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第3章

3-26 ビッグバード

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【前回のあらすじ】
 目まぐるしく仕掛けてくるMCモンスターズ・クッキーの攻撃に、声を出し合って食い止めるリユたちZ―Four。ペギーのシュートをオツがファウルで止めるが、フリースローを決められ、再逆転を許す。次のプレーでは、リユと美那のフリーなコンビネーションから、リユのシュートがペギーのファウルを誘う。



「美那さ~ん、ナイス、パス!」
「お兄さーん、惜しいっ!」
 中バス女子2人からの声援が飛ぶ。
 美那が中バス女子に小さく手を挙げて声援に応えながら、俺の方に来た。
 そして、その手を俺の方に向ける。
 ハイタッチ!
 確かに2回、すっげーイイ、コンビネーションがあったもんな。
「リユ、フィジカルは大丈夫?」
 俺は荒れた呼吸を整えながら、顔を上げる。
「いや、そろそろヤバいかも」
「だよね。じゃ、次にボールがデッドになったらナオと交代ね」
「わかった」
 という会話をしていたら、ジャックがコートに入ってきた。そして、ルーシーはコートの外に出ている。
 MCモンスターズ・クッキーは、ルーシーとジャックが交代だ。
 俺はあらためて美那を見る。
「フリースローだし、もうちょっとだけ、頑張ってみて」
 うー。やっぱり美那はエスだな。いや、ドSだな。
 でもまあ、俺のフリースローだしな。

 ペギーとジャックが短く会話している。ペギーが何か告げ、ジャックがうなずく。
 ジャックがフリースロー・レーンの左奥、その向かいがテッド。ジャックの隣にはオツが立ち、テッドの横は美那。
 ペギーはフリースロー・レーンには並んでいない。
 フリースローラインに立つと、審判が人差し指を挙げて、ボールを渡してくれる。
「お兄さーん、頑張って!」
 中バス女子の声援が届くけど、かえってプレッシャーになるから……。
 ま、でもここは集中だ。テニスで大事なポイントのセカンドサーブくらいのつもりで投げればいい。何しろ、打ち返してくる相手がいないんだから、自分のペースでOKだ。
 いつもの練習通り、ボールを2回床に突いてからの一連の動作で、そのままボールをほうる。
 ボールはリングのやや右側に飛んでいく。
 え、やば、ずれた? いや、ぎりセーフか?
 リングに当たって、ほぼ真上にねる。
 フリースロー・レーンに並ぶ4人が、リバウンドに備える。

 って、ボールはもう一度リングで跳ねて、バスケットに落ちたーぁ!
 やべ、ギリギリじゃん。
 とはいえ、これで(Z)10対10(MC)の同点だ。
 残り時間は8分ジャスト。
 まだ試合経過時間が2分だけなんて信じられねぇー。

「ナイスだ、リユ!」
 オツが、バスケットから落ちるボールを待ち構えるジャックを警戒しながら、声を掛けてくれる。
 美那は、トップ付近にいるペギーのマークに走っている。
 俺は、右ウイングに走るテッドを追う。
 その間に出されたらしいジャックからのループパスが、ペギーに向かっている。
 パスのボールが美那の上を越えてペギーに渡ると同時に、美那もディフェンスに戻る。
 ペギーは間髪入れず、1on1を美那に仕掛ける。
 素早い攻撃に、美那があっけなく抜かれてしまう。
 インサイドは、ジャックとペギー対オツという2対1の構図になってしまった。
 ただポジション的には、オツがペギーのディフェンスに回れる。
 ペギーは、オツが近づき切る前に、フリーのジャックに低くて速いバウンスパスを送る。
 オツの横をすり抜けたパスは、ジャックに渡ってしまう。
 ペギーのパスをある程度予測していたらしいオツは、プレッシャーを掛けるべく、素早くきびすを返し、ジャックへのディフェンスへと戻る。抜かれた美那がペギーをカバーする。
 ジャックは、ちょっと弱気なオバーハンドのレイアップの態勢に入る。しおかぜ公園の時とか、今日の最初の試合とかなら、ジャックはダンクに行くはずなのに。
 さすがに2日程度のトレーニングでは、3試合戦い抜けるほどのコンディションアップは難しいだろう。ま、運動ブランクが1年もあった俺は、他人ひとのことは言えねえけど。
 オツのプレッシャーが効いたのか、簡単なはずのジャックのシュートは、リングに当たって、今度は、こっちに飛んでくる。
 テッドと俺のリバウンド争いだけど、距離が近い俺が簡単にゲット。

