カイリーユと山下美那、Z(究極)の夏〜高2のふたりが駆け抜けたアツイ季節の記録〜

百一 里優

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第3章

3-24 逆転

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【前回のあらすじ】
 2対2の同点から、MCモンスターズ・クッキーによる未知のフォーメーションでルーシーに守備網を切り裂かれ1Pを決められてしまう。ペギーにも2Pを許し、開始1分足らずで8失点したリユたちZ―Four。そこからリユの変則攻撃で美那の2Pを引き出し、2点差に詰め寄る。
(今回は更新が遅れ、誠に申し訳ありません……)


(Z)6対8(MC)で2点差。
 残り時間は8分57秒と、たっぷりある。時間はたっぷりあるけれど、この調子だとKO勝負になりそうだ。

 ゴール後のボールはテッドが確保する。
 テッドから、トップに向かってダッシュするルーシーへのループパス。
 パスは通ってしまうが、美那がディフェンスに入って、ルーシーがアークの中に再突入するのを防いでいる。
 右ウイングに戻るテッドには、近くにいた俺がそのまま付く。
 左ウイングに動いていたペギーは、オツがマークしている。

 トップでルーシーと美那が対峙たいじしている。
 低い姿勢のルーシーが、独特のリズムのドリブルをその場で続ける。美那もなかなか手を出せない。
 その美那が手を出そうとした瞬間、ルーシーが動く。
 ドリブルで右に抜けるフェイントをかけて、左のペギーにパス。
 ルーシーはそのまま、美那の右側から鋭くカットインする。
 一瞬遅れた美那もルーシーを追う。
 ペギーにパスは通されたものの、オツがしっかり抑えていて、パスは出させない。
「リユ! ルーシー!!」
 美那の声が耳に届く。
 ちらっと振り向くと、ルーシーがこっちに来ている!
 ってことは……テッドがカットイン?
 それがわかった時には、もうルーシーにスクリーンを掛けられていて、俺はテッドを追えない。
 オツのディフェンスを破って、ペギーがループパスを出す。
 走り込んだテッドがそれを受ける。
 テッドのディフェンスには美那が回っている。
 美那とテッドでは、体格差は如何いかんともしがたい。

 と、思ったけど、美那はテッドに果敢にアタック。
 身体を張って、シュート阻止そしを試みる。
 体勢を乱したテッドはシュートを上手く打てず、ボールはボードの下側に当たって、そのまま落ちる!
 けど、審判の笛が鳴る。
 まあ、さすがにあれはファウルか……。
 てか、美那のやつ、わざとファウルで止めたんだろうな。

 審判が指を1本上げて、テッドに1回のフリースローのボールが渡される。
 左側のフリースローレーンの奥にはオツ、その横にペギーが並ぶ。俺は美那に指示されて、右側の奥。そして、ルーシー、美那。
 3回ボールをバウンドさせてから、テッドが、フリースローを放つ。
 ボールはリングの根元の方に当たって、外に弾ける。
 ミスったぁ!
 美那の作戦勝ち、ってことか?
 テニスはコンタクトスポーツじゃないからファウルはなかったけど、これがバスケの世界なんだろうな。美那とに行ったプロの3on3の試合もそうだったし、サッカーとかも、ファウル覚悟で止めに行く、とかよくあるもんな。

 こぼれたボールはペギーに競り勝ったオツがゲット。
 Zに攻撃権が移る。
 美那がテッドの脇を走り抜けてトップに戻り、俺は右ウィングに広がる。
 テッドが美那のディフェンスに回り、ルーシーが俺のマークに付く。
 アークの外でテッドの左側にうまく回り込んだ美那が、オツからのパスを受ける。
 すかさず美那はロールターンを使って、俺のいる右から、ドリブルでゴールに向かって突っ込んでいく。
 俺は美那の動きをフォローして、アークに沿って右の奥へと走る。もちろんルーシーも付いてくる。
 一瞬、美那と視線が合う。
 ストライドの大きいテッドが、美那に追いつく。
 シュートは厳しいか⁈
 それでも美那は果敢にシュートに飛ぼうとしている?
 もしかしてシュートフェイント?
 だとしたら……。
 俺はいちばちかで、ルーシーのすきを突いて、美那に向かってダッシュ。

 走りながら俺は、「カイリーーーユ!」と、ハンバーグ芸人の一発芸みたく叫ぶ。
 美那が強引にシュートに飛ぶ。
 でも、コースは、ほぼ完全にテッドにつぶされている。
 すると美那は、レイアップ用に持っていたボールをスッと持ち替えて、ノールックで背面の俺にパスを出してくれるっ!
 やるじゃねえか、美那!! 俺の無言(?)の要求通り。さすが、カイリー・ファンだぜ!
ワットWhat?」という、ルーシーの声が背中に聞こえる。
 ルーシーにディフェンスの時間を与えず、俺は速攻でミドルシュート。
 見上げる美那とテッドを越えたボールが、バスケットに吸い込まれていく!

