カイリーユと山下美那、Z(究極)の夏〜高2のふたりが駆け抜けたアツイ季節の記録〜

百一 里優

文字の大きさ
上 下
102 / 141
第3章

3-25 紳士的殴り合い

しおりを挟む
【前回のあらすじ】
 美那がテッドのシュートをファウルで止めて、テッドがフリースローを失敗。2点のビハインドを維持する。そこで攻撃権を得たZ—Fourは、チョー格好いい美那のノー・ルックのバックパスを呼び込んだリユが1Pを決める。さらにリユと美那のダブルチームでボールを奪取スティール、リユが2Pを決め、一気に逆転だ!



 得点は(Z)9対8(MC)と1点リード。
 俺が決めたゴールのボールを、テッドが拾いに行く。
 テッドのディフェンスに、俺が向かう。
 サラサラ金髪、さわやか笑顔のテッドの表情が厳しい。睨むように俺を見る。
 トップのルーシーは美那がマーク。左ウイングのペギーにはオツが付く。
 背中を向けるオツがペギーの動きに集中しているのに気づいたらしいテッドが、ペギーに高くて速いパスを出す。
「オツ! パス!」と、俺は叫ぶ。
 オツはすぐに振り返ったけど、ジャンプが遅れて届かず、高いジャンプのペギーがキャッチ。
 ペギーは、着地する前にルーシーにパスを出す。
 テッドが美那に向かってダッシュする。美那にスクリーンをかけるつもりだ。
「美那、スクリーン!」と俺。
 そのまま俺は、さらにテッドにスクリーンをかける形になる。
 俺はどうすればいい? ルーシーが飛び出してくるのを捕まえればいいのか?
 美那よりも動きが速いルーシーは確実にパスを受けると、一旦左に行くと見せかけてのロールターンで美那のディフェンスを、ゴールに向かっての右——ゴールを背にした俺から見ると左——から抜けてくる。
 思った通りじゃん!
 美那はテッドのスクリーンで追えない。
 俺はルーシーのディフェンスに走る。
 ルーシーは、俺が来るのを想定していたのだろう。俺から遠ざかるようにアークのライン上を右にドリブルしていく。
 ドリブルしてるのに、速い!
 だけど、あのスピードだと、止まって2Pシュートするのは難しくねえか?
「リユ、ペギーがダイブ!」
 美那が叫ぶ。MCモンスターズ・クッキーの気心の知れた絶妙な動きに振り回せる俺たちは、思わず、掛け声を連発している。
 だけど美那に言われた時には、俺が微妙に届かない高さで、ルーシからペギーへのループパスが出されている。
 ペギーがジャンプして、それをキャッチ。
 ただ、オツが背後でディフェンスして、中にはいられるのを抑えている。
 ペギーがペイントエリア内に押し込むも、オツが気合のディフェンスだ。
 テッドが走り込んで、ペギーをフォロー。
 ペギーからテッドに、パスが出される。
 美那は後ろから追う形で、ディフェンスできない。
 オツがテッドの対応に動いた瞬間、テッドからペギーに速いバウンスパス。
 パスが通ってしまう。
 もうダメか、と思いきや、オツがそれにも反応。
 どうやら、オツは、テッドからのリターンパスを読んでいたらしい。
 とはいえ、ペギーの動きは速い。
 オツが無理めに身体を押す感じで、止めに入る。
 ペギーのオーバーハンド・レイアップシュートはリングを捉えることなく、ボードに当たって、跳ね返り、そのままコートに落ちる。
 またまた審判の笛。
 オツのファウルだ。
 ペギーが肩をすくめる。
 オツが、すまん、という感じで、ペギーに手のひらを向ける。
 ペギーがちょっとだけ笑って、それに応え、オツの手を軽く叩く。

 オツもまた、ファウルでペギーのシュートを阻止した形だ。
 女子特別ルールで、1Pシュート中のファウルなので、2回のフリースローが与えられる。
 まあ流石さすがというか、残念ながら、ペギーは2本ともきっちり決める。
 それでも、ファウルで止めなければ、ほぼ確実にゴールを決めていただろうから、ここは確率の問題だ。ペギーだってフリースローを外すことだってあるはずだからな。

 これで、また逆転を許した。
(Z)9対10(MC)。
 でもまだ1点差。残り時間は8分9秒だ。
 ゴールのボールをオツが取る。
 仕切り直しという感じだ。
 オツが、ゆっくりとしたドリブルで、左ウイングに戻っていく。テッドがそこに付いていく。
 美那はトップに戻り、ルーシーがマーク。
 俺はペギーを連れて、右ウイングに向かう。
 正直、ナオと交代したいところだけど、まだルーシーがプレーしているから、それもできない。確か、チェックボールじゃなくても、フリースローの前なら交代できたはずなんだけど……。
 でもここは俺が踏ん張るしかない。それにキツいのは俺だけじゃなさそうだし。テッドもキツそうだし、ルーシーだってかなりへばっている感じだ。美那だって、必死な感じだもんな。オツとペギーだって、楽ではなさそうだ。
 てか、ジャックが前の2試合でかなり消耗したっぽくて、ベンチで辛そうに座ってるし。
 ナオはときどき立ち上がって、元気に声援を送ってくれるけど。