 美那が速攻でアークの外に戻る。
 懸命のドリブルテクニックでテッドを振り切った俺は、ペギーが戻る直前に、美那にパス。
 そして、美那から正確なリターンパス!
 テッドの厳しいディフェンスに手を焼いた俺を、オツがフォローしてくれる。
 ジャックを背負ったオツに、動きからテッドのすきを作って、パス!
 動きに精彩せいさいの欠けるジャックをロールターンで振り切ったオツが、よがしにダンクッ!!
「ウォーーー!」
 オツが雄叫びを上げる。

 これでまた1点リードだ。
(Z)11対10(MC)。
 残り時間は7分47秒。

「コウタさ~ん!」
 ナオがいつもにも増して弾んでいる。
「大きいお兄さーん、ナイス、ダンックッ!」
 中バス女子の声援も聞こえる。
「先輩、グッ、ショット!」
 美那も声を出す。
 オツが手を挙げて応える。
 美那がニコッと笑う。試合前のわだかまりはどこへやらだ。

 ゴールのボールを拾ったジャックが、ゆっくりとしたドリブルで左サイドに戻る。
 オツがマークについている。
 トップにはペギー。美那がマーク。
 右ウイングのテッドは、俺がマークしている。
 ジャックがオツのディフェンスをデカイ身体で防ぎながら、素早く動いたペギーにパス。
 ペギーのリーチに、美那のディフェンスが届かない。
 パスが通ってしまう。
ビッグBigバードBird!」
 ペギーが突然叫ぶ。
 え? セサミストリートのあのキャラ?
 すぐにペギーが、ジャックに向かって速いドリブルで動き出す。
「リユ、ジャックのスクリーン!」
 美那の声が飛ぶ。
 ちらっと振り向くと、怒涛どとうのジャックが走り込んでくる。
 思いの外、スピードに乗っていて、ぶつかられたら跳ね飛ばされそうな恐怖を感じる。
 斜め後ろに来たと思ったら、テッドがその横をすり抜けるようにして、ダイブしていく。
 ジャックが邪魔で、全然、動けん!
 ようやく振り向けた時には、ペギーからのパスがテッドに通ってしまっている。
 オツがスイッチで、テッドのディフェンスに回っている。
 ゴール下でのテッドとオツの勝負。
 テッドが、ほんの一瞬、微妙にオツのタイミングをずらして飛ぶ。
 華麗なダンクが決まってしまった……。
「おー、すげー。かっけー!」
 ギャラリーから思わず声が上がる。
 呼吸を荒げているジャックが、俺を見下みおろして、ニヤリと笑う。
 まあ、確かになかなかのチームプレーだし、身体がデカイ割に動きも速いから、ちょっと怖いくらいの迫力がある。
 ビッグバードってのは、たぶん作戦名なのだろう。

 これでまた同点。
(Z)11対11(MC)だ。

 オツがゴールのボールをキャッチする。
「リユ! トップ!」
 オツが叫ぶ。
 俺は息の切れたジャックを楽勝で引き離して、トップ方向に走る。
 美那とペギーは左サイドにいる。
 テッドがトップにダッシュしてくる。
 オツからのループパスをアークの外で受ける。
 その時にはもうテッドはすぐ目の前。
 高さを生かした覆いかぶさってくるようなディフェンス。
 これじゃ、2Pにはいけない。
 ペギーにしっかりガードされている左の美那にパスは通せそうもない。
 だったら、突っ込むしかねえな。
 ドリブルで短く技を使って、初速で勝負だ。
 前後に揺さぶってから、リズムをずらして、そのタイミングで一気に突っ込む。
 ストライドの長いテッドに徐々に追いつかれるのは分かっている。
 ゴールが近づいた時には横に並ばれている。
 まともに行ったんじゃ、絶対ブロックされる。
 テッドから遠い右手でオーバーハンド・レイアップ。
 その振りをして、飛ぶ。
 同時に飛んだテッドの左腕が高く伸びる。
 完全にコースをつぶされている。
 ジャンプの頂点に到達。
 まだ打てない。
 今度はテッドの手がボールに伸びてくる。
 その瞬間、俺は背中を反らせるようにして、テッドから上半身を遠ざける。
 そして、ボールをそっと、上に投げる。
 テッドの左手が空を切る。
 ボールの行方ゆくえは俺には見えない。
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