 ギャラリーから、「オォーッ」と、どよめきの声が上がる。
「っしゃぁっ!」
 思わず、叫んでしまう。
 美那はこっちを見ずに、サムアップ。すぐにテッドへのディフェンスに入る。
「ナイスパスッ、美那さ~ん!」
 またまた中バス女子だ。
「お兄さんも、ナイッシューナイス・シュート!」
 と、たぶんもう一人の方。
 なんか、ちょっと照れるぜ。

(Z)7対8(MC)。
 結構あっという間に1点差まで追い上げた。
 残り時間は8分38秒だ。

 ドリブルでトップに戻ったテッドが、これまた独自のリズム感のドリブル技で美那を幻惑。
 それにしても、MCの面々めんめんは、個性的というか、みんな独自のリズムを持っているよな。Scスクリプツにしても、Cuキュームラスにしても、技術は高いし、それなりにタイミングはズらしてくるけど、なんていうか身体で持っているリズムがおんなじ感じなんだよな。
 テッドはそこから、左サイドでオツのマークを受けるペギーにパスを出す。
 パスを受けたペギーがオツにまたまた1on1を挑む。
 どうもオツは、ペギーのドリブルが苦手らしい。
 いいように翻弄ほんろうされているっぽい……。性格が割と単純だからなぁ。
 ちらっと見ると、ペギーが2Pを打つ素振そぶりにオツが反応。
 今度は、右サイドにいる俺の前のルーシーが、カットイン!
 俺は、身体をひねってえてバランスを崩した勢いで、ルーシーを追尾する。
 しまった。一瞬、出遅でおくれたぁ。
 ペギーからパスが出ている。
 ルーシーがパスをキャッチ。
 追いついた俺は、後ろからディフェンスのプレッシャーを掛けて、シュートを打ちにくい、ゴールの真下付近に追い込む。
ルーLu
 今度はテッドが、フォローに飛び込んでくる。
 ルーシーは、テッドにパス。
 フリースローライン辺りでパスを受けたテッドが、そのままミドルを放つ。
 ちょっと長い、っぽい気はするが。
 入るなよ!

 テッドのシュートは、リングの付け根付近に当たって、ボードに跳ね返される。
 ゴール下から予測で動いていた俺と、シュートを打ったテッドの、リバウンド争いだ!
 位置的には、ボールを待ち構えるテッドが有利。
 ボールはテッドに取られてしまう。
 だけど俺は前に立ちはだかって、次のシュートは打たせない。
 いや、10cm近い身長差があって、上からのシュートを防ぐのは難しい……かも。ただ、プレッシャーを掛けることはできる。
 その場でドリブルをするテッドは、ドライブで行くか、シュートを打つか迷っているみたいだ。
 テッドの息は結構上がってる。それは俺もだけど。
 てか、フリースローはあったけど、さっきからほとんどプレーが切れてないじゃん!
「テッド!」
 後ろからルーシーの声。
 しまった、ルーシーがフリーだ。
 ビタ一文いちもん、パスは通させん! 意味不明だけど。

「リユ!」
 テッドの向こうから美那の声。
 美那がテッドの背後に回っている。
 俺と美那のダブルチーム状態だ。
 それに気づいてテッドの集中力が切れた一瞬、俺はボールをタップ。
 美那の方にボールを飛ばす。
 テッドが思わず、「XXXX」と、フォーレターワードfour-letter wordを小さく叫ぶ。
 キャッチした美那が、アークの外の左ウイングにいるオツにすぐさまパス。
 これでZが攻撃権を確保だ。
 オツから美那にリターンパス。
 右サイドに戻る俺に美那からパスが来る。
 パスは受け取ったけど、ルーシーがディフェンスに戻ってきている。
 俺がルーシーに勝てるとしたら、なんだ?
 スピードか?
 だけどドリブルをしたら、そのスピードも生かせねえ。もっと練習しねえと……。

 と、美那がカットイン。
 ルーシーが美那に気を取られる。
 その隙にパスを出そうとしたら、美那が叫ぶ。
「リユ! 打って!」
 そういうことかよ、美那。
 俺はステップバックして、2Pシュートを打つ。
「ノーー!」
 ルーシーが悔しげに言って、ボールの行方を目で追う。
 我ながら綺麗な弧を描いたボールは、バスケットにスポッと入っていく。
 うっしゃっ!

 2点追加。
 これで得点は、(Z)9対8(MC)。
 なんと、逆転だぜ!
 残り時間は8分20秒。
 どうなっちゃうんだ、この試合?
「リユ、美那、ナイスだ!」
 オツからお褒めの言葉が飛んでくる。
 それにしてもオツのやつ、思いっきり楽しそうな顔してるし……。
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