 アークの外に出たオツが、片手を伸ばして距離を取って、向き合うテッドのスティールを防ぎつつ、ゆっくりとしたドリブルを続ける。
 さあ、オツはここからどうやって組み立てていくんだ?
 と、思ったら、美那が俺を見る。
 視線が合う。
 そしたら、なんか、勝手に身体が動き出した。
 ペギーの左から、よくわからないまま中央にダイブする、俺……。
 ほんの一瞬遅れて、美那がルーシーの左側に回り込む。
 そこへ、オツからバウンスパス!
 美那がキャッチするも、ルーシーがきっちり付いている。
 俺はそのままペギーの圧を受けながらも、ゴール下近くまで走り込む。
 美那は左サイドを向いてドリブルでじりじりとゴールに近づいてくる。背中でルーシーのディフェンスを遠ざけている。
 膠着こうちゃく状態におちいったのかと思ったら、そこから美那が一気に動く。
 スピードを急に上げてゴールの左下まで走り込んだ美那は、ルーシーを背負いながら、勝負をかける。
 左手でのレイアップシュートの態勢で、ジャンプ。
 ルーシーも飛ぶ。シュートを阻止しようと、左手を上にぐっと伸ばしている。
 ボールをはなつと同時に、美那が叫ぶ。
「リユ!」
 美那の投げたボールは、バックボードの四角の中央に当たって、俺の方に跳ねてくる。
 そうか、リバウンドのポジション的には、ペギーよりも俺が有利な位置だ。
 ペギーの圧力を背中で押し返しながら、ジャンプ一番。
 美那から託されたボールをしっかりキャッチ! そして、着地。
 間髪入れず、そのまま飛んで、シューーート。
 のはずが、後ろからペギーに腕を弾かれる。
 ボールはきちんと投げられず、下に落ちる。
 で、審判の笛。
 今度は、ペギーがファウルで止めに来たのかぁ!
 ペギーが俺の肩を叩く。
 俺は手を上げて、それに応える。
 なんか、とっても紳士的な殴り合いって感じだぁ!!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

放課後はネットで待ち合わせ

星名柚花(恋愛小説大賞参加中)
青春
【カクヨム×魔法のiらんどコンテスト特別賞受賞作】 高校入学を控えた前日、山科萌はいつものメンバーとオンラインゲームで遊んでいた。 何気なく「明日入学式だ」と言ったことから、ゲーム友達「ルビー」も同じ高校に通うことが判明。 翌日、萌はルビーと出会う。 女性アバターを使っていたルビーの正体は、ゲーム好きな美少年だった。 彼から女子避けのために「彼女のふりをしてほしい」と頼まれた萌。 初めはただのフリだったけれど、だんだん彼のことが気になるようになり…?

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

深海の星空

柴野日向
青春
「あなたが、少しでも笑っていてくれるなら、ぼくはもう、何もいらないんです」  ひねくれた孤高の少女と、真面目すぎる新聞配達の少年は、深い海の底で出会った。誰にも言えない秘密を抱え、塞がらない傷を見せ合い、ただ求めるのは、歩む深海に差し込む光。  少しずつ縮まる距離の中、明らかになるのは、少女の最も嫌う人間と、望まれなかった少年との残酷な繋がり。 やがて立ち塞がる絶望に、一縷の希望を見出す二人は、再び手を繋ぐことができるのか。 世界の片隅で、小さな幸福へと手を伸ばす、少年少女の物語。

Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説

宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。 美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!! 【2022/6/11完結】  その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。  そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。 「制覇、今日は五時からだから。来てね」  隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。  担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。 ◇ こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく…… ――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――

転校して来た美少女が前幼なじみだった件。

ながしょー
青春
 ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。  このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。

貧乳姉と巨乳な妹

加山大静
青春
気さくな性格で誰からも好かれるが、貧乳の姉 引っ込み思案で内気だが、巨乳な妹 そして一般的(?)な男子高校生な主人公とその周りの人々とおりなすラブ15%コメディー80%その他5%のラブコメもどき・・・ この作品は小説家になろうにも掲載しています。

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

勿忘草~尚也side~

古紫汐桜
青春
俺の世界は……ずっとみちるだけだった ある日突然、みちるの前から姿を消した尚也 尚也sideの物語

処理中です...