を成長させていく。 主人公、疾風の青春の物語。

【本当にあった怖い話】

ねこぽて
ホラー
※実話怪談や本当にあった怖い話など、 取材や実体験を元に構成されております。 【ご朗読について】 申請などは特に必要ありませんが、 引用元への記載をお願い致します。

鎌倉讃歌

星空
ライト文芸
彼の遺した形見のバイクで、鎌倉へツーリングに出かけた夏月(なつき)。 彼のことを吹っ切るつもりが、ふたりの軌跡をたどれば思い出に翻弄されるばかり。海岸に佇む夏月に、バイクに興味を示した結人(ゆいと)が声をかける。

夏の日の面影を僕は忘れない

イトカワジンカイ
青春
 -夏が始まる。  私が一番嫌いな季節が。  だけど今年は、いつもの夏とは異なるだろう-      失恋の傷を癒せないまま日々を過ごしていた「私」は、偶然失恋相手の面影のある少年-葵と出会った。  夏休みを利用して祖父の家に来ているという葵なぜか「私」を『ナツコ』と呼び懐いてしまい、  「私」は半ば強引に共に過ごすようことになる。  偶然の出会いから始まった葵と『ナツコ』は自分たちの衝撃の関係を知ることになるのだが…。  夏が終わるときに、「私」は何を思うのだろうか…。    葵と『ナツコ』の一夏を切り取った物語。 ※ノベルバでも公開

バスケ部の野村先輩

凪司工房
BL
バスケ部の特待生として入学した雪見岳斗。しかし故障もあり、なかなか実力も出せず、部でも浮いていた。そんな彼を何故か気にかけて、色々と世話をしてくれる憧れの先輩・野村。 これはそんな二人の不思議な関係を描いた青春小説。

処理中です...